ダンジョンでの生存者
小さくなった? ユアは俺の周りをくるくる回りながら飛び回り、まるで子供みたいな表情で笑っていた。学校にいるときの、あの清楚で大人のような雰囲気はどこにもない。
「本当に、ユア? 」
俺はもう一度、当たり前の疑問を彼女に尋ねた。
「うん! そうだよ! 正確には、私の分身なんだけど」
「分身……」
夢なら覚めてくれ。
「大丈夫。私がそばにいる以上、天音はちゃんと生還できる! 」
彼女はいつもよりも一つ二つ高いテンションで、まだ俺の周りを飛び回ってこういった。俺はそれを目で追いながら、さらに疑問を投げかける。
「な、なあ。そもそもなんでこんなことになってるの? 」
「私の正体を教えてあげる。その代わりに、あなたはここでのサバイバルを成功させる。でしょ? 」
「い、いいよ。そんなの教えてくれなくていいから、早く帰してよ。助けに来てくれたんじゃないの? 」
「ふふふ、だーめ! 」
そう言って、彼女は小さな顔を俺の目のすれすれまで近づけてきた。その小悪魔っぽい表情は、本当に俺が知ってる桃色ユアとは思えない。
心配した顔で、モンスターに襲われていた俺を助けてくれた、抱きしめてくれた彼女とは人が全然違う。
もしや、このユア、モンスターがさっきみたいに化けてるんじゃ……
「あは! その顔、私のこと、モンスターだと思ってる? あんな目に会ったばかりだもんね! でも、そこは心配しないで、ちゃんと私だから」
そういうと、彼女は俺から見て左斜め前の方向を見て、突然指をさした。
「ん! 」
「はい? 」
「私が指さしてる方向にまっすぐ歩いて行けば、なにかいいことありそう! いこ! 」
「いこって……」
俺は頭をかいて、ユアを見た。正直、このわずかな時間で俺の幼馴染に対する不信感は一気に上がり続けてる。
というか、今の妖精みたいな格好をした彼女は、昔から彼女を知る俺からしたら全然ユアじゃない。
と、いろいろ頭の中で考えていると、突然、前から誰かに引っ張られてるような感覚になった。焦って顔を上げてみると、ユアが俺の右手を握って本当に引っ張ってる。
その手のひらサイズの体から出る力とは思えない力で。
「ちょ! 」
「ほら! いくよ! 」
「いやだー! 」
結局、諦めて俺はユアの言う通りに動くことにした。ユアは相変わらずちょこまか飛び回りながら「ねえ、あのモンスター、スズメにそっくりじゃない? 」とか言いながら、進んでいた。
この感じを見ていると、なんだか小さいころに彼女と遊んでた頃のことを思い出す……
「ねえ、みてみて! テントウムシ! 」
幼かったユアは、隣の家に住んでいる俺とよく遊んでいた。今とは完全に立場が逆で、俺がお兄さんで、彼女が妹みたいな感じ。
中学生くらいから完全に立場が入れ替わって、一緒に遊ぶことも減った。
今、俺の目の前に小さな姿で現れた彼女は、まさしく、その頃に戻った感じだ。
本当に、一体何が……
「ねえ、ねえってば! 」
「え、え! な、なに? 」
「なにぼけっとしてんの? 素敵な場所に着いたよお~」
彼女にこう言われて、俺は自分の妄想の世界から帰って来た。どうやら、知らないうちに俺は結構な距離を歩いていたらしい。
けど、今はそんなことはどうでもよくて。
「す、すごい」
俺の目の前には、今まで見てきたのとはまた違う、神秘的な光景が広がっていた。
緑がどこまでも続く世界から抜け出して、天井から太陽の光が入ってくる開けた場所に来た。といっても周りを見てみると木々に囲まれているから、森の中にいるのは間違いない。
けど、家、みたいな建物がいくつも置いてあったり、食料を積んでいたらしき倉庫があったり、まるで、森の中に小さな村を作ったみたいな空間。
「カメラあったら、撮影できたのに」
「ねえねえ、なにか使えそうなものがいっぱいあるよ! 探索しないの? 」
ユアがちょっと興奮気味の高いトーンでこう言ってきた。俺は、言われずとも、のいきおいで、その開けた空間に入っていった。
モンスターだらけで、人間が作ったっぽい物がいっぱいあって嬉しかったってのもあったけど、普通にこういうのには興味がある。
「ここには、もしかして人が集まって生活してたのかな」
「そうみたいだね。生存者がお互い生き抜くために、ここを隠れ家として使ってたのかもね」
「すごい。配信者としての血が騒ぐ! 」
「あら」
「いや~。でも、ここにあるものが何年前に使われたものなのかとか分かればいいんだけどなあ。文系だから無理か」
俺がそうやってその辺にある皿とか剣とかをベタベタ触りながら言った。すると、ユアが俺の近くまで飛んできて、興味津々にその皿とかを一緒に眺めた。
最初はふむふむと、彼女は見ていた。
だけど突然、彼女は不穏なことを言った。
「あれ? 天音。これ、ついさっきまで使ってたみたいだよ? 」
「え」
顔を真っ青にしてこう声を漏らした瞬間、俺の顔に、何か刃物がゆっくり当たった。冷たい感覚がした頬に目をやってみると、銀色の鉄が当たっていて、その先に赤い血がついている。
「う、うわああ! 」
俺は驚いて、その場から勢いよく後ずさりした。
そして目の前を見てみると、そこには、剣を持った、俺と同じくらいの男子が立っていた。
「誰だ、お前ら。人間、か? 」
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