勇者になる誓いとデート

「いいねえ、似合ってるよ! 」


 カーテンを開けると、桜色ユアが手を合わせてこう言ってきた。慣れない服を着せられたのもあって、結構時間かけてしまったけど、あんまり気にしてないみたいだ。


 長い袖をさわって、満足そうに眺めたりしている。


「……これで俺にどうしろと? 」


「ん? 言ったじゃん。勇者になってって。今日からその服を着てモンスターと戦うんだよ? 」


 俺は着せられた服をもう一度自分で見てみた。アニメで出てきそうな勇者っぽい服装。ブルーがよく目立つデザインに、長袖長ズボンの暑苦しい格好……


 おもちゃの剣を腰に刺して、もうどう見てもただのコスプレ衣装だ。


「これで? 」


 首をかしげてユアに聞いた。


「うん! 」


「……」



 わざわざ幼馴染のユアとショッピングモールに行ってこんなコスプレ衣装を選んでいるのは理由があって、それはあの事件のときまでさかのぼる。




「ゆ、ユア? 」


 モンスターがきれいさっぱりいなくなった草原に立っていた桃色ユアに、俺はそう呼びかけた。彼女の方はでっかいバズーカーみたいな武器をそのあたりに置いて、お俺に近づいてきた。


 そして、そっと抱き着いてくる。


「!! 」


 俺は思わず、顔を赤くしてしまった。


「心配したんだよ? どうしてひとりでこんなところに来たの? 」


 彼女の涙交じりの甘い声が、顔のまじかで響いてくる。そしてその細い手をゆっくりと俺の頭に回して、撫でてくれている。


 まずい。幼馴染相手に、鼓動が高鳴りすぎて、破裂してしまいそうだ……


「お、俺、別に」


「別にじゃない! どれだけ心配したと思ってるの? 」


「わ、わかった……でも、ちょっと、話して……苦しい」


 どんどん強くなる彼女の抱きしめる力に、俺は耐えられなくなってこう弱々しくつぶやいた。すると「あ! ごめん! 」と焦ったように言って、ユアは俺を腕から解放した。


「私、何も考えず」


 というか、今明らかに人間の力じゃなかったぞ。




 この後、彼女は気分転換と言って、このダンジョンの、比較的安全な帰り道を案内してくれた。その途中、ユアが知っていること、そもそもなんで俺がここにいることが分かったのか、いろいろ聞いた。


「ねえ、本当に大丈夫? 天音、顔色悪いよ? ご飯食べた? ちゃんと呼吸できてる? 」


「ああ! 俺、赤ちゃんじゃないから。それより、質問に答えてよ」


 俺がそういうと、彼女は一旦黙った。そして何故か悲しそうな顔をして、もう朝日が昇りかけてる空を見上げる。


 そしてそのあと俺の顔をじっくり見てきたと思ったら、そのままそっと口を開いた。


「実は私、人間じゃないの」


 ……知ってた。


「その、私……もーう!! 」


「え!? 」


 何を言い出すのかと思ったら突然、彼女はまるで子供みたいに奇声を発する。俺が驚いたような顔で彼女を見ると、その赤くなった頬で「なんでさ! 」とか言ってる。


「あの、一体どうしたというのですか? 」


「私の隅々まで見たいの? そういうことなの? 」


「いや、そうじゃなくて」


「もーう! しょうがないなあ! 」


 まるで、というかお酒が入った大人みたいに絡んできた。


「そしたら、このダンジョンで一日サバイバルして、見事生き残ることができれば、私のすべてを教えてあげる! 」


「は? 」


 困惑する俺の腕をつかんで、彼女はどこかに歩きだした。力が強すぎて、いくらじたばた暴れても無駄だ。


「ちょっと、本当にどこに行くの? 」


「大丈夫! 天音ならいける! だって、勇者の才能だあるんだもん! 」


「ちょ! 」


「ダンジョンの最深部へ、いってらっしゃい! 」


「うわああああ! 」


 突然、俺の目の前に時空の穴みたいなのが開いて、彼女はそのまま俺をその穴に突き落とした。彼女は最後に俺に「がんばって! 」とだけいっていた。


 




 


 


 

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