学園一の美少女と世界一の人間
ズーン……
お月見高校学校、一年三組の教室には、緊迫した雰囲気が走っていた。
授業も終わって休み時間だというのに、俺を含めた生徒全員が、教壇に立っている男女二人をずっと注目している。ある男子生徒は賢明な表情で、また別の女子生徒は胸に手を当て、まるでドキドキしているみたいに。
「……がんばれ」
どこからともなく、こういう言葉も聞こえた。
さて、俺たちは一体、どんなものを見せられているのだろうか……
「あの」
男子の方が、思い切って小さく声を出した。すると誰かが「キャッ! 」と叫ぶ。いや、ライブかよ。
「なあに? 」と彼とは対照的に、女子の方が余裕の表情で首をかしげる。
まだ学校に来てない一人を除くと全クラスメイトからめっちゃ見られてるのに動揺もしないのは、さすがだ。
多分、この二人の現在の立ち位置は、まさしく、レベル1のスライムと、レベルMAXの魔女って感じ。
「実は、ずっと好きでした! 付き合ってください!! 」
ここで、レベル1のスライムこと男子が、必殺技を発動するごとく告白した。祈るように目をつむり、その無謀な右手を彼女の前に差し出す。
僕が知る限りでは、あの男子が今ほど一生懸命な瞬間は無かった。
そしてその熱意を感じた観衆たち(普通にクラスメイト)がのぞき込むように女子を見つめる。
さて、結果は……
「ごめんなさい」
「え」
無慈悲な回答が即座に帰ってきて、男子の方はまるで魂を失ってしまったような表情に変わった。クラスメイト達も、予想できていた事態とはいえ、一瞬凍ったような雰囲気になった。
これが、スライムと魔女の実力差……
戦いに敗れたスライムを励ますために、観衆たちは彼を取り囲み、「大丈夫」「がんばったな」的な言葉を送る。
きっと、また次なる挑戦者が、勝利をつかめるように、彼らはこれからも、戦い続けるのだろう。
……アホくさ。
告白イベントが終わると、ついさっきまでの緊迫していた雰囲気は嘘みたいに消えた。みんなそれぞれのグループでまた会話を始めて、いつもの教室の感じに戻った。
俺も何事もなかったかのように、途中まで読んでいた「賢くなる方法」という本を開く。
もう、毎回のように誰かが告白してはフラれてるから、俺らはたぶんこの展開に慣れきってしまってるんだ。
「やっぱ、駄目だったか。まあ、ドンマイ」
ほら、あのスライム男子を迎え入れたグループも、やっぱ、とか言ってる。
「いやあ、学園一の美少女は手ごわいぜ。一秒も考えることなく拒否られたからな」とスライム男子。
「でもまさか、今まで20連勝のたつやがダメとか、逆に誰だったらオーケーするんだ? 」
「あれじゃないか? そもそも恋愛に興味ないとか」
「かもな……いや、待てよ。もしかしたら」
と、スライム男子ことたつやが言葉を止めて、突然、二つ後ろの席に座ってる俺を振り返ってきた。なんだかニヤニヤしていて、気味が悪い。絶対ろくなこと考えてない。
俺は気づいてないふりして、まるで
けど、彼はお構いなしに俺の机までやってきて、こういってきた。
「おい、天音。次、ユアにコクれ」
「は? 」
たつやの言葉に、俺は思わず割と大きい声で反応してしまった。その様子を見た彼のグループが、ぞくぞくと「なんだ? なんだ? 」と集まってくる。
俺はあっという間に、囲まれてしまった。
「たつや、それはかわいそうだって! 」ひとりが笑いながらつぶやく。
「いつもボッチでいるこいつだぜ? 無理に決まってんだろ! 」
好き勝手言ってくれるな。
「だから面白いんだよ。それに、天音、ユアと幼馴染らしいし。ワンチャン? 」
「マジ? おっしゃ! イケ! イケ! 」
イケ! イケ! イケ!
「イケ! 」の大合唱が始まった。広い教室で、基本的にずっと静かな僕の席とその周辺が、この瞬間はたぶん一番うるさい。
ほかのクラスメイトが、「なんだ? なんだ? 」って感じで見てくる。
さすがに恥ずかしいし、めんどくさい。
けど、ここから、さらに最悪な出来事が起こった……
ガタン!
教室の扉を勢いよくスライドさせて、最後のクラスメイトがこのタイミングで入って来たんだ。するとみんな途端に警戒したように静かになって、そのクラスメイトに次々と道を譲る。
だんだんと俺の席の近くに歩いてくると、俺を囲んでたグループも離れた。
いいタイミングというか、悪いタイミングというか……
いつもマイペースな時間に登校してくるクラスのボス、横道ライジン。今日も邪気を放つ悪魔を連れている。この世界で彼のみが持つことを許されている、モンスター。
そんな彼は、俺の近くまできて、にらんでくる。
「な、なに? 」
「黙れ」
ドス!
「うわ! 」
ライジンが、いきなり殴ってきた。
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