危険な企画

――あ、まだやってるんだ――


 いつもの挨拶をすると、視聴者がコメント欄に必ずこう書きこんで、俺の配信は始まる。配信とか言ってるけど、実際はいっても百人くらいしか見ていない弱小チャンネル。


 まあ、ライブ配信一本でなおかつ投稿頻度も不定期にしては上手くやれてる方だと思う。


 もちろん、やるからには人気者になりたい、ってのはあるけど、今の俺のこづかいだと設備整えるだけで精一杯。企画になりそうなものなんか買う金ないから、趣味だと思ってあきらめてる。


――お前、いい加減仮面外せよ――


 コメント欄にこんな言葉がふと流れた。


 俺は身バレしたくないから、顔は段ボールで作った仮面で隠して、そして部屋のカーテンも絶対に閉めている。だから多分、向こうから画面越しで見えるのは、せいぜい普通の部屋で独り言漏らしてる変態。


 まあ、顔出しもしてないのにバズるわけないよな。


 でもいいんだ。この場所では、俺はずっと生き生きとしていられる。


 俺はいろいろ思いつつ、コーラの入ったコップ片手に、さっそく雑談を始める。



――アマネルってさ、カノジョとか作んないの? ――

 

「作れないんだよ。陰キャだし」


――お前学生だろ? 受験とか大丈夫なん? ――


「エレベーターだから」


――ゲーム実況とかやれよ――


「無理だよ。ただでさえゲーム下手なんだし」


――バズる要素皆目ねえなwww まあ、これやるから頑張れよ――


 チャリーン(スパチャ)。



 こんな感じでしゃべってたら、あっという間に一時間過ぎていた。ちょっとパソコンの横に目を向けてみると、そこには散らかったお菓子の袋とかコーラをこぼした跡とかでいっぱい。


 ……これは片づけ大変だ。


「じゃあ、そろそろ終わるか」


 そう言って、俺がライブを閉める準備をすると、最後まで残っていた数人が、おやすみ、というコメントを残していった。


 一応、俺はその人たちの名前を呼ぶ。


「トトさん、サンキュー。しじみさん、じゃーねー。クマのお腹さん、シーユー。鶏肉にソーメンがかかった可哀そうな……君相変わらず名前長いね。明かりさん、ん? なになに? 」


 呼んでいる途中、明かり、というアカウントが、おやすみ、というセリフの後に、何か長いコメントしているのが見えた。この人はいつも見に来てくれる人だけど、どうしたんだ?


 ――ねえ、いろんな人に見られたいんだったらさ、一回、立ち入り禁止エリアに行ってみれば? あの、モンスターが住んでる場所――



 このコメントを読んでいると、気が付けば視聴人数はゼロになっていた。みんなきっともう寝てしまったんだろう。


 ……あそこ、か。


 モンスターが住んでいる場所、なんてひとつしかない。この世界に突如として出現した、巨大な森。通称、ダンジョン。そこには奇怪な生物たちがいて、実際、迷い込んだらもう帰ってこれないという。


 でも、見事生還して、しかもモンスターを服従させた男もいる。


 横山ライジン、あいつ。


 

「ワンちゃんあるってことか」


 

 俺はちょっと、身近な人が帰ってこれたという事実を知っているから余計に、いけるような気がしてきた。

 

 なにより、もしそれができたら有名人にもなれて、ライジンにも復讐ができるんじゃ?



 電源を切ったカメラをもう一度片手に持って、俺は外に出る準備をし始めた。たしか、その立ち入り禁止エリアは割とここから近くて、歩いて三十分くらいでいける。


 この時間だと警備も甘いし、いける!


 出発しよう。


 


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