第2話
「下着検査なんて止めるべきです」
話の相手は田中校長。
禿げ頭が特徴的な中年男性だ。
「まあまあ山谷先生、あなたの怒りは分かりますが、これも大切な生活指導の一環ですよ」
「怒ってるわけじゃありませんよ。どう考えてもおかしいから、おかしいと申し上げてます」
「んーなるほどねぇ」
少しだけ考えるそぶりを見せながら、そうだ! と提案してきた。
「じゃあ今後は校門での抜き打ちでの検査は無しにして、各クラス毎のみでの実施にしましょう!」
どうやら下着検査をやめるつもりはないらしい。
「……それはどういう意図があるのでしょうか?」
「ずばり山谷先生は、かわいい教え子たちの下着を、他の先生に見られるのが嫌だからお怒りなのですよね?」
「いや、そういうわけじゃ——」
「それ以外の解決策は思いつかないなぁ僕には……オシャレは大人になってからやればいいんじゃありませんか。拍亜にいる間は、拍亜にふさわしい格好をしてもらうのが、ここのルールですからね」
「けど、スカートの中まで確認されるなんて、嫌がれるに決まってるじゃないですか」
「僕たちは教師。多少嫌われても、子供たちの将来のために約束事をきちんと守らせるのが大人としての役目。これも立派な仕事ですよ」
しばらく食い下がって話を続けるも、どうやら下着検査を止める気は無いようだった。
***
帰りのHRの時間。
「女子に向けて話があります。服装についてです」
ちなみに男子は先に帰らせていた。
後日男子だけにも同じ話をするつもりだ。
2度手間に聞こえるかもしれないが、性に関する話題はデリケートなのだ。
「この拍亜では、白い下着以外認められないそうです」
教室が騒がしくなる。
「……は?」
「えええ! 何で??」
「はいぃ??」
「やっば」
ごくごく自然な反応だ。
「下着の確認を毎日行い、白い下着でない人には指導を行わなくてはいけません」
教室に緊張が走る。
「ああああ、りょう君にも見せたことないのにぃ」
「やだ恥ずかしいって絶対!」
嫌悪を示す者がほとんどだ。
見られてうれしいはずがないし、下着の色ですら学校に管理されるのだ。
平気な者は一人だっていないだろう。
そもそも俺は教師である前に男だ。
恋人でもない異性に見せたくないのは、当然である。
「もしかして、あの竹刀の先生に見せなきゃいけないんですか……?」
平川さんが質問する。
不安そうな表情をしていた。
あの先生が相手じゃ怖くて当然だろう。
俺はできる限りの優しい声で、平川さんに答えた。
「いいえ、古居先生に見せる必要はありません。下着検査はクラス内だけの実施に変更されるそうです」
俺と校長との交渉での、唯一の成果を伝える。
「よかったぁ……本当にあの先生じゃなくて」
平川さんは安堵の表情を見せる。
クラス内で意見交換が活発になる。
「え、でも山谷先生には見せなきゃいけないんでしょ」
「どうなんですか先生! 先生にも見せなくちゃいけないんですか?」
女子の中でも背が高く、凛々しくて美しい、老若男女のだれもが魅力的に見えるだろう女子、末広里奈(すえひろりな)が俺に質問した。
俺は、真剣な眼差しで答えた。
「いいえ末広さん、俺は、皆さんの下着を検査することはありません」
「「え」」
「皆さんの自由意思を尊重したいと思います。このクラスだけはそうしたいです」
皆が目を丸くする。
「自分はこの学校に来たばかりで、こんな校則があることを今日知った立場です。
こんなやり方で皆さんを辱めるのは私自身間違っていると感じました」
俺は皆に、教師陣を説得しようとしたが相手にされなかったことを伝える。
静かに聞き入ってくれていた。
「実際の検査こそしませんが、学校には検査済みですと伝えるつもりです。
皆さんもそのことがバレないように、配慮いただけると助かります」
俺の話が終わった瞬間、女子は喜びの声を上げそうになる。
「しー、聞こえちゃまずいですよ」
自分の注意を皆は守った。
女子達は小さな声で、「よっしゃ」「山谷先生でよかった」「本当によかった」と、喜びを分かち合う。
「念のためにいいますが、検査はしないけど、下着はなるべく白の物を選んでくださいね」
「「はーい」」
みんな安堵の笑みで返事するのだった。
***
「今日の報告は以上です」
「……校長。この新任の先生は本当に信用なるのですか?」
「まあ、まだまだ未熟なだけだとは思いますが……」
「いいですか。口酸っぱく言いますが、身なりの乱れは心の乱れ、ですよ。白亜の規律を守らせるのは教師の使命です」
「理事長……何をお考えですか?」
「信用に足るかどうか、テストが必要ですね。……私直々に」
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