第8話

 江口さんはスカートを上げることを強くためらっていた。


 その上、謝罪までしている。


 俺はその理由に思い至る。


「……白いパンツを履いてないんだね」


 江口さんはコクリ、とうなずく。


「正直に言ってくれてありがとう。大丈夫、それが分かってるならスカートの中を見せる必要は無いからね」


「せ……先生……」


 こわばってた顔が緩む。


 見せなくて安心したのだろう。


「ぁ……ぁりが——」


「何を言ってるの? ちゃんと皆の前で見せなさいよ」


 理事長が物申す。


「そんな……なぜ」


「良い悪いの判断するのは、生徒本人ではありません。私たち教育者でしょ?」


「……ぅぅ」


「泣き顔しても無駄よ。さあ山谷先生、あなたがスカートを持ち上げて何を身に着けているのか確認するのよ」


「そんなことをするわけには——」


「いつまで私の時間を奪う気なの? 早くしなさい」


 俺は江口さんの顔を見つめる。


「……ぉ、お願いします」


「いいのか」


「一人じゃ、こわい、けど……先生が、手を握ってくれる……なら……」


 俺は意を決した。


 江口さんのスカートを抑える両手と自分の両手で、スカートの布地をやさしくつかむ。


 江口さんの手と合わせながら、徐々にスカートをめくっていく。


「あ……」


 か細く、白い肌があらわになる。


 そして、パンツの布地が見えた時、俺はえっ、と驚く。


 そして見た瞬間に、俺の股間の血圧が急上昇する。


 なぜならば——


「紐パン……なのか」


 桜色。


 そして両端はリボン結び。


 なにより、布地が小さく、江口さんの恥部以外は隠れてなかった。


 ある意味、全裸よりもセクシーだと言えた。


「いや、見たことあるぞ……これは確か」


 間違いなく記憶に残っている。


 土曜日、ランジェリーショップで末広さんと本田さんが見つけた下着だった。


 なぜこれを江口さんが——?


「ご、ごめん……なさい……先生——」


 清楚清純で、大人しく、物静かな少女。


 けど、そのギャップを強く感じさせる紐のパンツ。


 俺の理性が爆発しかけるが、俺以上に、ほかの女子生徒達も興奮していた。


「え、すっごくかわいい」


「江口さん、こんなのつけたんだ」


 理事長がいるので、小声でひそひそと話す。


 特に、末広さんと本田さんは、俺と同じことに気づいたのか、ただただ驚いていた。


「……ふうん」


 そして、理事長は、突然江口さんの後ろに回り込んだ。


「え……きゃあ!」


 なんと、江口さんのスカートを後ろからめくったのだ。


「あ……あぁ……」


「山谷先生、これを見なさい」


 俺は理事長の言う通り、江口さんの後ろに回り込んだ。


 白くて、つやつやで、小ぶりで、柔らかそうな、おしりが見える。


 布地が細く、丸見えといっていいほどだった。


「江口さん。あなたは男を誘惑するために、この学校に来たのかしら?」


「ち……ちがいま……す……」


「ふん! 言い訳だわ」


 理事長は江口さんのスカートをめくったまま、皆に説教する。


「この拍亜は、おしゃれを楽しむ場所じゃありません。学業にいそしむ為の神聖な学び舎です。こんな売女<ばいた>のような恰好を許しては、あなたたちの将来ロクなことになりませんからね」


「……売女、だと?」


 この時の俺の形相は、鬼のようだったに違いない。


「何? また文句があるのかしら?」


「いっていいことと、悪いことの区別もつかないんですか。江口さんはまだ中学生になったばかりですよ」


「関係ない。さっさとそれを没収しなさい。出来なきゃ即刻、クビよ」


 なぜ話を聞こうともしない。


 俺はそう言おうとしたとき


「山谷せんせーはとてもいい先生です! やめさせないでください!」


 平川さんが、理事長に向かって抗議した。


「ルールも守れないあなたの言葉に、誰が耳を傾けるのかしら?」


「白以外のパンツを履いてきたことは、本当に申し訳ありません。

 けど、山谷せんせーのこととは話が別です!」


「というと?」


「先週の土曜日のことです。

 わたしが町を歩いてた時、突然初潮が来てしまいました。道の真ん中でズボンと下着を汚したわたしを山谷せんせーは助けてくれました。そして着替えとナプキンを用意して、わたしに優しい言葉をかけてくれました! 山谷せんせーは本当に優しい先生です!」


「……優しいねぇ」


 ここにきて、初めて理事長が悩む素振りを見せる。


「……まあ生徒思いなのは評価しましょう」


 かすかに笑う理事長。


 しかし、まだ何か企んでるのか、目に怪しい光が宿っているように見える。


「けど、必ずペナルティは受けてもらいますからね」


 理事長は教室のドアへと歩き、開ける。


「さよなら、私も忙しいの。もう二度と問題を起こさないで頂戴」


 そう言い残して、理事長は教室を去るのだった。


「……はぁ」


 緊張がほぐれ、突然疲れが押し寄せてきた。


 そして、江口さんの様子を確認する。


「うぅ……怖かった……」


 涙目の江口さんに、末広さんが話しかける。


「怖かったね……」


 末広さんに慰められていた。


「山谷せんせー……」


 平川さんに話しかけられる。


 俺を心配してる様子だった。


「ありがとう平川さん。おかげでクビにならずにすんだよ」


 俺が感謝すると、平川さんは、はにかんだ。


「どういたしまして、せんせ!」


 こうして、大きな嵐は一度去った。


 しかしまだ、このブラック校則との闘いは、まだ序盤であることを、この時の俺たちはまだ知らない。

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