第6話
生活指導の一環として、服装検査が行われる。
拍亜では、早朝に時間をとって行われていた。
「それでは服装検査を行う。男子は別教室に移ってくれ」
男女分かれて行う理由は単純だ。
女子の場合は下着まで見せなくてはならないからである。
いわゆる女子の下着検査は、学校全体で行われる。
が、1年2組だけは違う。
「よし、みんな髪型、その他問題なし。完璧だな」
下着検査だけは、行わなかった。
当然、チェックリストには全員白パンツを履いてあることにしていた。
偽装工作である。
(この一週間で、女子達と良好な信頼関係を築けてる)
きっと下着検査をやっていたなら、険悪な関係になっていただろう。
やらなくて正解だったと俺は考えていた。
この時までの俺は順風満帆かのように思っていた。
「山谷先生」
朝の服装検査と朝礼が終わり、職員室で他クラスの授業準備をしていた時だった。
体育の教師である、古居先生に話しかけられた。
「今日の体育の時間、女子とともに教室に集まってください。話があるそうです」
「へ?」
地獄の始まりだった。
***
教室には、俺と女子生徒全員。
男子だけは体育で、校庭にてサッカーをしていた。
「先生、これから何があるんですか?」
「俺も知らない」
末広さんの質問に答える。
自習を始めて数分、ガラガラと、教室のドアが開いた。
「遅れてすまないね、山谷先生」
「校長先生」
いや、校長先生だけじゃない。
後ろにもう一人、女性が来ていた。
ただの女性ではない。
背はスラっと伸びる美しい。
高貴さを感じさせる。
黒髪のパーマが決まっていて、エレガントという表現が似合う女性だった。
「理事長、こちらが山谷先生になります」
理事長……?
え、拍亜学園の理事長!?
実際に会うのは初めてだが、ある程度の情報は知っていた。
拍亜学園理事長、拍亜美礼(はくあみれい)
江戸時代から続く名家、拍亜家の現当主であり、拍亜学園を牛耳る一番上の存在だった。
「田中校長。あなたはもう業務に戻りなさい」
「はい。分かりました。山谷先生、後は任せたよ」
そういって、校長は帰っていく。
理事長を案内するためだけに、ここまで連れてこられたようである。
こうして俺が驚いてる間に、理事長はキョロキョロと教室を見回していた。
「ふうん、なるほどね」
どういう意味のなるほどだったのか、理解に苦しんでいた。
「……」
教室の女子全員、異様な重圧感を覚える。
そして、たった一言、言い放つ。
「山谷先生。私の目の前で下着検査をさせなさい」
「んな……」
その言葉で、教室が騒然となりかける。
しかし、理事長の目力によって、俺含めて再び黙らされる。
「拭き掃除は粗雑。荷物は整頓されてない。姿勢が悪い生徒もいるし、寝癖が直しきれてない生徒もいる。
——下着検査してないなんて、一目見ただけで分かるわ」
どうやら、俺は浅はかだったのかもしれない。
もうバレてるなら、正直に言うしかないだろう。
「申し訳ございません。理事長。私は女子生徒たちの下着検査を行っていません」
「ふうん、なぜ、ここのルールを破ったのかしら?」
「人権侵害だと思っているからです。スカートの中を異性に晒させるのは健全さからかけ離れています。彼女たち自身の尊厳を傷つけることになります」
「……」
「ですから——」
「もう結構。あなたをクビにするわ」
「え?!」
突然の解雇宣言。
俺と女子生徒達も驚きを隠しえない。
「1年2組は他の先生に割り当てましょう。あなたはもう明日から来ないで頂戴」
「ま、待ってください!」
俺は土下座して、お願いをする。
「お願いします! 辞めさせないでください! 1年2組の先生でいさせてください」
俺が担任になって、1週間も経ってない時間だったが、今の生徒達にはそれなりに愛着がある。
それに、俺の可愛い可愛い女子達を、ほかの誰かに任せることなんて到底認められない。
もう土下座以外に道はなかった。
「……それじゃあ、下着検査をきちんとするのでしょうね」
俺は女子達を見る。
数名、不安そうな女子もいる。
が、こうなったらもう、引き下がる道はない。
俺は立ち上がって、いった。
「……みんな、すまないが一列に並んでくれ」
ああ、もう俺は女子から嫌われ続けるだろうなぁ。
そう思ったとき、一人の女子生徒が真っ先に俺の前に立ってくれた。
「平川さん」
「山谷せんせー、確認お願いします!」
はきはきとした声だった。
二コリと笑っていた。
「あれ、みんな来ないの? わたしは山谷せんせーに見られても平気なんだけどなぁ」
後ろに座ったままの女子達に言葉を投げかけた。
あまりにもおおらか。
でも、それが平川さんの良いところだ。
すると、女子達も観念したのか、一人、また一人と立ち上がる。
「まあ、山谷先生なら見せても……ね?」
「末広さん」
「ごごご、ごめんなさい。見るならほんの少しだけにして……ください……」
「本田さん」
続いてぞろぞろと、女子が一列に並ぶ。
俺はもう泣きそうな気持ちだった。
「ありがとう、みんな」
心の底から、信頼されていることに俺はうれしくなる。
「それじゃあ、下着検査を始めます」
俺は理事長の目の前で、宣言した。
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