第3話

 今日は土曜日。


 休日である。


 一人暮らしの安アパート暮らしで、徒歩十分で拍亜学園に通える距離にある。


「さてと、買い物に出かけるか」


 私服とリュックを背負い、街を歩く。


 都会の中では田舎、田舎の中では都会。


 まあ生活に不便しないくらいの過ごしやすい街だ。


「本屋さんにでも……ん? あの子たちは」


 向こう側から会話しながら歩いてくる4人組の女子生徒。


 1年2組の生徒だとすぐに分かった。


「あ、せんせーじゃん!」


「おお、平川さん。おはよう」


「おはようせんせー!」


 平川さんは元気に挨拶する。


 そして、俺は他3人の顔を見る。


「おはようございます。先生」


 礼儀正しく返事する末広さん。


 私服姿はシックなワンピースで、オシャレながらも清楚な雰囲気が漂う。


「おはよ! せんせ」


 末広さんの横にいるのは、本田有栖(ほんだありす)。


 笑顔がまぶしい。


 彼女自身、太陽のように明るいのだが、それだけじゃない。


 クォーターで、英国の血筋が流れており、美しいブロンドの長髪を持っている。


 並ぶもの無いほどの美しさをもつ可憐な少女だ。


「おはよう。末広さん、本田さん。それから……」


「……」


 末広さんと本田さんの影に隠れるのは、小柄で大人しい少女。


 謙虚な性格なのか、あまり目立たない少女。


 江口澄玲(えぐちすみれ)だ。


「……おはようございます」


 江口さんは目線を逸らしながら、挨拶する。


 顔は少し赤いように見えた。


「ああ、おはよう。江口さん」


 俺は恥ずかしがってるのだろうと分析する。


 人見知りなのだろう。


「みんなでお出かけかい?」


「はいそうです」


「みんなで白いパンツ買いに行くところ!」


「ちょっと祐梨! 人前で大っぴらに言わないで」


 なるほど、と納得する。


 これから必要になるのだから、女子の皆が買いに行くのは当然だろう。


「え~別によくない?」


「山谷先生の前でよく言えるわね」


「いやあ、山谷せんせーにはもうパンツ見せたし」


「え」


 末広さんは固まってしまう。


 そしてその瞬間、本田さんは目をキラキラ光らせ、俺に喰ってかかる。


「ねえねえ二人はどういう関係!? 恋人? ラブラブ?? きゃああ! 禁断の恋って感じ!!」


「そういうわけじゃ」


「ちがうの? じゃあこれからなの? それとも肉体関係だけなの?」


「肉体関係だけはさすがに違う!」


「あっはは!」


 どうやら本田さんは恋愛話が大好物のようだ。


「んもう、先生とはそんなんじゃないって。ねえ」


「……ああ、その通りだ」


「仲良しなだけだって!」


 平川さん、その一言は誤解を招くぞ。


「きゃああ! やっぱりこれからなんだ!」


「ちょっと先生! 中学生に手を出すなんてダメなんですからね」


 ほら、やっぱり。


「ねえねえ先生、わたしたちと一緒に行きませんか?」


「え、本田さん……? いいの……?」


「先生も祐梨ちゃんと一緒にデー……おほん。平川さんともっと仲良くなりたくないですか?」


「いや、俺は、その」


 女子グループに、俺がついていくなんてどうなんだろうと思い悩んだが。


「あ、いいね! せんせも一緒に行こ! いいよね里奈ちゃん、すみちゃん!」


「はあ、まあいいでしょう。見るだけなら、ですけど(ジト目ー)」


「……うん」


「じゃあ決まり! みんなで商店街のランジェリーショップへごー!」


「本当に、変なことはしないでくださいね」


「せんせーにパンツ買ってもらおうかな!」


「それは断る」


 そんなこんなで、俺は可愛らしい女子生徒達と下着を買いに行くのだった。


「……」


 江口さんの頬が少しだけ朱色を帯びていた。


 俺はその時、あまり気にしてなかったのだが、これがのちの大事件につながるとは思いもよらなかった。

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