第52話 中間テスト (後)

 ◆


 あれから二週間が経ち、中間テストの結果が返ってきた。

 それに伴いTKOTの業務も再開……かと思いきや、現実はそう上手くはいかない。


「……」

 頭を抱えたままボロソファに座り、何も発さないレイ。


「はぁ……」

 L字机の前に座り、周りに聞こえるほどの大きなため息を吐く啓斗。


「泥島先生はいつになったら来るんだ」

 倉庫に入るなり立ち尽くした、とにかく現実を見たくない結月。


 倉庫内の空気は地獄と化していた。


「今日泥島先生は来ないよ。そんなに結果オワってたの?」

 聞くな、という空気読みを見事にぶち壊すエンに、三人はどう返事をしようかと悩んでいた。


「……別に頭悪い訳じゃないんだよね?」


 これじゃ聞き出せないと、ターゲットをレイに絞って目を見つめ続けた。


「わ、私は別に普通だよ。学年順位は良かった方だし。ただ……」

「ただ?」

「何か、何かね。古典がやたら難しくてね」

「じゃあこの二人も古典の点数が悪かったからこんだけ落ち込んでるってこと?」

「そうでもないみたい」


 エンはレイの隣に座り、狙いを啓斗に定めた。


「啓斗は? どうだったの?」

「英語の点数はすごく良かったよ。他も平均かそれ以上くらいは」

「普通に賢いじゃん。何でまたそんな落ち込んでるの?」

「英語の先生に言われたんだよ。どれだけ茨杼くんが良い点取っても、出席日数ギリギリだから通知表の評価良くならないよ、って」

「まぁ……それはそうだね」


 欲望というのはまた厄介で、本人の意思とは関係のないところに深く影響してくる。その最たる例が啓斗の「睡眠」だろう。


「英語の先生は事情を知らないからさ、ただの不登校だとかサボリに見えてるんじゃないかなって。色々考えたらもう疲れた」


「それはもうねぇ……私も何も言えないや」


 結月の「欲望を燃やし消す猛火」によって、欲望の消失という現状は確認された。

 しかし、そのデメリットであったり、副作用であったり、それをやることで起こるトラブルなどが確認できてない今、啓斗にそれを施すことの許可は出ていない。

 消すことの重さを皆が重々承知しているからこそ、あえて保守的になるしかないのだ。


「んで? 結月は?」

「まぁ、ほどほどに悪かった」

「悪かったんだ……。赤点回避できた?」

「それは流石に。だけど課題が」

「課題?」


 エンの脳裏には二週間前のことがよぎった。答えを一生懸命写す自習風景、答えを写すだけなのだから、提出できているものだと思っていたが……


「まさか、提出できなかったの?」

「一部出せなかっただけだよ、別に」

「ちなみに、出せなかった理由とかはある?」

「普通に時間が無かった」

「そっか、お疲れ様」


 完全に部外者のエンに励まされたとて、という状況で、この重い空気感どうにかすることはできず、倉庫の隅で静かにしていることしかできなかった。


「あと三年、やっていけるのかな……」

「エン、何か言った?」

「いやぁ、何も言ってないよレイ」


 毎シーズン来るテスト、二年とちょっと後に来る大学受験、TKOTに立ちはだかる学業の壁はまだまだあるのだった。

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Tale Keepers of Truism 星部かふぇ @oruka_O-154

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