毎日が、きみと出会った記念日

マリールーのことを思う時、とても哀しい気持ちになります
夢を絶った事故の悪夢を最後に、新しい記憶を得ることができないのですから

彼女が故郷に戻り、目を輝かせる時、哀れな気持ちになります
それも数時間で忘れてしまい、また初めてのように目を輝かせるから
それは曇り空に光が差し込んだのに、永遠に晴れないまま止まっているかのよう

ポラロイドカメラで記憶を辛うじて繋ぎ、マリールーが笑顔を取り戻そうとしている時
もうそうするほかない強さに途方もなくなる

自分は真剣に生きているだろうか、と思いました。
つぎつぎに訪れる新しい情報、求められる変化に翻弄されて「今この瞬間」をないがしろにしていないか。あるいは振り返るべき思い出を風化させてはいないか。
マリールーや盲目の画家ベンジャミンや、新しい情報を奪われることで、より執念深く「今」を刻もうとする者たち。
彼女たちは未来へ進もうとしている。失ったことでより激しく魂を震わせて。


古い映画のように、今作は結論までは語ってくれません。
けれどこの先、ベイビーちゃんとはなんだったのか、ある時、何度もふと思い出すのだと思います。

たぐいまれな才能で紡がれた、あたたかく、どこか懐かしい物語。
玉稿、ありがとうございました

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