忘却は神が与えた最大の恩寵、確かにそういう時もある。嫌なこと、悲しいこと、忘れられたらどんなにいいか。でも、忘れたくないことについてはどうだろう? 忘却は残酷、自分でコントロールなんてできない。あなたがどんなに大切にしたいものでも、きっと忘れてしまう時が来る。それは10秒後?明日?それとも今の自分がいなくなった時?
だから私はこうして書き残す、自分がこの小説に出会えた今この瞬間の気持ちを。そうしておけば、たとえそれを忘れてしまっても、自分のページを開けばいつでも出会えるのだから。あなたもこの小説を読んで感じたことを、ぜひここに書き留めてほしい。自分の気持ちを取り戻したい時が、きっと来るはずだから。
ぽかぽかと日の当たるお気に入りの木の根っこに座り、甘めのお茶を飲みながらページをめくる……。実際はストーブの火一つない寒い部屋でPCとにらめっこ状態の読書だったのに、その夢の方が本当だったと思うくらい暖かく、優しい時間を過ごさせて頂きました。
もしも図書館で「若草物語」や「赤毛のアン」「パール街の少年達」などが並ぶ海外文学の棚に本作が置いてあったとしても私は驚かなかったでしょう。
たった一万数千文字で形作られた世界には、陽だまりのような日々のささやかな幸せが溢れています。静かに始まるモノローグ、全てが収まるべき所に収まったと息をつける素敵なラスト。まるで天女の衣のような縫い目のない芸術に魅せられて、胸が熱くなりました。何処か懐かしいと感じるのは、もうほとんど思い出せない私自身の子供時代、毎朝起きるのがただ嬉しくて仕方がなかったあの頃に置いてきてしまった大切な何かに、ダニー君ら三人の無邪気な明るさが共鳴するからでしょう。早く大人になりたいと言わんばかりの言動も……笑
ページを開けばそこはアメリカ。
鳥のさえずりさえ耳を澄ませば聞こえてくる、近年希に見る良作です。