28.寒暖要素は必要か
宝石があれば暑さなんてないと思っていた。
しかし今、とてつもなく暑い。
このナリで使い捨てタイプなのだろうか。
ポーチに入れていた宝石は透き通った青ではなく、少し黒ずんだ青色になっていた。
これはこれで綺麗だが……。
今歩いている場所は草木は少なく砂ばかり。
砂漠かと言われるとそこまで酷くはない。
だが、少し前までしっとりとしていた場所にいたこともあり、じりじりと焼かれるような暑さが降り注いでくる。
日も沈んできた頃、一向に下がらない熱に目が回りそうだ。水を飲んでもすぐに喉が渇く。塩分が取れていないのかもとイナトが用意してくれていた塩を舐めるがそれも追いついていないように感じる。
もうここで休ませてくれと言うべきかとイナトの背を見た。
するとこちらに振り返り「今日は休みましょう」というイナトの声かけで箱へと入る。
ナイスタイミングだ。
箱の中は涼しく一生ここから出たくなくなる程だ。
また宝石を用意してもらわないことにはやる気も出ないだろう。
「効果が薄れた頃かと思います。新しいのをどうぞ」
本当に私と同じものを使っていたのか疑うほどに涼しい顔をしているイナト。
鎧のおかげで暑さが入り込まないのだろうか。
それに対して私は少し汗をかき服が湿っている。
……軽装すぎるのかもしれない。
イナトは新しい宝石を取り出し私やロクに手渡す。
その時にルーパルドは古い宝石を回収。
もし捨てるのなら貰えないだろうか。インテリアとして飾りたい。
「それって使い捨てなの?」
「水に数時間浸しておけばまた使えるようになるんですよ。便利ですよね」
ルーパルドは水盆に使った宝石を丁寧に入れていく。
入れた途端、宝石はうっすらと光始めた。充電中みたいなものだろうか。
終わったら光はきっと消えてまた透き通ったあの青色に戻るのだろう。
「ポーチとかに入れておくだけでいいのも魅力的だね」
使う際は魔力を少し注入する必要があるらしい。まぁ、勝手に発動されたら使いにくいと言うのもあるだろう。
魔力がない人や魔力切れの時でも使えるように魔力入りの装置も一緒に売られているのだとか。
「この装置に宝石を差し込んだまま部屋に飾れば、部屋を冷やすこともできます」
「もしかして、暖かい宝石もあったりする?」
「もちろんありますよ」
見せてくれたものは、液体溶岩のように赤い色をしたゴツゴツとした宝石だった。
今は使うことがないが、寒い場所に行くことになってもこれがあれば安心だ。
――食事をしてそれぞれ好きなように過ごす。
森に入ってから箱を使えなかったこともあり、かなり久しぶりのベッドのような気がする。
ふかふかのベッドに寝転がり、うとうとしていると通信機が音を出す。
すぐに確認すると、アズミから『最近調子どう?』とメッセージが入っていた。
すぐに今の状況を話し、今アズミの様子も聞いてみる。
すると、長文がすぐに送られてきた。
要約すると私の話への回答と、村の愚痴だ。
私のことを労ってくれつつも、自身の状況への不満を赤裸々と語る。
それは聞いて欲しくてたまらなかったのだろうなと思わせる文章だった。
「苦労してるなぁ」
畑仕事や家畜の世話。時には介護。引きこもりの現代人なら悲鳴をあげそうな仕事ばかり。
あの村ではそれを当たり前のように毎日やっているのだそうだ。慣れていないアズミは筋肉痛が治らないと泣いている顔文字をつけている。
文章を見ただけでどれほどアズミが苦しんでいるのか、手に取るようにわかるような気がした。
どうやら頭を使った仕事がしたいと嘆いているようだが、頭を使った作業はないと言う。
そのため、特に何もなく面白くない日々を送っているようだ。
『もし難解な問題があったら連絡して! それを理由にサボる。てか頭使って何か解きたい』
泣きそうな顔文字をつけて懇願するアズミ。
特に今困っていることは――いや、大きなフクロウのことを聞いてみるのはありかもしれない。
早速、霧に包まれている森やそこにいる魔物についてどうすれば倒せるかを聞いてみる。
アズミは『考えるからちょっと待って』とメッセージを送ってきたあと、一時的にやり取りが途切れる。
『ギミックとかありそうだね? わたしが行って探した方が楽かも』
「お、一緒に冒険する?」
『怖いの苦手だから無理! でも、リンの言ってた箱で待機できるなら……考えなくもない。レシピ解読とかで役に立てるかもしれないし。確か取扱説明書に操縦型の機械が作れるって書かれてた気がする』
「そんなの書いてあった?」
『マルチプレイ要素だよ。きっとリンはマルチをする予定がなかったから、あまり読んでないんだろうね』
「死にゲーにマルチは不要派なもんで〜」
そんなやり取りを小1時間。今の地域の探索を終えた後、アズミを霧の森に連れて行こうと決めた。
と言っても、まず皆の意見を聞いてからにはなるのだが。多分誰も断ることはしないだろう。
少し楽しみになった私はさっさと寝ようと明かりを消しさっさとベッドに入って眠ることにしたのだった。
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