8.ワープポイントの解放
「ワープポイントの解放……ですか?」
ワープポイント認知してるタイプなんだぁ。と内心面白がっていると、イナトに咳払いをされてしまった。
口角上がってたかな?
表情筋を引き締めようと顔を一度手で揉んで国王様に「続きをどうぞ」と促す。
私のせいか、国王様も少しだけ口角が上がっている。
「……ああ。ワープポイントを複数解放すれば、救世主は解放済みの場所に一瞬でワープすることが可能だ。また、解放したワープポイントでは食料や物資を購入できる。これは救世主以外の者も利用できる」
ワープ自体は救世主だけ。
仲間と一緒にワープしたい場合は、手を繋ぐことや、体の一部が密着しているか、救世主が持っている物を触っているか、など。
とりあえずワープの際に救世主と何かしら繋がりがあるかどうかのようだ。
「これが1番重要なんだが、解放には救世主の力が必要なんだ」
だから仲間や近くに住んでいる人などにワープポイントの解放は頼めないのだそうだ。
なんて不便なつくりなの……と思ったが、救世主という存在のありがたみを出すため、ゲームとして成り立たせるため。そう考えればプレイヤー中心になるのは仕方ないのだろうと納得した。
「ゲムデースのワープポイントについては簡素なもので悪いが、地図を渡す」
そう言い、渡されたものは本当に簡素なものだった。地名が書いてあり、その川の近くのどのあたりにある。と記されていたり、目印について絵で描かれていたり。
「ワープポイントは他国にも複数存在する。地図はないが、他国の王にはすでにワープポイントの解放について了承を得ている。だから全て解放してくれて構わない」
「かなりの量だと思うがよろしく頼む」と国王様は頭を下げた。
隣で控えていた全身鎧の男が「この後国王様は会議があるため恐れ入りますが、ご退場願います」とすごく丁寧に、そして所謂イケボでそう話した。
階段を降りてきて一度私とイナトにお辞儀をした。そしてイナトへ束になった紙を手渡し「健闘を祈ります」と口にした後、国王様の側にまた戻った。
部屋を出て長い廊下を歩いている最中、先ほどのことを思い出す。
話を聞く限り、嫌でも寄り道をしなければならないと言うことになるのでは? となると探索し放題なのでは? と。
……まぁ、イナトに魔王討伐の後にしなさいとか言われそうだが。
「補足しますが、他国を跨いでのワープはできません」
「え、なぜ?」
「それぞれの国に結界が張ってあるからですよ。なので国境を超える際は、門を通り抜ける必要があります」
「何か通行証とかいるんですか?」
「救世主様は無くて問題ありません。僕が証明できるものを持っていますので」
「1人になる時もあるかもですし、私が持ってちゃダメですか?」
「そんなことがないよう努めますのでご安心を」
いつまでもついてくるつもりだな!? システム上仕方ないのか!?
私の表情を見て、イナトは眉を下げた。
「僕がそんなに邪魔ですか……」
「そんなことはないです。断じてないです」
「それならよかった」
パァッと明るい表情を浮かべた後、イナトは「頑張りましょうね」とやる気に満ちた眼差しでこちらを見つめた。
イケメンの笑顔は眩しすぎる。途中で目が潰れるかもしれない。
◇
「ここは?」
「訓練所です。僕の部下を1人連れて行こうかと」
素振りや模擬戦、筋トレ、様々な特訓をしている男達。だが、むさ苦しい男など1人もいない。ゴリマッチョでも清涼感があり、女ウケしそうな顔の整い具合だ。
この中からまたイケメンを連れて行くのか……。
「2人旅ではないのですね」
「2人がよろしいのですか?」
「どうなんだろ。……あ、私より弱ければ連れて行かないってことで」
「……え?」
思いもよらなかった回答に、イナトは言葉に詰まった。
「……わかりました。勝ち抜きで最後まで残った者がリン様と戦う、という方針でいこうと思います」
「はい。それでお願いします」
部下達を召集し救世主として紹介をされ、魔王討伐に行くため勝ち抜きをしてもらうよう説明。
そして最後に私と戦うことを話すと、部下達は少しざわついた。
「舐められてると思われてそうですね」
「リン様は剣も握ったことがなさそうな華奢な体格ですからね」
「……」
それを言うならイナトも華奢な部類だろうと言いたいところだが、鎧を纏っているため実際のところはわからない。
でも、部下達と比べても華奢な方だ。
「僕はここにいる全員倒したことがありますよ」
「もしかして全員倒したから上司なんです?」
「少し違いますが……まぁ、そんなところです」
あの力こそパワーみたいなマッチョも、戦場は自分の居場所だと言いそうなあの男も全員この華奢なイケメンにやられたのか……そう思うと舐められる理由は性別な気がしなくもない。
「リン様が直々に指名してくださっても構いませんよ」
「見た目じゃわからないので、とりあえず見学します」
「わかりました。では、対戦相手を決めていきますので、適当に番号をこのトーナメント表に割り振っていただけませんか?」
膨大な番号札を見て今日で終わるのか、こんなことで時間を使っていいのか疑問に思いつつ、何も考えずに番号を貼り付けていくのだった。
その様子を見ていた男達は「お前とか」「勝てる気しない」「勝ったら賞金とかあるのかな」など様々な会話を繰り広げている。
この会話を聞きながらの作業は、なかなか楽しいかもしれない。
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