9.舐めたプレイは許さない
力で押すタイプ、知識で上手く倒すタイプ。他にも様々な個性的な戦い方を見て、私は武器や戦い方を取り入れたいと思った。
ここの指揮を執っているイナトになら教えてもらえるかもしれない。
熱心に戦っている姿を見ていたからか、自身の試合終わりにこちらに話しかける男がちらほら。
その中でも一際目立つ容姿をした男。
高身長で赤茶髪。大人びた容姿の割に人懐っこい雰囲気がある男……攻略対象として載っていたキャラクターだ。名前は覚えてない。
「そんなに俺たちの戦いは面白いですか?」
「興味深いです」
素直な感想に男は少し照れた様子で笑う。
「いやぁ、見る目がありますね。団長は良い人を連れてきた」
「リン様は戦うことに慣れている。決して舐めないように」
「へぇ、そうなんですね。俺、貴女と旅したいし頑張っちゃおうかな」
私に向かってウインクすると、イナトは大きくため息を吐いた。いつのまにか私との距離を縮めていた男の間に割って入る。
「お前は仕事をサボりたいだけだろ」
違いますよ〜。とヘラヘラと笑う男はイナトに睨まれてもお構いなしだ。
◇
「さっきの人、最後まで残りましたね」
「実力は本物ですからね」
「救世主さま〜」
手を大きく振っている男に私も小さくではあるが手を振りかえす。
それを確認した男は満足したのか、手を振るのをやめてこちらに大股で近づいてくる。
「俺の活躍、どうでした?」
「すごく強いんですね。えっと、名前を聞いても?」
「……ああ! 申し遅れました。俺はルーパルドって言います」
「凛です。よろしくお願いします。ルーパルドさん」
イナトと違いもじった名前ではないようだ。全部真面目に考えることはできなかったのか制作者側に聞きたいものだ。
「俺に敬語も敬称も不要ですよ。救世主さま」
「おしゃべりはそこまでにして下さい」
イナトに睨まれたルーパルドは肩をすくめる。
「はいはい。俺と救世主さまが楽しく話してるのが気に食わないのかね」
さ、行きましょう。と先ほどまでいろんな人が戦っていた場所まで手を引かれた。
外から見ていた分には気にならなかったが、かなり広いスペースだ。両者とも端からスタートするため、これだけだと遠距離が有利に見える。
ルーパルドは槍を使うタイプ。投げて使う物ではないため最初は不利な気がしていたが、俊敏な動きですぐに詰め寄って遠距離はすぐに相手を叩いていた。
となるとこの距離はルーパルドにとって不利ということはないのだろう。
どのように対処しようか……。
「女性と戦うのは得意じゃないんですけど、同行のために頑張ります」
「私はとりあえず、ここの人に弱くないってことを証明したいと思います」
そう男に言えば、軽く笑われた。やはり馬鹿にされているのだろうか。
位置についてブザーが鳴るのを待つ。
人とサシで戦うのは初めてだ。
全身の血の巡りが早い気がする。嫌になるくらい心音が耳につくし、自分では意識していなかったが、かなり緊張しているのだろう。
審判の「はじめ!」の声。
すぐに魔法を撃とうと構えたがすでにルーパルドはいない。剣を取り出し近距離を警戒。
背後から効果音が聞こえ、そちらへ振り返り右へと避けるとすぐ近くで槍が風を切る。
そのまま右へと槍を振ってきたので剣で受け流す。手がじんじんと痛むが、今ここで手を離せばこの試合は終わってしまうだろう。
何度か受け流した後、顔面に飛んできた槍をしゃがんで避ける。
「あっぶな」
「あれ? 今ので終わらせるつもりだったのに」
距離を取り様子を伺うルーパルド。ゆっくりと槍を構える。
隙を狙おうと見据えていたが、一向に隙が見えない。
ポーチから小さな煙玉を取り出し足元に投げ、ルーパルドにも投げる。
予想していなかったのだろうルーパルドは何か言っていたが、無視して長槍に持ち替える。
煙の中でも見えるようになる薬を飲んで、ルーパルドの居場所を突き止めた。
リーチの長い槍で首元に当たる寸前で止めたところで、自分の首元にも槍の先が向いていることに気づく。
「そこまで」と言う声の後、試合を見ていた男たちは歓声を上げた。
「ルーパルドの首に槍をつきつけた!?」
「あの女、見た目の割にやるじゃねぇか!」
全部システムのおかげですけどね〜。と心の中でつぶやく。言ってもきっと救世主以外、首を傾げることだろう。
力が抜けその場で座り込むと、ルーパルドが手を伸ばしてきた。その手を握ればあっさり持ち上げられてしまう。
「救世主さまは器用ですね〜」
流れるようにお姫様抱っこをされ、そのまま歩き出す。
茶化すように周りから口笛が聞こえたせいもあり、恥ずかしい。
「自分で歩けます!」
「俺がやりたいだけなんでお気になさらず。あと、敬語いらないって言ってるじゃないですか」
「わ、わかったから」
「ルーパルド! リン様をおろせ」
「団長はなんで救世主さまのこととなると、こんなにキレやすいんだ?」
大きくため息を吐いた後、ゆっくりとイナトの前に私を下ろした。
……助かった。
「嫌がってるのが目に見えているから怒っているんだ。リン様、今ならまだ間に合います。他の者にしましょう」
「いや、強いのはわかったしせっかく頑張ってくれましたし……」
「そうですよ! 俺がなんのために頑張ったと思ってるんです!?」
ぎゃあぎゃあ言い合う姿を見て、この2人とストレスフリーな旅ができるのか今から心配になってきた。
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