7.ゲムデースへ
なんの障害もなく……というより転移魔法により瞬時にゲムデース国に来てしまった。
どうやら道具があるらしいが、使い捨てでしかもゲムデースに帰る時にしか使えないとのことだった。また、ある程度近くないと使えないと言う。
ちょっと不便。
すぐそこに大きな城が見えるが、その城はグルッと塀で囲まれており威圧感が凄まじい。
イナトが門番の人と話して、すんなりと入れてもらい活気のある人々に圧倒される。
マリエのいた街も活気はあったが、こちらは人の数が多い分、迫力も倍だ。
「救世主様! こちらをどうぞ」
「うちの傑作ですよ! イナト様と一緒に食べてください」
突然現れた少女から一輪の花を贈られ、その隣の母親であろう女性にバスケットを渡された。
布で隠れているため全貌は見えないが、中身はサンドイッチや果物、瓶のジュースが入っているようだ。
渡して満足して去っていく後ろ姿に「ありがとうございます!」の言葉しか掛けられず。追いかけようにも次から次へと人が押し寄せあれやこれやと渡され、イナトも私も両手がすぐに塞がってしまった。
「怖いくらい歓迎されてますし、皆さん何故すでに私が救世主だと知ってるんですか」
「私が事前に連絡していたのです。……やりすぎでしたか?」
「歓迎されて嬉しくないわけではありませんが、流石にやりすぎですよ。荷物を置きたいんでどこか良いところはありませんか?」
すみませんと困ったような表情を見せたが、すぐに気を取り直し、広々とした公園に案内してくれた。
近くにあったテーブルに荷物を置けるだけ置いて、ウエストポーチのチャックを開ける。
「このポーチにすべて入れます」
「え、そのポーチにすべて……ですか?」
「マジックポーチです。私を連れてきた何かがくれました。多分あの2人も持ってると思いますよ」
「知りませんでした。便利ですね」
大きさを気にせずに入れていく姿を珍しそうに眺めるイナト。私の手の届かないものはすぐに手渡してくれ、その場から動かず全て入れきった。
「せっかくですし、ここで軽食取りませんか?」
「もちろん構いません。落ち着いたら国王様に会いに行きましょう」
たくさんの人から貰った食べ物や飲み物をイナトとわける。
たわいない話をしたり、口の状況を説明してくれたり。
国王に会った後どういった順序で魔王城まで行くのか、その間にどれほどの街や村に寄るか、などイナトが思い描く理想ルートを語ってくれた。
「も、もうちょっと寄り道とかは……」
「世界の危機が迫っている状況で、そんな悠長なことは言ってられませんよ」
ゲームの世界ではあるが、この世界に生きている人にとっては放置していられないのもわかる。……わかるのだが、ゲーマーとしては寄り道したいしレアアイテムとかそういうのも欲しいのだ。
現実世界に帰ったらまた改めて遊ぶことにしよう。そうしないとじっくり探索できそうにない。
◇
「ここが国王様がいる城……」
ゲームでよく見る城だ。
首が痛くなるほどの高さ。そして、歩いたらどのくらいの時間がかかるんだと思うほどの幅広さ。ゲームならそこまで気にならないものだが、目の前にあるととても気になってくる。
「さあ、中に入りましょう。国王様がお待ちです」
大きな階段を登り、複数の扉を潜り、長い廊下を歩く。
そうしてやっと辿り着いた頃には、少しだけ疲れていた。私のスタミナはどのくらいあるんだ。少なすぎるのではないか?
隣をチラリと見るが、イナトは疲れた様子はない。むしろとても元気だ。
「君が救世主か。よく来てくれた!」
ここまでご苦労。とイナトと私を見て爽やかな笑顔で迎えてくれたのは、金髪蒼眼の男だった。どことなく顔がイナトと似ており、兄弟なのでは? とイナトを盗み見る。
「……察しの通り、国王様は僕の兄です」
「俺が王だからと距離を置かれてるところだ」
俺、かわいそうだろう? と目で訴えかけてくる。イナトとは性格が真逆なのかもしれない。
「なぜ距離を置かれてるのですか?」
「国王と騎士ですし、自然では?」
それもそうだと頷き納得する私を、国王様は面白くなさそうに見ていた。
「早速本題なのですが、僕を救世主様の護衛につかせて欲しいです」
「もちろん構わない」
渋る様子もなく即答する国王様。当然だとでも言うような2人からの雰囲気に手紙ですでに決めていたのでは? と思ったが、格式なのだろう。
国王様の隣に控えていた全身鎧の男が、束になった紙を国王様に渡し、耳打ちをする。
「あー、そうそう。この話をしなければならなかったな」
軽く目を通しながら紙を数枚めくった。
「今から話すことは、この紙に全て記している。後でイナトに渡しておくから、メモは不要だ」
そう前置きした後、国王様は外にある未開放のワープポイントを指差しこう言った。
「ワープポイントの解放を頼みたい」
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