乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件

勿夏七

1.話は最後まで聞くが吉

「貴女は強くて美しい」

「いつまでもお前と…………しあいたい」

「あんたとなら、幸せになれる気がする」

「僕には君しかいないのに」

 

 個性豊かな男達。

 そして、それぞれのアプローチ。

 

 男達の愛の囁きを一身に浴びた私は、1人1人の顔を一瞥してから言う。


「ごめん、無理」


 

 

 ◇ - ◇ - ◇

 

 


 突然だが、私りんは乙女要素のあるゲームが好きだ。

 

 ガッツリRPGをやりたいという理由がまずある。

 次に、ふわっと、なんとなく、主人公のことが好きだろ〜というところまでを眺めるのが好きだからだ。


 なので、結ばれてハッピーエンドの部分はなくて問題ない。むしろなくて良い。

 

 そして、最近は死に覚えゲーム……略して死にゲーにハマってしまい、敵を倒し倒されの日々。


 これで乙女要素がある死にゲーが出たら、最高なのに……と日々妄想していた。

 

 そしてついに、私の夢が叶ったのだ!

 あったのだ。乙女要素が含まれている死にゲーの発表が!

 まぁ、「恋も死もお手のもの!」というふざけたネーミングのゲームだが……。

 

 パッケージデザインは死にゲーとは思えないほどの甘めなデザイン。顔の見えない女主人公を真ん中に、周りはイケメンパラダイス。

 服装はファンタジー系。だが、見たところ女性向けならではの少々可愛めで身軽そうな鎧や服装。


「この見た目で本当に死にゲー……?」


 買う物を間違えたかと思うほどのパッケージを凝視しながら眉を顰める。

 ……だが、せっかく買ったのだから、恋も死も堪能させてもらおうじゃないかとディスクをゲーム機本体へ。


 オープニングもほどほどに、まずは楽しい楽しいキャラメイク。時間をかけて自分好みの女に仕上げるのは至高の時間だ。


 ウルフカットで青寄りの黒。毛先を青でグラデーション。美人系の顔立ちにして体型は美人に合うよう凹凸をはっきりさせる。

 

 そして、身長は0のバーを少し上へ動かす。

 どうせイケメンは高長身だらけだろうし、このくらいの調整で男の身長を抜かすことはないだろう。

 ボイスの調整も済ませ、最初のビルドを選んで決定。


 すぐにローディングに入り、長々と歴史の語りが入るが、右から左へ聞き流す。

 

 どうせ何周かする予定だし、その時にじっくり聞こうと冷蔵庫から取り出しておいたチューハイを飲みながら、デジタル取説を読み操作確認。

 他の死にゲーと似たボタン配置を確認し、慣れるまで時間はかからないだろうと判断した。

 

 テレビ画面を見るがまだ語りが終わっていない。

 そのため、私はチラリとしか見ていなかった攻略対象の男の顔を拝むことにした。


 スマートフォンで公式サイトのページを開き、キャラクターの一覧を表示する。

 

 まず写ったのは、金髪碧眼の好青年らしき男。

 細身なのだろう。鎧を纏っているが、ゴツゴツとした印象は感じられない。

 真面目で手先が器用。主人公に頼まれた装備品を修繕したり開発したりしてくれると記載されている。


 他に、少し筋肉量が多い黒髪の男、最長の持ち主の赤茶髪のチャラ男、幼い顔立ちで、生意気そうな表情を浮かべる銀髪の男。


 載せていないだけで、他にも出会えますと書かれている。

 男に力入れてるせいで、死の方が疎かになっていないか不安になってしまうところだ。


「あ、語り終わったみたい。……ん?」


 画面には「了承いただけますか」の文字。

 よくわからないが、「はい」を選ばないと進まないだろうと思い「はい」を押す。


 ローディングが始まり、やっとできると思い座り直すが、突然眠くなってくる。

 今日はずっとこのゲームをやるために準備をしていたのに寝て堪るかと抗うが、それもあっけなく意識を手放してしまった。


 

 ◇

 

 

 小鳥のさえずりが聞こえて来て、慌てて飛び起きる。

 早くゲームをやろうとコントローラーを探すが、足元は草で覆われている地面。

 見上げれば、見慣れた天井ではなく青い空。

 

「これ、VRだっけ」


 そもそもそれ用の機械を取り付けた記憶もない。これは夢かと頬を抓るが、痛みが返ってくる。

 ……夢でも痛みがあるかもしれない。うん。


 ありえない状況に現実逃避をしていると、天から何やら眩しい光が降りてくる。

 それが地面に降りたと思えば、人型を模しこちらに言う。


「私の声に応えてくれてありがとう。この世界をよろしくね」

「? どういう……」

「あ〜。やっぱり適当に読み飛ばしたタイプだったかぁ」


 人型のその光る何かは1人納得した声をあげ、私の額を突いた。

 

 突かれた痛みはなかったが、一気に頭の中に情報が流れ込んできて、思わず頭を押さえる。


「……よし。これで問題ないよね。君はこの世界を救うために来たんだ。元の世界に帰れるかは君次第だけど」


 頭の中に流れ込んで来た情報を要約すると、神から直々に「世界を救いにきてほしい」と頼まれていたようだ。そして、それに答えてしまったらしい。あの「はい」にそんな重い意味が含まれているなど知らずに……。


「なんで私、なんですか」

「君のやり込みを見込んでだよ。女の子であそこまで死に覚えゲームをやり込んでる子は少なかったからね」


 じゃあ、たのんだよ〜。と光は一瞬にして消えた。


「痛みを感じる死にゲーってこと?」


 死んでも生き返る仕様は変わらずのようだ。もちろん何度も死ねるのは主人公だけの特権で、他の主要人物は一度死んだら復活できないらしい。

 だが、私が死ねばリセットされる仕様もあるようなので、休憩セーブのタイミングをミスしなければなかったことにできる、と。


「自分が痛いのは嫌なんですけど!?」


 すでに消えてしまった光に届くことはなく。誠に不本意ながら、私の旅が始まってしまうのだった。

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