4.良心的なNPCはいくらいても良い
イナトが勧めてくれた宿に入ると、すでに救世主ということが伝わっていたようで大勢の人が私を歓迎してくれた。
「いらっしゃい! アンタが救世主様だね。まずはうちの自慢の食事を堪能しとくれ。空いてる席に座って待ってな」
よくゲームやアニメに出でくるような宿屋の女性。
ふくよかな身体。そして快活な性格。皆のオカン的な存在……なんとなく安心感を覚える。
流されるまま椅子に座り、食事を待つことになった。
その間たくさんの人に囲まれて質問やアドバイスを受けた。
今度こそ救ってほしいという気持ちか、宿代はタダにする。装備はスミスに言えばすぐ良いものを提供してくれる。
などなど金銭支援や情報、保存食をどんどんと渡してくれる。
「流石にサービス良すぎますって! お金は魔物を倒して稼ぎますし、食糧は買い込んでから行くのでそこまでしてもらわなくて良いですから」
渡し足りない様子の街の人々。その人たちを押し退けやってきたのは宿屋の女性だ。
「ほら、どいたどいた。救世主様、騒がしくてすまないね。皆アンタに期待してんだ。イナト様から今回の人はいけるかもと聞いたもんでね」
「何故そう思われたのか聞いてますか?」
手を合わせてお辞儀をした後、出されたジューシーな肉にかぶりつきながら聞く。宿屋の女性はいい食いっぷりだと満足そうに微笑む。
「ここに来る前にイナト様の攻撃を避けたと聞いたからさ。イナト様はかなりお強い人でね。特にスピードに関しては国のお墨付きなんだ」
「そんなにすごい人の攻撃を避けてたんですね」
「そうともさ」
話しながらもテーブルに乗り切らないほどの料理を並べ続ける宿屋の女性。どれも美味しそうだが、食べられる気がしない。
「……それより、こんなに食べられませんよ」
「……ああ! すまないね。張り切りすぎちまったよ」
あまりの量だったので周りの人たちにも食べてもらい、なんとかすべての料理を平らげることができた。
かなり好意的なNPCに感謝しつつ宿屋の女性に部屋へ案内してもらい1人ベッドに横たわる。
「明日はもう1人の救世主に会いに行こう」
マリエに話を聞いたところ、もう1人の救世主はアズミという名前らしい。
真っ黒な髪で片目を隠し、目は赤色。黒を基調とした服装。肌が見えないようにか手袋までしていると。
また、話しかけてもすぐに返事はなく、そわそわと体を揺らす。どもりながら言葉を返してはくれるらしいが、声が小さく聞き取りにくい。
会話を続けようと試みても肯定、否定の言葉のみで返すため難しいとのこと。
マリエとは真逆のためか、苦手な人だと眉を下げ苦笑していた。
あまり対話が得意ではない様。対話が必要そうなこのゲームの世界に来て、苦労していることだろう。
マップで現在地とアズミのいる村までの距離を確認する。
寄り道を考えれば数時間と言ったところか。
経験値や拾い物を期待しつつ気長に行こう。
見える範囲で何かありそうな場所に印をつけていく。
村の先は真っ暗なので、そちら側に行く場合はどこかであのローブを纏った男を見つけないといけない。
まだマップを開いたばかりなのだから、周辺を探索するのが1番だが……。
後のことを考えると、すべて見えるようにしておきたい気持ちも湧いて出る。
「ま、そこはその時の気分か」
マップを閉じて一息。このまま寝ようかとぼんやりと天井を眺めていると、ドアをノックする音がする。
慌ててベッドから起き上がり、ドアを開けるとイナトが立っていた。
「突然失礼します。明日の件でお話をと思いまして」
「明日、ですか?」
「はい。リン様はもう少し街にとどまりますか? それとも街を出ますか?」
「街を出て次の救世主に会いに行く予定です」
「では、私も同行しましょう」
それが当たり前。のように言い放つイナト。1人で行くつもりだった私はすぐに言葉を返す。
「大丈夫ですよ。ついでに探索も考えているので」
「お1人で!? ……失礼。村に行くには迷いの森に入る必要がありますが、どのように切り抜けるかご存知ですか?」
「森にいるボスを倒せば進める仕様では?」
「……確かに魔物による幻惑魔法のせいなので、それを倒せば良い話ではあります。しかし、アズミ様は魔物を見た途端血相を変えて逃げてしまいました。まぁ、アズミ様のスキルで森からの脱出はすぐに叶いましたが」
なるほど。アズミはボスを見て怖くなったと。
どのような見た目をしているのかわからないが、意外と気持ち悪い見た目をしているのかもしれない。乙女要素を含んでいる割に。
「そういえば、救世主は同じスキル持ちなのですか?」
「いえ、人それぞれの性格が反映されていると聞いています。スキルのおかげでギミック解除や文字の解読などが得意だとアズミ様が言っていましたよ」
「へえ、じゃあマリエさんも別のスキル持ちと言うことですね」
「そうですね。マリエの料理を食べたものは傷が治ったり力が湧いてきたりすると聞いています。きっとそれがスキルなのでしょう」
スラスラと答えていくイナト。この様子だと、2人ともイナトに引率してもらい街や村に来たのだろう。
最初の仲間はメインヒーローであるイナトしかない。という製作陣のお決まりなのかもしれない。
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