5.オンラインは協力プレイがいい

 街の人々に見送られながら、イナトと私は森へと向かう。

 

 何度も通っている道なのだろう。イナトは迷うことなく進んでいき、寄り道できる雰囲気はない。

 

 イナトと別れてから探索すれば良いかと今は付き従うことにする。


「ここから森に入ります。危険ですので、あまり僕から離れないでくださいね」


 爽やかな笑顔と共に薄暗い森へと入って行くが、特に歓迎の魔物なんかと出会うこともなく。


 

 なんの困難もなく奥へと突き進む。

 涼しげな川の音、陽気な小鳥の声。気持ちの良い風が木々を揺らす音。まるで遠足にでもきたような気分になる。

 

 今だに敵意のない動物達としか遭遇せず、思わずイナトに声をかける。


「危険と聞きましたが、魔物と遭遇しませんね?」

「……バレましたか。気配があるところは避けています。できるだけ戦わずに森を抜けられたらと考えています」


 これでは世界救う以前に力不足で泣いてそうじゃないか? この人の優しさが救世主ダメにしないか? と苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 このままでは装備もレベルもろくに育たない。


「1人は戦闘拒否で、1人は魔物を怖がった……。これ以上救世主を辞めてもらわないための配慮、でしょうか」

「言ってしまえばそうですね……。次いつ救世主様が現れるかもわからないので、これ以上は辞めてほしくないのです」


 聞いた話によると、最初の救世主はすぐに来たが辞めるのも早かったためか、なかなか次の救世主が来ず数年経過。

 次に来た救世主は少し進んだが、辞めると言わず有耶無耶にして村で時間を潰していたこともあり、5年経過。


 そしてやっと来たのが私だったと。

 どうやらこのゲームではかなり年数が経っているようだ。ポスト投函に気付かず数時間遅れてゲームをやり始めただけだというのに……。


「何年も経ったこともあり、かなり魔物が凶暴化してしまっているんです。なので、ユイ様にはまず、一緒に戦ってくれる仲間を見つけて欲しいのです」


 死にゲーでも確かにずっと仲間と戦えるものもある。

 もちろん参加させないという選択もできるのだが……今のイナトにそれを言っても多分拒否されるだろう。

 

「もちろん僕もその仲間として同行しますのでご安心を」

「ええ……。でも国の騎士が個人的に動いて大丈夫ですか?」

「国王様ならきっと良い返事をくださいます。アズミ様との対面が済み次第、ゲムデース国へ一緒に行きましょう」


 断らせないためか、圧の感じる笑顔を向けながら、迫ってくる。

 顔がいいこともあって頷くところだったが、これではただただ守られ救世主になりかねない。


「あの……私ちゃんと戦えますよ?」

「確かに他の方とは違うようですが……僕が心配なのです」


 私の手を握り困った表情浮かべ見つめてくるイナトに思わず目を背ける。

 乙女要素って言ったってここまでする必要あるか!? という気持ちと、画面越しだったらここまで照れない自信あったのに! という悔しさに思わず目をぎゅっと瞑った。


「と、とりあえずイナトさんの国に着くまではわかりました! 仲間に関しては私の強さを見てから判断して欲しいです!」

「ですが……」

「とりあえず! その件は森を出てからにしましょう。ボスが近づいてきているみたいですし」


 ミニマップに写っている大きなアイコン。

 魔物を象ったシルエットにBOSSと書かれた文字。

 居るであろう場所に振り向けば大きな影が見え、この大きさなら驚くのも無理ないかなぁと他人事のように息を吐いた。


「木の魔物なんですね」

「はい。……全然驚かないのですね」


 毒々しい霧を穴から噴き出しながら現れた木。

 ハロウィンの時に用意されるカボチャの顔のような穴が空いている。

 怖いと言うには少しコミカルな作りのように見える。グロテスクなものに慣れていない人には怖いのかもしれないが。

 18禁になるようなグロテスクなゲームをVRでやっていた身としては物足りないほどだ。


「不快感の少ない魔物ですね!」

「えっ……」


 回答がおかしかったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべるイナト。


「…………頼もしいですね」

「でしょう? さあさあ、さっさと倒しちゃいましょう」


 チュートリアルで貰った片手剣を腰から抜き、寄ってくる触手を切断。紫色の液体が出てきたので避け本体へ……。と思いきや前に進む余裕はまだない。


 イナトの様子を見てみると、剣に炎を纏わせ触手ごと燃やしていた。触手を伝って本体に流れ、その炎でHPが少量ではあるが削られている。

 そのやり方が1番良いのかもしれない。


「ん? 火炎瓶ってチュートリアルで貰ってた気がする」


 触手の攻撃を避けつつポーチを漁ると、赤く光っている瓶を見つける。すぐに装備して穴の空いている場所に目掛けて投げつける。

 

 穴に入って瓶の割れた音がした瞬間、穴から見える炎。バタバタと暴れていた木は次第に力を失っていく。

 その隙に本体に斬りかかり体力ゲージがなくなったことを確認してから水をかけた。

 森全体に燃え移らないとは限らないし……。


「ほら、無傷でボス倒せましたよ!」

「……はい。しっかりこの目で確認いたしました」


 満面の笑みを浮かべながら振り向くと、イナトは視線を合わせてくれず顔を引き攣らせていた。

 ……イナト、ドン引きしてない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る