11.ゲームでも野宿はしたくない
イナトが買って来てくれた軽食を食べた後、私たちは街を出た。
まずは近場のワープポイントを目指すことになったので貰った地図を頼りに先に進む。
道中敵に出会っても、基本はイナトとルーパルドがすぐさま倒してしまい私は何もやることがない。
取得した応援スキルでバフをかける後方支援と化している。
幸い自身が倒していなくても経験値は入るのでそこまで怒る必要もないのだが、これでは身体が鈍ってしまいそうだ。
「少しは敵を残して置いて欲しいんだけど……」
「休憩の時に相手してあげますから大人しくしていてください」
「実践! 実践で戦わせてほしいんですよ私は!」
抗議をする私を無視して周りにいた敵を一掃してしまう2人。
自分だけで旅をして、ゆっくりと攻略を考えていた身としては物足りなさばかりが募る。
アイテムを拾いながら2人が見落としている敵がいないか辺りを見渡すと、黒いローブを纏った男を見つけた。
「召使さん!」
「救世主様、こんにちは。ここまでたどり着いたのですね」
「まだまだ簡単ですよ。頼もしい仲間がいるので」
私は後ろで敵をあっさり処理している2人を一瞥した。
その様子を確認したからか、召使は上機嫌で声のトーンが少し高い。
「それは良かったですね。早速ですが、地図のアップグレードを行いますか?」
「お願いしたいんですけど、素材全然確認してないです」
「救世主様のお仲間が今持っているものが素材ですよ」
「ん? 俺?」
敵を倒し終わってこちらに歩いてきていたイナトとルーパルド。ルーパルドが手に持っている獣の皮が素材だったらしく指差す召使。
ルーパルドは言われるがまま召使に皮を渡した。
素材を受け取った召使はすぐに作業に取り掛かり、忙しなく腕を動かした。
まじまじとその様子を眺めるルーパルドは、小声で私に問いかける。
「あの、この方はどなたですか?」
「召使です。救世主様が快適に旅ができるようにこうして支援を行なっております」
私が紹介する前に召使は作業を終え自己紹介をした。
「以後、お見知り置きを」と丁寧に会釈をしたことで、つられるようにイナトとルーパルドは敬礼をして自己紹介をした。
「さあ、これも持って行ってください。野宿は辛いでしょう」
地図のアップグレードを済ませた後、ローブの男は小さな箱を取り出した。
それを使用すれば箱庭の中に入ることができ、休憩ができる。
休憩以外にも、素材の保管や加工などもできてしまう優れものなのだそうだ。
「それでは、良い旅を」
召使はお辞儀をしてその場から姿を消した。
「これがあれば宿必要ないね」
「これが貰えたのも、きっと救世主さまが頼りになるからですね」
「え? いやいや、まだ始まったばっかりだよ?」
「そんなことはありませんよ、リン様。自信を持ってください」
マリエとアズミの護衛をしたイナトから言われる。
ただ私が1番適任だっただけなのだが、あまり言うのは野暮かと思いイナトを見て頷いた。
「なら私が戦闘に参加してもいいのでは?」
「それとこれとは話が別です。力を温存しておいてほしいのです」
「ルーパルドと互角だったのに?」
「……あー、ヒジョーに言いにくんですが、俺まだエンジンかかってなかっ――!」
イナトに肘打ちを食らわせられ、ルーパルドは言葉を失う。
「失礼」
何事もなかったかのように笑顔を向けるイナト。
ルーパルドに手加減されていて、しかもこうして守られるほどということはもしかしてあまり強くない……と?
木の魔物は倒せたのになぁとも思ったが、弱点がわかりやすかったのも事実だ。
「……弱いなら弱いで、初心者向きの敵を残して置いてくれない?」
「決して貴女が弱いわけではないんです! ただ、この国周辺の敵は、以前戦った魔物よりも凶暴なので」
どうやらゲムデース国は中盤程度のレベルらしく、私には厳しいレベル設定となっているようだ。
実際のゲームだと、イナトは中盤から仲間になる予定だった可能性が考えられる。
転移魔法でゲムデース国に来たわけだし、最初の国の魔物とは比べ物にならないのだろう。
「近場のワープポイントを解放した後、スタート国に戻りましょう」
最初の国の名前を見落としていたが、あまりにも適当な名前に呆れてしまう。
このゲーム、ネーミングセンスがよろしくない。
「スタート国に戻れば救世主さまも暴れられますよ!」
「暴れたいわけじゃないんだけど……」
なぜかルーパルドに戦闘狂と思われてそうなのが腑に落ちないが、この際気にしないとこにしよう。
実績を積めるのはありがたいことだし、いきなり強敵と戦うのは正直怖い。
「ま、事情もわかったことですし、さっさとワープポイント見つけて戻りましょう」
「うん。……イナト、またマリエとアズミに会ってもいいかな?」
「構いませんよ。せっかくですし近況報告に行きましょう」
「その人達は前の救世主さま?」
「うん。ルーパルドは初めて会うことになるね」
「前の救世主さまに会えるのかぁ。それは楽しみだ」
「失礼のないようにな」
「はいはい。わかってますって」
イナトに睨まれて肩をすくめるルーパルド。いつものことなのだろう、あまり気にしていない様子だ。
敵を倒しながら進んでいき、気づけば日が暮れていた。
「今日のところは休みましょう」
「早速出番だね」
箱に書かれている読めない文字をなぞって箱を開ける。
すると箱の中身が光り、私たちは箱に吸い込まれたのだった。
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