最終話 口の悪いお嬢様がデレるとき
「あたしが原因でダントリトを殺そうとしたなんて聞いて、黙っていられる訳がないでしょうが!」
とお嬢はドルガトンを睨みつけた。
そんなお嬢の怒りも気にせずドルガトンは
「俺のことを支援し回復魔法で傷を治してくれていた。俺に好意を寄せているから優先して回復してくれていたんだ。でもダントリトがいるから、自分の気持ちに素直になれない、そうだろう?」
とお嬢に詰め寄ろうとしたドルガトンを、ヤフコイヌがまぁまぁと押しとどめる。
けれどもお嬢の怒りは収まらずヒートアップしていくばかりだ。
「はっ!? なに言ってんの? 回復魔法と支援を他より優先するのはアンタが死んだらあたしらも死ぬからじゃない。死人がでないように、限りある魔力でやりくりするのがヒーラーの仕事でしょうが! 勝手な勘違いしないでくれる!?」
目を点にして呆然としているドルガトンを尻目に
「冗談じゃないわよ! バッカじゃない!」
とブチキレるお嬢を
「まぁ落ちつけ。アイツの精神力はもうゼロだから」
と宥めつつ、お嬢らしい直球の物言いだな、と心のなかで俺はこっそり呟いた。
そんな時、壁が破壊されたような音があちこちから聞こえて我に返る。
「このバカが宝珠を叩き落としたせいで、ガーディアンが来る! 逃げるぞ!」
と俺は叫ぶ。それを聞いたドルガトンは腰のポーチを調べ
「翡翠晶がない! どこへいったんだ!?」
と一人で騒いでいる。ドルガトンの慌てふためく様子をみたヤフコイヌが
「翡翠晶ならお前さんがシルリアート嬢に詰め寄ろうとしたとき、盗ませてもらいやしたよい。あっしの特技、忘れちゃいやした?」
とニヤリと笑い俺に翡翠晶を渡してくる。
「でも、あっしらはさっさと逃げやしょう」
とヤフコイヌは言いだし、お嬢も
「命あっての冒険だものね」
と同意した。俺も
「お前が自分で呼びよせたガーディアンたちと仲良くやってくれ。じゃぁな」
とドルガトンに別れを告げた。
「ぢぐじょおおぉぉおお!」
叫ぶドルガトンを一人残して翡翠晶を発動し、俺たちはダンジョンから脱出した。そしてドルガトンの裏切り行為を冒険者ギルドに報告した。その結果、アイツは生きていたとしても賞金首として世界中に認知されることになったそうだ。
◇
ギルドで手続きが終わったあと俺はススラン亭で一番安いサラダを食べていた。そういえばと思って俺は
「お前らはドルガトンの裏切りにどうやって気づいたんだ?」
と聞いてみる。
「ギルドに捜索願いをだして宿に戻ったら、武装してドルガトンが出て行くのを見つけて、傷心のシルリアート嬢を誘って跡をつけたんでやんすよい」
「傷心って、なに言ってんのよ。あんたが『ドルガトンの様子がおかしい。尾行しやしょう』って言いだしたんでしょうが!」
「『ダントリト、ダントリトォ』って泣いてたんでやんすよい。可愛いところもあるじゃ、ふごぉっ!」
ヤフコイヌが派手に吹っ飛んだ。
「ぶっ殺すわよ!」
殴ったあとで言うのか、災難だなと俺はこっそりヤフコイヌに同情した。
「怖いな」
「あっしは痛いでやすよい」
と、ヤフコイヌは殴られた頬をなでている。グーパンチだったもんな。容赦ないな、うちのヒーラー様は。
「うっさいわよ! もう!」
ぷりぷり怒っているお嬢にお酒を勧めつつ、
「ドルガトンに裏切られて翡翠晶も使いまくったあげくタダ働きか」
と俺はため息をついた。
「なに凹んでるんでやんすかい? ギリギリでやんしたから、あっしは三個」
「あたしは一個だけだった。たはは~。地面に落ちてるのを見つけるの大変だったけど、あたしの耳は地獄耳ってね」
そう言って二人が満面の笑みを浮かべ俺に見せたのは、世界樹ラシキルの宝珠だった。
ススラン亭を貸し切りにした。今いる客には
「今日は俺たちの奢りだ! 好きなもん注文してもらって構わない! 今日の食材は全て食い尽くし、酒は樽が空になるまで飲みほしてやってくれ!」
と俺が叫ぶと、店内から大歓声があがった。それからは高級ステーキを食べて、飲めや歌えの大騒ぎだ。
酔いつぶれて寝ている客ばかりになったところで、酒を飲んでいた俺とお嬢を見たヤフコイヌは話しだす。
「あっしたちも年を重ねたんですよい。今回であっしはパーティーを脱退しやす。お二人はお似合いだとあっしは思うんでやすよ」
「どうした? 何を血迷って、いきなりそんなことを言いだしてんだ?」
と俺は戸惑い聞き返す。
「シルリアート嬢が言ってた通り、ちょうどいい潮時でやんすよ。人に騙されニセ情報に踊らされたあっしたちが、ずっと追い求めていたお宝が手に入ったんでやんすよ? 新しいナイトを仲間にしてドルガトン並みになるのを待つ気はないでやすからね。もういい年になったあっしにしてみれば、これ以上ない冒険者としての幕引きですよい。泣きじゃくってたシルリアート嬢がこれだけ笑っているのは、死んだと思ってたダントリトが生きていたからでやんしょう? お互いに惹かれるところはないんですかい?」
と俺とお嬢の顔をヤフコイヌは覗き込む。
「「な、なに言いだしてんだよ(のよ)……」」
と俺たちは弱々しい声しかでてこなかった。
「年の功ですよい。素直になれってのは当たらずとも遠からず、ってあっしは思いやすぜ? ダントリトもシルリアート嬢もね。」
と言って、一つ残っていた宝珠をヤフコイヌは指差した。
「だからその宝珠はあっしからお二人への餞別ってことにしやしょう。本当に楽しい冒険者生活でしたよい」
と、手を振ってヤフコイヌはススラン亭を出て行った。
その背中を見送った俺は、なけなしの勇気を振り絞ってお嬢の手を握り
「ずっと俺と一緒にいてほしい」
と想いを告げた。
「こんな場所で言ってんじゃないわよ。まったく……」
と、頬をほんのり赤く染めたお嬢に頭をこつんと叩かれた。
そんな訳で、ダンジョンから遠く離れたこの土地で、お嬢と俺の二人で暮らす新しい日々が始まったのだった……。
了
俺たち四人の中で裏切ったのは誰だ!? 冴木さとし@低浮上 @satoshi2022
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