第4話 騎士道とは?
「おい、そこにいるのはダントリトか? 返事をしてくれ」
と話しかけてきたのはドルガトンだった。
「そうだ、俺だ! 助けに来てくれたのか?」
「探したぜ、とはいえ俺もみんなと離ればなれになって困っていたところだったんだ。助かった」
ドルガトンに
「もしかしたらこの水流の源泉近くに、世界樹ラシキルがあるんじゃないかと思って移動してきたんだ」
と俺は話した。
「そんなことがあるっていうのか? 未踏破領域の下層じゃなく、散々調べ尽くした上層に世界樹ラシキルがあるなんて」
「絶対にあるとは言えない。でも高いところから低いところへ水は流れるもんだ。その水流から光る葉が流れてきたなら、その源泉の周辺を調べてみたくなるのが冒険者ってもんだろう?」
と俺は笑いかける。
「まぁ、それはそうだが。ダントリトの無茶はパーティー結成の当時から変わらないな」
「世界は謎に満ちている。いつもどこでも大冒険が俺の信条だからなぁ」
と他愛ない昔話をしながら進むと広い場所に出た。そこには光る大樹、世界樹ラシキルは巨大な幹と葉、そして宝珠を実らせ輝いていた。
昼と見間違うほどの光を世界樹ラシキルは発している。夜のない地下といっていいだろう。常識では考えられない程の幹の太さだ。太古の昔、このルビリシア大陸が存在した時から育ってきたといわれる世界樹ラシキルには圧倒されるものがあった。
大樹の元に行ってみると石板があった。そこに書いてある古代文字を読むと
『くれぐれも世界樹ラシキルから宝珠を落とそうとは考えず、地面に落ちている宝珠で我慢することだ。ガーディアンと戦いたいなら話は別だがな』
と書かれていた。
「なんて書いてあるんだ?」
と聞かれた俺は
「世界樹ラシキルに実っている宝珠は絶対にとるな。ガーディアンが襲ってくる。落ちてるのを拾うならいくらでも持っていけって書いてある。そう書いてる割に落ちてる宝珠なんて見当たらないけどな。だが、絶対に守ってくれ」
と俺は忠告し「疲れたから少し寝るよ」といって、少し離れたところで鞘を枕にして横になった。
そして一時間ほど、ただ待った。近づいてくる装備の金属音が聞こえた俺は、寝たふりをする。不穏な気配を感じた俺は大きく身をよじらせた。
「やっぱりお前だったんだな」
と呟き、俺が寝ていた場所を見る。そこにはドルガトンが振り下ろした剣が突き刺さっている。
ドルガトンは
「いつお前を殺そうとしていると気がついた?」
俺に疑問を投げかけた。
「光る葉を見て、モンスターファームから『ここから早く離れよう』と言いだした時、お前はもう水流の源泉周辺に世界樹ラシキルがあるかもしれない、って気づいてたんじゃないのか?」
「そんな時からか。案外、勘がいいんだな」
と自嘲気味に笑った。
「お前がアイアンゴーレムに吹っ飛ばされて、真っ先に翡翠晶を使って逃げたのを見てほぼ確信した。俺でも受け止められる攻撃で、お前がぶっ飛ばされることなんてあり得ない。あれは苦戦しているように見せかけるため、手を抜いていたお前の演技だ。それを勘づかせないために、俺を攻撃したアイアンゴーレムの注意を素早く自分に引きつけた。みんなにアイアンゴーレムには勝てないと叫び、俺から奪った翡翠晶を使ってお前はさっさと一人で逃げたんだ。ガーディアンに挑む直前の休憩中で俺が寝てる間に……そうだな、ヤフコイヌが用を足しに行った隙に俺の翡翠晶を奪っていたとか。そんなところじゃないのか?」
「バレてんだな」
ドルガトンは静かに頷いた。
「そもそも本気で俺を探すつもりなら下層を目指しているはずなんだ。それが上層を目指していた俺を探していたって言うんだからおかしいだろ? そんな奴が仲間も連れずたった一人で現れた。寝ている俺を殺そうとするかもしれない、と警戒してもそんなに不思議はないだろう?」
「まんまとお前の罠にハマったという訳か」
「楽しかった昔の話をして、裏切るという考えを変えてほしかったけど、無理だったみたいだな。大事にしてた盾はどこへやったんだ?」
と、俺はでかい宝珠を抱えて間抜けな格好をしたドルガトンに問いかける。
「盾を投げて世界樹ラシキルから宝珠を落とした。これさえあれば、もう盾なんざ俺には必要ないからな」
と、コイツは勝ち誇ったように嗤いやがった。
「騎士の誇りである盾をぶん投げて、俺の忠告を無視したあげく宝珠をとるなんてさ。『騎士道とは仲間の盾になることだ』とお前は昔マジメな顔して俺に言ってたよな? その時のお前は本当にどこに行ったんだ?」
自らの騎士道を突き進んでいたドルガトンはもういない、という事実に俺は唇を噛み拳を握りしめる。
ドルガトンは俺を見下した様子で
「俺の方がリーダーに相応しい。俺がいなければこのパーティーはまともに戦闘すらできやしない。一番パーティーに貢献しているのは俺だろう! だから宝珠は全て俺のものだ! しかもシルリアートは俺に好意をよせているんだぜ? お前が本当に目障りなんだよ!」
と怒鳴り声をあげた。
「いつの間にあたしがアンタのことを好きだったことになってんのよ!」
「だめですってば。黙って話の
と、お嬢を止めようとするヤフコイヌだがもう遅い。隠れてコソコソしてるんじゃないよ、お嬢にヤフコイヌの野郎め。助けに来てくれたと信じていいんだよな!?
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