第3話 しばしのお別れ

 俺はアイアンゴーレムを観察しながら攻撃を続ける。特殊な魔法がかかっているようには見えない。だがドルガトンを吹っ飛ばすほどの攻撃をしてくる。ドルガトンはもう血まみれだ。お嬢の魔力も限界なんだろう。


 狙われるお嬢を守るように俺は立ち回り、アイアンゴーレムの一撃を剣で受け止めた。それを見たドルガトンは魔法を使いアイアンゴーレムの注意をもう一度引きつける。まだまだこれからだ!


 そう思った時だった。

「このガーディアンの攻撃に俺は耐えられない。じり貧だ! みんな翡翠晶を使って逃げろ!」

 とドルガトンは言いだして、俺が止める間もなく翡翠晶を使い、みんなを置いて一人で逃げ出した。


 仕方ない、俺も逃げようと思って翡翠晶を探したが見つからない。どういうことだ!? と焦ったがまだ手段はある。扉へ向かって走り出した俺を見つめるお嬢に

「さっさと翡翠晶を使え! みんなが逃げたあとで使うから!」

「あっしも使うでやすよい。使わないとリーダーもいつまで経っても逃げられやせんぜ!」

 とヤフコイヌも翡翠晶を使い逃げ出した。


 お嬢が戸惑いながら

「う、うん」

と言って翡翠晶を発動させたのを見た俺は

「じゃぁな、今まで楽しかったぜ。生きろよ!」

 と俺は明るく別れを告げた。


「えっ。なに言ってるの? ち、ちょっと待っ」

 という言葉を残してお嬢の翡翠晶は無事に発動した。


 この場に取り残されたのは俺一人という状況だ。扉は完全に閉じられていない。鉄の箱が邪魔してるからな。扉の隙間に滑り込んで部屋から脱出した俺は必死に走る。だがアイアンゴーレムは扉を突き破り追いかけてくる。厄介なやつだ。


 このままだと体力がなくなって、いずれ追いつかれて殺される。別の敵に挟まれてしまえば万事休すだ。何か策はないかと考えて、すぐ近くに転移の罠があったのを思いだす。マッピングした地図にもしっかり載っている。そこを目指して駆け出した。


 後ろからはまだアイアンゴーレムが、ダンジョンを破壊しながら迫ってくる音が聞こえる。「あった」と転移の罠を見つけたとき俺は呟いていた。


 運が悪ければ石の中だが、逆によければ外に出られるかもしれない。大丈夫だ! と、凄まじい破壊音を立てて追ってくるアイアンゴーレムに怖れを抱きつつも、自分の心を落ち着かせて俺は転移の罠に飛び込んだ。


 周りの視界がぐにゃりと変わって、しばらくすると普通に見えるようになった。

「ここが転移先か」

 と耳を澄ませる。アイアンゴーレムの破壊音は聞こえない。どこに飛ばされたか確認するために俺は周囲を見渡した。


 よりによって転移させられた場所は、モンスターファームだった。アイアンゴーレムに殺されるのも嫌だが、これだけうじゃうじゃいる魔物に食われて死ぬのはもっと嫌だ。


 だがこれだけ多くの魔物に気づかれず通路に移動するのは俺には不可能に思えた。だが幸いなことに水流がある。水を飲みここで救援を待てばもしかしたら助かるかもしれない。だが未踏破領域で助けがくるのを待つのが正解だ、といえるのだろうか? 誰も助けに来てくれない可能性もあるんじゃないか?


 そう考え悩んだ時、水流から世界樹ラシキルの光る葉が一枚だけ流れてきた。水は高いところから低いところへ向かって流れるものだ。……だとしたら、この水流の源泉の近くに世界樹ラシキルはあるんじゃないのか? と思いつき、この絶望的な状況に俺は一筋の希望を見た気がした。


 ◇


 そして俺はこの水流をたどって、ひたすら登って行くことにした。その方が地上にも近くなる。助かる可能性も上がるだろうと考えたからだ。


 水流に沿って山なりの道を進み、崖をよじ登った。この先にお宝が待っている、と無理やり思い込むことで自分を鼓舞した。そうでなければ未踏破領域に踏み込んでいる重圧と、襲いくる死への恐怖に耐えられないと思ったからだ。


 いつ魔物と遭遇してもおかしくない。水流をたどって歩いているとはいえ、それなりの広さはあるのだから。そう考えていたらイビルフィッシュが俺の前に現れた。たいして強い敵じゃないのは幸運だ。襲いかかってきたイビルフィッシュを叩き斬り、身を貫いてとどめを刺した。


 身体を水で洗いリフレッシュすることにした。そしてイビルフィッシュを焼いて久しぶりに食事をし、気力体力ともに回復した。


 安心して寝れれば最高なんだが、さすがにそれは無理ってもんだろう。仕方がないので見つけた洞穴の周りに罠をいくつか張り、火を焚いて仮眠をとることにした。だが仕掛けた罠がけたたましい音を鳴らし、俺はその音で目を覚ましたのだった。

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