遊郭、秘恋、嫉妬、狂気が渦巻く江戸。人間の業が交錯を医師が見つめる物語

 江戸時代の城下町。人々の暮らしの中に、古典文学「源氏物語」の調べが静かに響く。医師・木居宣長は、医業を家業としながらも、その本懐は文学、とりわけ「源氏物語」の研究にあり、夜な夜な門人たちと文学談義に花を咲かせている。そんな宣長の元で下働きをしながら医者修行に励むお優は、宣長の嫡男・春庭に淡い想いを抱いている。

 ある日、お優は宣長に同行して往診に出かける。訪れた山野村で出会ったのは、機織りの娘・おまさと、彼女を慕う青年・健吉。しかし、幸せな二人を待ち受けていたのは、過酷な運命だった。貧しさゆえに遊郭に売られたおまさ、そして彼女を救おうと奔走する健吉。二人の運命は、源氏物語「空蝉」の物語と重なり合い、悲劇的な結末へと向かっていく。

 一方、春庭は城の二の丸に仕える姫君・玲姫と出会い、互いに惹かれ合う。しかし、二人の間には身分の壁が立ちはだかり、叶わぬ恋の苦しみを味わうことになる。玲姫は「源氏物語」の朧月夜の君に憧れ、春庭との逢瀬を夢見るが、現実の厳しさは彼女を容赦なく突き放す。

 そして、城下きっての豪商・四ツ井家の若旦那・高蔭は、身分の低い娘・お夏に心を奪われ、子をもうける。しかし、高蔭には正妻・お六がおり、二人の関係は許されぬ恋だった。お六は夫の心変わりを察知し、嫉妬と苦悩に苛まれ、次第に正気を失っていく。三人の関係は、もつれ合い、悲劇的な運命へと導かれていく。

 様々な人々の想いが交錯する中で、宣長は静かに彼らの生き様を見つめる。喜び、悲しみ、愛憎、そして狂気。人間の心の奥底にある「もののあはれ」を、宣長は「源氏物語」の物語と重ね合わせながら、静かに見つめ、そして書き綴っていく

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