Bitter And Better Tomorrow


 クラシックで美しい劇だった。
 捻った設定はない。真っすぐ一本、筋が通った劇だった。

 純粋で眩しい後輩が未来に向かって羽ばたき、無情に堕ちていく。
 一瞬の輝きと死。「蝉」をモチーフとするなら、ほぼ確実に想像される話だ。
 ベタだ。ありがちだ。
 でも、王道モノこそ難しいのは、一度でも挑戦した人なら分かるはずだ。

 語弊を恐れず言うなら、この作品は非常に上質な最中のようだった。甘ったるくない。スッキリしている。だが味ははっきり感じられるような。

 登場人物の描写はほとんどない。
 例えば後輩は幻影しか残っていない。台詞も仕草も断片的だ。だが、どんな人物だったかは不思議と察せられる。
「蝉」に関する風景描写が、彼女らの道を代弁しているようだった。
 その塩梅が素晴らしかった。

 苦い喪失に意義を見出し、よりよい明日へと向かおうとする先輩の一歩は、切ないながらも美しい。
 王道が王道たりえる理由があった。

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