第23話 周辺調査開始
「よし、まずは北方面を見ておくか」
「街道側はある程度把握できてるもんね。それにしたって、無茶を押し通したね」
「ギルドマスターにもなれば、悪さの仕方もわかる」
ロロの言葉に、軽く口角を上げて返す。
そう、今の俺達は復帰冒険者の『ユーグ』と『ロル』だ。
前回、報酬の受け取りに冒険者証を出さなかったのが幸いした。
……尋ねなかった受付嬢も受付嬢だとは思うが。
その辺りも併せて胡散臭さをぬぐえなかったが、おかげで俺達はすんなりと復帰冒険者として別人に成りすますことができた。
あまりいいこととは言えないが、後でカティに頼んで上手いこと処理をしてもらおう。
「おい、
「ええと、半年も前のだね。……大丈夫? 街が滅んだりしてない?」
「さてな。とりあえず、コイツの確認がてら北へ向かうか」
マッコール子爵領北部を対象としたいくつかの依頼票を剥がして、懐にしまい込む。
お行儀の良い行為ではないが、半年も壁に貼られてくすんだ依頼票ならば、どうせ気が付きやしないだろう。
「討伐は?」
「見かけたらやる。
「繁殖してたらそれこそ災害だよ。ボクらの手には負えない」
「仕留められるかどうかも含めて、確認だな」
ロロと二人、軽くうなずき合って出口へと向かう。
そんな俺達と入れ替わりに、以前、顔を見かけた冒険者たちがギルドへと入ってきた。
「お? こないだの」
歯の欠けた男が、少し驚いた様子で俺達を見る。
冒険者の居つかないこの街で、また会うとは思ってなかったのかもしれない。
「なんだ、仕事帰りかよ」
「まあね。それにしたってアンタ、こんな所に居ついていいのかよ?」
「マーデールはいい街だと思うが?」
わざとらしく首をかしげて、軽くカマをかけておく。
一般的に見るなら、この街は気風も穏やかで安定しているようにしか見えない。
この街の冒険者であるこの男が、当事者としてどう見ているか知っておきたいと思った。
「そうかい? まあ、オレとしちゃ冒険者稼業の仲間が増えるのはありがたいけどな。だけど……」
「どけど?」
「いや、その内にわかる。命は無駄にするなよ」
軽くぽんぽんと俺の肩を叩いて、カウンターへと歩いていく男。
少しばかり含みのある言い方だが、拒否感は感じられない。
事情は察してるが、
「それじゃあ、行こうか」
「ああ! 頑張ろうぜ」
わかりやすく声を掛け合って、ギルドを後にする。
冒険者ギルド周りの厄介に手を出すのは、とりあえず帰ってからだ。
マッコール子爵の調査報告と併せて、上手く立ち回らないといけない。
ああ、くそ。
こういうのは、サランの得意分野なんだがな。
とはいえ、要請があったとはいえ首を突っ込んだのは自分だ。
泣き言を言って助けを求めるのも、なんだか癪に障る。
「ま、手早く行こう。最初に目指すは北街道沿いにある『ムゾーラ』だ」
「うん。グレグレと馬なら二日くらいかな」
地図を見ながら、軽く空を見上げる。
静かに晴れた空が、少しだけ俺をわくわくとさせた。
◆
「いるな」
「いるね」
街道の宿場町『ムゾーラ』からほど近い森の中、藪の中に身を潜めた俺達は小さく頷き合う。
依頼のあった討伐対象ではないが、あまりよくないものを見つけてしまった。
「本体はボクが
「ああ。俺はああいうのが苦手だからな」
俺の言葉に苦笑しつつ、ロロが
うっすらと青く光る刀身を確認して、小さく殺気を漏らすロロ。
ああ、相変わらず俺の親友はほれぼれするくらい多彩だ。
この一瞬で、二つか三つかの付与魔法を剣に備えた。
詠唱もなく、揺らぎもなく、まるで当たり前のように離れ業をやって見せるロロが隣にいると、殴るしか能のない俺は少しばかり落ち込んでしまいそうになる。
「……でるよ」
「おう」
小さく返事して、同時に飛び出す。
俺と同じスピードで地を駆けるロロの狙いは、森の中をゆらゆらと歩く
コイツは、
つまり、こんな街のそばで見かけてはならない
宿場町に踏み込まれでもしたら、文字通りのゴーストタウンにされちまうかもしれない。
だから、ここで潰す。
「真っすぐ行け! 道は俺が拓く!」
「了解!」
黒い
とはいえ、半分霊体な
――だからこそ、ロロが前に出たのだ。
「スゥーィー……シャー……!」
「ボクに言葉は通じないよ!」
生物がその根底に持つ死への恐怖だ。
しかし、ロロは高い魔力でそれに完全に抵抗してみせている。
俺は、ちょっとだけ怖かった。
前は大丈夫だったんだが……もしかすると、大事なもんが増えた分だけ恐怖が増したのかもしれない。
そんな俺の隣を高速で駆け抜けて、ロロが小剣を振るう。
青白い軌跡を残した斬撃が一瞬で二度放たれ、
「とどめ!」
小剣の先から魔法の光弾を連続で数発放って、ロロが小剣を軽く振った。
その瞬間に、『壊滅危機』に分類される強力な
周りの
「討伐完了、だね」
「やれやれ……こんなもんまでうろうろしてるとなると、いよいよマズいな」
「うん。思ったよりも状況が悪そうだね。サランに手紙を飛ばして、対応を考えてもらったほうがいいかも」
「気は進まねぇが仕方ねぇ。これで、借りのある身だしな」
軽くぼやきながら、俺達は死臭立ちこめる森を静かに後にした。
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国選パーティを抜けた俺は、やがて辺境で勇者となる~〝悪たれ〟やり直し英雄譚~ 右薙 光介@ラノベ作家 @Yazma
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