第7話

 教えてもらった道を辿り、私は急いで森を出ました。籠には小瓶を忍ばせています。


 すっかり夜でした。まんまるのお月様が二つ、夜空にぽっかりと浮かんでいました。家では、人形遣いがお腹を空かせて待っていました。

 私は急いで夕食の用意に取り掛かり、スライスしたパンや温かいスープを食卓に並べます。それと、木製のさかずきになみなみと果実汁を注ぎました。


「この果実汁はどうしたの?」


 人形遣いは杯を持ち上げ、琥珀色に輝く液体に目を落とし、不思議そうに言いました。


「ベリー類をいくつか混ぜたの。恋の媚薬入りよ」


 私が微笑むと、人形遣いは形の良い唇の両端をくっと上げて、面白そうな瞳を私に向けてきます。


「恋の媚薬か。それは面白い。是非、頂くよ」


 人形遣いは杯に口をつけ、一気に飲み干しました。私も、たっぷり入った琥珀色の液体をごくりごくりと流し込みました。それはひどく熱く、喉を通ってお腹に入っても、その熱はしばらく冷めませんでした。


 人形遣いが寝込んでから、急いで広場に向かいました。腕の籠には、果実汁の入った瓶と、杯を二つ詰め込んで。


 月灯りに照らされた広場には、毛布にくるまれたプリシラと、彼女に寄り添うエヴァンが座っていました。


 私はゆっくりと二人に近づき、夢見る瞳のプリシラと、目を瞑るエヴァンの前に立ちました。エヴァンは瞼を上げ、こちらを仰ぎます。


「リラ……? どうした? こんな夜中に」


 驚きを含んだ、少し咎めるような声音でエヴァンが言うので、私はしゃがみ込み、急いで果実汁を杯に注ぎました。


 月光を受ける果実汁は琥珀色に輝き、飲まずにはいられないような不思議な輝きを放ちます。私はエヴァンと、プリシラに差し出しました。

 

 エヴァンは戸惑ったような表情を浮かべながらもそれを受け取りましたが、プリシラは手を出すことも、こちらに目を向けることもなかったので、唇に杯を寄せてあげました。彼女のすっかり乾ききった唇に、木製の杯を優しく押し付け、少し傾けると、彼女は少しずつ飲み始めました。最初は少しずつ、それから、震える手を杯に添えると自分の力で杯を握り、全てを飲み干しました。

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