第2話
森の奥深くに、一人の老婆が住んでいました。
名をアリシアといって、よく効くと評判の薬や強い呪いのかかったお守りを売って生活していました。
そう、アリシアは魔女でした。かつては、そこら中にいたといわれる魔女です。
ひいひいおばあちゃんが生きていた頃、世界を支配していた強大な魔法の力は、もう見る影もありません。魔法を心から信じる者などほとんどいないのです。それでも、細々と引き継がれてきた魔法の力。その最後の残り火も、かたかたと動く機械の力を前に消え失せようとしていました。
最後の残り火のひとつであるアリシアは、辺鄙な村の、更に奥深い森にひっそりと暮らしていました。押し寄せる機械文明に抗うことなく、ただ静かに、彼女の成すべきことをして。
幼い頃から、魔女の登場する物語を好んで聴いていた私は、当然のごとく、村でひそやかに噂される森の魔女のことが気になっていました。
けれど、両親も姉も、森には入ってはいけない、魔女には近づいてはいけないと、堅く禁じたのでした。
確かに、森からは時折狼の遠吠えが聞こえましたから、何の力も持ち合わせていない子供が、たったひとりで森に入るなど正気の沙汰ではありません。
私も狼に食い殺されるのは嫌でしたから、小さな胸の中で燃え上がる好奇心を無理矢押し込めて、家族の言いつけを素直に守り、森の奥に住むアリシアの元へ行くことを諦めました。
そうして、すっかり魔女の物語を読まなくなった頃。私は一人の青年に恋をしました。彼は優しい人でした。
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