第3話

 小鳥たちが春の訪れを告げた日。大きな黒い鞄を片手に、一人の素敵な青年が村にやってきました。

 彼は都会的で、とても洗練された空気を纏っていました。


 一目見たとたん、村の若い娘たちは、誰もが彼に夢中になりました。

 彼は人形遣いで、国中をまわって、人形芝居を見せていると言っていました。彼の操る人形たちは、本当に生き生きとしていて、まるで命が宿っているかのように動き、言葉を発するのです。


 手足にはちゃんと糸が繋がっているのに、それを忘れてしまうくらい、彼の技術は見事でした。


 彼は夜な夜な、村の広場に人を集め、人形芝居を催しました。たったひとりで幾体もの人形を操る姿は、お伽話の魔法使いのようでした。


 私はふと、楽し気に踊る人形たちから伸びる糸の先を目で辿りました。金色の髪はふわりと揺れ、空色の瞳はきらりとした光を宿し、形の良い唇の両端がくいっと上がり、とても美しい微笑みを湛える青年—―人形遣いは、夢の中に現れる王子様のように美しく、輝いていました。


 彼を見ていると、胸がドキドキしてきて、居ても立っても居られない気持ちになります。いち早く彼の元に駆け寄り、彼に笑いかけられたい、彼の頬に、その白い手に触れてみたい。そんなふうに思ってしまうくらいに。まるで恋でもしたかのような、そんな気持ちです。


 私は、村に住む多くの若い娘たちと同じように、毎晩広場へと通いました。薄暗い広場では、ランタンの灯りでぼおっと浮かび上がる人形遣いを、愛おしそうにうっとりと眺める娘たちの顔が並びました。恋人のいる娘さえも彼に夢中でした。


 そこに集う誰もが人形遣いに想いを寄せ、自分もその娘たちのうちのひとりである――それが、嫌だったのでしょう。

 

 大勢の中の一人にすぎないというのは何とも情けないものです。他の誰よりも彼に近づきたい。その一心で、誰よりも早く広場に駆け付け、誰よりも長く居座ろうと努めます。けれど、考えることはみんな一緒です。


 そのうちに、一日中広場で過ごす者まで現れました。仕事をするように、学校へ行くようにと、家族や教師が必死で説得しても無駄でした。娘たちは、ただうっとりした顔で広場に座り込み、人形遣いの芝居を待つばかりです。その頑なな姿は、傍から見るとぞっとするものがありました。


 広場に座り込む娘たちは日に日に増えていき、次第に村は大混乱になりました。娘たちの家族や恋人は、不安そうに、あるいは怒りに満ちた顔で、広場に集まるようになりました。そして、諸悪の根源である人形遣いを追い出しにかかりました。


「お前が娘たちに怪しい魔法をかけたんだろう!? 邪悪な魔法使いめ! 早くこの村から出ていけ!!」


 村人たちは心無い言葉を投げつけました。石を投げる者もいました。それでも、美しき人形遣いは、決して村を出て行こうとはしませんでした。私は村人たちの行動がますます酷いものになることを恐れました。あんなにも美しい青年を、卓越した技術を有する人形遣いを、残酷な目に遭わせたくない。それに……

 

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