第10話


 ある晴れた日の朝のこと。


 私は荷馬車に揺られて、村を後にしました。


 住み慣れた村を出るのは寂しいけれど、お墓で眠る両親もきっと私の門出を喜んでくれていると思うのです。村の外に、嫁いだ姉にも手紙を書きました。


「寂しいか?」


 隣には、優しい微笑みをたたえたエヴァンが座っています。


 黒い髪をいつも以上に短く刈り込み、深緑色の瞳には決意に満ちた強い光が宿っています。村を出て、機械作りを学ぶ学校に入るのです。

 本来なら、一人で行くべきところですが、エヴァンは私を連れてくと譲りませんでした。


——ずっと一緒に居ると誓った。ずっとっていうのは、こういうことだ。


 エヴァンはそう言って、拒む私の手を離しませんでした。


「ううん。エヴァンがいるなら、どこでもいいの」


 素直にそう言えてしまうのは、まだ恋の媚薬が効いているからでしょうか。


「俺もだ。お前がいれば、どこにいても幸せだ」


 エヴァンはその太い腕で、私の肩を抱き寄せました。温かなエヴァンの胸に頭を寄せ、私はそっと目を瞑ります。


——絡み合った糸が、どうか解けますように。


 そう願ってくれたおばあさんの声が耳に蘇ってきました。


 私は、プリシラがエヴァンに恋してないことも、人形遣いが私に執着しているのが恋ではないことも、自分自身の恋心も知っていました。

 

けれど、エヴァンの気持ちは知らなかったのです。だから、この結末を知っていたわけではありません。

でも——


(ありがとう)


魔女アリシアは知っていたのかもしれません。絡み合った糸のほどけた先にある、この未来を。

  

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恋の媚薬 雨宮こるり @maicodori

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