第5話傭兵ギルド
「これ、お願いします」
傭兵ギルドに到着した俺は受付で一番好みの女性が座っている席に向かう。おそらく一番空いている時間だったのだろう。並ぶことなく済んだ。
「はい。確認しますね」
「えっ?……あの、これって本物ですか?」
「本物ですよ。門の衛兵からもらいましたし」
「なんなら確認とります?」と尋ねると受付嬢は首を横にふった。
「いえ、少し驚いただけなので。失礼しました。それでは、ギルドカードをお出しください」
「あ、えーと。俺まだどこのギルドにも所属していなくて、ギルドカードは持っていないんです。とりあえず市民カードじゃダメですか?」
「ダメではないですが、それでしたら傭兵ギルドのギルドカードを作った方が便利だと思いますよ」
困ったら傭兵ギルドへ行け。そう言われるほど傭兵ギルドに所属するメリットはある。逆にデメリットはパッと出てこない。もしかしたら底辺職だと見下される可能性はあるかもしれないが、上位の傭兵は子供たちの憧れの的だ。実際俺も憧れとまではいかないが、異世界といえば冒険者(傭兵)みたいな考えは今でもある。
しばらく帰ってくるなと言われている身としてはなんとかして生活費を稼がなければいけない。親からもらった支度金も何もしなければ一ヶ月持つかわからないし。
異世界でお金を稼ぐ筆頭といえばオセロや将棋、マヨネーズだが、マヨネーズはそのまま存在しているし、オセロと将棋も名前を変えて同じルールのゲームがすでに存在している。世の中そんなに甘くない。
「そうですね、とりあえずそれでお願いします」
「かしこまりました。報酬も一緒に用意しますので5分ほどお待ちください」
そう言って席をたった受付嬢の背中を見つめる。立ったときに揺れた髪からいい匂いがしたのは秘密だ。
こういうとき、前世ならスマホでも触って時間を潰すのだが、この世界にはそんな便利なものはないのでどうも慣れない。まあ、綺麗な女性を眺めているだけでも十分楽しめるのだけど。
楽しい時間はすぐに終わりを迎える。市民カードと同じくらいの大きさのカードと大きく膨らんだ皮袋を手にきっちり5分で彼女は戻ってきた。
「お待たせしました。ギルドカードとこちら、盗賊討伐の報酬500ゴールドです。ご確認ください」
「5、500ゴールドってマジっすか」
「はい。マジです」
500ゴールドといえば一人暮らしだと3年は、住むところを考えれば4年は普通の生活ができる。
前世の感覚だとどれくらいだろう。30年実家暮らしだから正直わからない。ただ一つ言えるのはあのおっさん5匹殺すだけで貰えていい額ではないということだ。ほんと何したんだアイツら。
金貨を数え終えたので傭兵ギルドのギルドカードを見る。市民カードとの違いは色くらいで、それ以外はないように見える。あ、何か数字が書かれている。
「あの、この数字は?」
「はい。そちらの数字は現在の等級を表しています。数字が大きくなればなるほど上位の等級になります」
「等級によって何か変わるの?」
「はい。等級は言ってしまえば信頼です。一般的な依頼は等級関係なく受けることができますが、一部の依頼に等級の制限があります。例えば3級以上のみ受注可などです」
なるほど。つまり俺のギルドカードに書かれている「2」は発行後すぐなので本当は1になるはずだけど盗賊を討伐したことでギルドから信頼を得たということだろう。どういう基準でこの数字が上がっていくのかはわからないが、少なくとも彼女たちからの信頼は得られていることはわかる。
「等級はどうすれば上がるの?」
「依頼にはそれぞれギルドがポイントを設定しています。依頼を達成することでそのポイントを加算していき、規定のポイントに達すると等級が上がっていきます」
「でもそれなら簡単な低ポイントの依頼ばかりこなしていけば実力以上の信頼を得るし、その逆もあり得るんじゃ」
「規定のポイントは指数関数的に増えていくので実力以上の評価を受けることはほとんどありません。ただまあ、レイさんのおっしゃる通りその逆は少なからずあります。しかし、考えようによってはきちんと評価しているといえなくもないんですよ。」
「もう一つや二つ上の等級になれる人がそれ以上に上がろうとしないのは性格に難ありと言えないこともありません。ここだけの話、こんな人ほとんどいないんですけどね」
内緒ですよとあざとく言う。これで何人の男が犠牲になったことか。わかっていても可愛いのはずるい。
「何か質問はありませんか?なければこれで終わりになりますが」
最低限知りたいことは知れたかな。これ以上は疑問が出てくればその都度尋ねればいいか。
「ありません」
「それでは以上とさせていただきます」
「あ、宿ってどこにある?綺麗で安全なところがいいんだけど」
「それでしたら『花鏡』がおすすめです。場所はギルドから出て右にまっすぐいくと左手に見えてきます。少し高いですが、その分防犯面に気を遣っていますよ」
「ありがとうございます」
「いいえ。それでは、またのご利用をお待ちしています」
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