第3話旅立ちと盗賊

「レイ、起きなさい」

 嫌だ。まだ眠い。

「起きないのなら」

「わかった。起きるよ」

 寝ぼけているところにアレは鬼畜すぎる。前にやられた時はびっくりして心臓が止まるかと思った。2度目の死はできれば納得できる死がいい。

 納得のいく死ってどんな死だろう?哲学っぽいし、今は興味ないんだけど。人生の命題にするくらいはいいかもしれない。何気なく生きて、ふとした瞬間に考える。その程度で十分ではないだろうか。

「おはよう。朝食はできているよ」

 リビングに向かうとすでに父が席に着いていた。並べられた朝食にはまだ手をつけていないようだ。いつもなら先に食べているのに。

「おはよう。先に食べてないんだ。いつもならもう食べ終わってるのに」

「ああ、しばらく家族全員での食事ができないからな」

 チッ。逃げ道を塞がれた。ここで何も言われなければなあなあにできた可能性があったのに。

「レイの考えていることくらいわかるさ」

 おまけに考えまで読まれてしまった。さすが父親。敵う気がしない。

「さあ、食べようか」

 俺が席に着くと父が号令する。

 食前の挨拶と食後の挨拶は日本と変わらず、「いただきます」と「ごちそうさま」だ。手を合わせて合掌する。

「いただきます」

 今日の朝食はいつもより少し豪華だ。父の言った通りしばらく家族全員が揃うことがないからだろう。

 この世界の、というよりもこの家の朝食は肉がメインだ。なんの肉かはわからないが、さっぱりとした味で俺は好きだ。

 洋風っぽい朝食を食べ終えると父がカトラリーを置いた。カタリと音が鳴り、食卓に緊張が走る。

「レイ。いや、なんでもない。色々言おうと思ったが、やめた。気をつけて行っておいで」

 父はフッと微笑んだ。

 母の方を見てみると父と同じく笑顔を見せている。

「うん、行ってくるよ」

 

 諸々の準備を終えたのが朝食後30分だった。

 気合いを入れるために普段はほったらかしにしている髪を整えて一つにまとめ、手持ちの服の中で動きやすい格好に着替え、母のお下がりの防具を身につける。詳しくはわからないがこの防具、結構いいやつみたいだ。農家の前何してたの?

 腰に護身用の剣を携え、旅人御用達のローブを身に纏う。剣は幼い頃から使っている切れ味のいい普通の剣だが、ローブの方は父が昔使っていたもので、魔法に対する防御や、魔法の補助効果が付与されている逸品だ。材質は知らないが、俺が生まれる前の品のはずなのに今でも新品同然に見える。

 最後に、見た目以上に中にものが入るのに重さは変わらない魔法のかばんを持って準備完了だ。まだ中身は着替えと当分の資金と保存食だけしか入っていない。

「それじゃ、いってきます」

 履き慣れたブーツを履き、半身で両親に言う。今生の別れではないのだからこのくらいでいいだろう。父も母もあまり気にした様子は見せていない。いや、少し…… これ以上は野暮か。

「いってらっしゃい」

 両親の言葉を背に俺は家を出た。

 

 約3時間後。

 太陽が頭上に来て、隣の町までだいたい半分ほどのところで事件は起きた。

「待な、嬢ちゃん。」

 盗賊の登場である。

 小汚いおっさんが5匹。俺を囲うように布陣した。

 はあ、だから引きこもっていたかったのに。

 

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