第4話盗賊

「大人しくしていれば痛い目を見ることはないぜ」

 ゲスい笑みと共に盗賊たちがジリジリと距離を詰めてくる。なんか臭ってくる。長い間風呂に入っていないのだろうか。臭いだけでなく病気とかも持っていそうなので、これ以上近づかないでもらいたい。

 なんだろう。自分よりも体格のいいおっさん5匹に詰め寄られると普通は恐怖を覚えるはずなのだが、一切恐怖を感じない。

「【氷の鎖グラキコースカテーナ】」

 正面に立つ男に向けて手をかざし魔法を唱える。

 今回使用した魔法は文字通り相手を氷の鎖で拘束する効果を持つ。鎖系の魔法なので拘束力は言わずもがな。一度捕まると抜け出すのは至難の業だ。見たところコイツらは全員が剣や斧を使った物理アタッカーなので氷との相性は最悪だ。凍えて力が入りずらいので体感では他の鎖系魔法より拘束力は上だ。

「なっ。お前、魔法が使えたのか」

 見ればわかるだろうに。どこからどう見ても前衛タイプには見えないだろ。俺を見て前衛と思うやつは初心者か創作物の読み過ぎだ。

 それに、比較的安全な場所だとはいえ、中身はともかくなんの自衛手段のない女性が一人だけで町の外に出るはずがない。

「見ればわかるだろ普通。お前ら盗賊向いてないよ」

「クソッ」

 リーダーらしき男が代表して悪態をつく。

 いやーみっともないね。ああはなりたくない。

 さて、コイツらはどう処理しようかね。

 両親の教えでは「盗賊・山賊は見つけ次第すぐに処せ」だが、俺の精神衛生上あまりよろしくない。

 でも、山賊たちは懸賞金がかかっていることが多いんだよね。殺すのに少なからず抵抗はあるが、生きていくためだし、すぐ近くに故郷の村がある。村には過激派の両親がいるのでコイツらが見つかれば確実に死ぬことになるが、それまでに被害が出る可能性がある。

 それはできれば避けたいと言うのも俺の素直な感想だ。

「殺したくはないが、放っておきたくもない」だったら町まで連行すればいいのだが、成人男性5人を引っ張っていく力はないし、何よりコイツらと一緒の空気を吸いたくない。

「と、言うわけでお前ら処刑な」

 俺が出した結論は、首だけ隣町まで持っていくだ。殺すのは心苦しいが、仕方がないことだと割り切る。生首は使い捨ての袋に入れた上でかばんにしまってしまえば気になることはないはずだ。

「ひっ……や、やめてくれ」

 おっさんがみっともなく命乞いをする。

 こういうのされると汚い盗賊のおっさんでも一瞬躊躇してしまいそうになる。

 しかし、こういう場面で躊躇してしまうと負けだと両親から教わっている。俺も冷徹にならなければいけない。

「えっ、なんで?お前らが先に襲ってきたじゃん。それに他にも同じようなことしてたんだろ?自分たちは同じ目に遭わないとでも?」

「や、やめーー」

 一思いに首を切り落とす。

 リーダー的な男が殺されたことで他の盗賊たちも焦りが増す。

 俺は動けなくなっている盗賊たちの首を一つづつ丁寧に落としていく。

 切り落とした盗賊たちの頭を包み、かばんに入れる。

 盗賊たちをひとまとめにし、魔物や獣が出てこないように灰になるまでしっかり燃やす。

 

「よし」

 盗賊たちの後片付けた俺は腰を上げ町に向かって移動する。気分的にはもう村に帰りたいのだが、村には盗賊をお金に変えるような場所はないので一旦はそういった場所がある隣町まで移動しなければいけない。

「はあ」

 それでも、まだしばらく歩かなければいけないのは怠い。

 3時間後町が見えた。遠目からでも俺の暮らしている村とは比べ物にならないほど広く栄えているのがわかる。

 町の門には見張りの衛兵が4人いた。2人は門の両脇に槍を片手に立っており、残りの2人は見張り台の上にいる。

 町と呼ばれる規模となると中に入るために身分証が必要となる。今の俺の場合は生まれたときに作る市民カードだ。

「次」

 町に入るために検査をするので少し列ができる。とはいっても、俺の基準ではこの町も村よりは少し大きいだけなので10分も待つことはない。

「身分証はあるか」

「はい」

 かばんから市民カードを出し、衛兵に渡す。

 衛兵は渡したカードをクレジットカードを挿すやつのようなものに市民カードを挿し込む。しばらくするとピーと音が鳴る。音が鳴り止むと衛兵はカードを抜き取り確認する。

 カードを見た衛兵の表情が少し厳しいものになる。

「きみ、この町に来るまでに盗賊を討伐した?」

 お、今の一瞬でそこまでわかるんだ。すごい道具だな。

 どういう理屈かはわからないが、ここは素直に答えていいだろう。

「はい。証拠もあります」

 そう言って俺はかばんから盗賊たちの頭を取り出し衛兵に渡す。

「少し待っていてくれ」

 袋を開け、盗賊の顔を見た衛兵は顔色を変え門の脇にある小屋に走っていく。

 あの慌てようもしかするとかなりの大物なのかもしれない。

 少し期待して待っていると先ほどの衛兵が紙を持って戻ってきた。急いで来たからか、少し息が上がっている。

「待たせてすまない」

「いえ。あの、その手に持っている紙は?」

「ああ、それも含めて説明するよ。きみが討伐した盗賊だけど、ここら辺じゃ結構有名でね、傭兵に討伐依頼を出しているくらいなんだ。この紙は討伐証明書みたいなものだよ。依頼の達成報酬はすでにギルドに支払っているからこれを持っていけば換金してもらえるよ。それだけ。入っていいよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 それではと軽く会釈をして町へ入った。

 

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