第10話一週間後。トロール

アリッサムを引き取って一週間が経過した。この期間は傭兵としての活動を休止し、彼女のまわりを整える時間にあてた。サボりも含めての時間だったので、この一週間は素晴らしい時を過ごすことができた。

 そんなときにも終わりはある。

「お姉ちゃん、そろそろ働かないの?」

 アリッサムちゃん、俺はそんなことを言う子に育てた覚えはありませんよ。

 しかし、アリッサムちゃんのこの言葉を聞いていたのが俺だけであるなら空返事をするだけで無視を決め込むことができるので問題視することはなかった。

「そうですよ。レイさんはそろそろ仕事をするべきです」

 残念なことに、この場には俺たち二人の他にもう一人、花鏡のかわいい受付ヨシノちゃんがいるのだ。

 当然、ヨシノちゃんは俺がこの一週間サボっていたことを知っている。傭兵ギルドの受付嬢をしている姉がいるので俺が仕事をしていないことはあまり良いように思わないのだろう。

「明日には行こうと思っていたんだよ」

 だから、小学生くらいしか言わないであろうセリフを使ってしまったのだ。

「なんか小さな子どもみたいなこと言いますね」

 この世界でもあるんだ。

「ま、まあとにかく、明日はちゃんとギルドに行くから。本当だから。そんな目で見るな」

 幼女にジト目で見られて喜ぶような特殊な性癖は俺は持ち合わせていない。一部の人は本当にこれが良いみたいだから不思議でならない。

 翌日、いつも通り朝の10時過ぎに傭兵ギルドを訪れた。

 ちなみにだが、アリッサムちゃんは花鏡に置いてきた。戦える術を少しずつ教えてはいるが、まだまだだ。覚えはそれほど悪くはなさそうだが、体があまり強くないので訓練に割ける時間が少ない。

「これ、受けます」

「はい。受理しました。がんばって下さい」

 俺が受けた依頼はトロールの討伐。依頼の成功報酬は50ゴールドと20ポイント。アリッサムちゃんをあまり一人にはできないので近場かつそこそこ報酬がいいものを選んだ。なんでこれがまだ残っているのか不思議なくらいだ。あんなの力はあってもトロイだけなのに。

 トロールが現れるという西の街道沿いに着いた。

 遠目からでもそのでかい図体のおかげで街道に陣取っていることはわかっていた。

「さて、さっさと帰りたいからもう終わらせようか」

 盗賊たちにも使った【氷の鎖グラキコースカテーナ】を目の前にいるトロールたちに使用する。魔法に対する耐性がそれなりにあるので盗賊たちよりも効果は薄いが、それでも確実にトロールの下半身を拘束する。

「はい、終了」

 トロールは素材になる部位がないし、かと言って食べられる箇所もない。正確には食べられるんだけど、食べようとも思わないほどまずいと本に書いてあった。まあ、美味かったとしてもこんなドブみたいな見た目の生き物食うほど俺はゲテモノぐらいではない。元日本人ではあるが。無理なものは無理だ。タコと一緒にするな。

 首を切り落として討伐完了。証明部位を切り取って残りは全部燃やす。残しておくと他の魔物が寄ってくるからな。

 こうして、俺は晴れて等級3の傭兵になった。

 

 

 

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