第11話騎乗依頼

「この依頼だけは俺が受けます」

 いつも通り、簡単な依頼を受けた帰り、普段ならこの時間には依頼の貼り付けは行なっていないのにそれが行われているのを不思議に思ったのがこのことの始まりだった。

 新しく張り出された依頼にはこう書かれていた。

 『【急募】騎手求む。5月26日に行われるダービーに騎乗してほしい。条件は乗馬経験者。場所はフーチュン。アンソニー厩舎まで。報酬は獲得賞金の10パーセント。2ポイント』

 依頼の内容を確認するなり、俺はいち早くそれを剥ぎ取って受付のサクラさんに詰め寄った。

「あの、本当に受けるのですか?言ってはなんですが、あまりいい依頼とは言えませんよ」

「もちろん。このために生きていると言っても過誤ではないですよ」

「分かりました。それでは受理します。あ、乗馬経験者が条件ですが、レイさん馬に乗れるのですか?」

「田舎者はだいたい乗れますよ。うちにも一頭栗毛の馬がいますよ」

 名前はオルフェーウス。前世の3冠馬にそっくりの見た目をしていたので俺はそう呼んでいる。似ているのは見た目だけで、気性も足の速さも似ていないが。まあ、農耕馬なので当然と言えば当然だが。

 それにしてもなんて酷い両親だ。俺が馬を知っておきながらこの世界に競馬があることを教えてくれないなんて。知っていればイヤイヤ家を出る事なんてなかったのに。

「そうなですね。はい、受理しました。依頼の日まで時間がありませので急いで向かわれて下さいね」

「もちろんです。遅れるわけにはいきません」

 滅多に見ることのできない俺の張り切った様子にサクラさんは驚いた表情を見せる。なかなか拝むことができないのが、俺も急いでいる。最後にもう一度だけ振り返ってその表情を目に焼き付けてから傭兵ギルドを去った。

 走って花鏡まで移動し、アリッサムちゃんを呼び出す。

「急ぎの予定が入ったから急いで出発の準備をして。その間に俺は買い物に出かけるから終わったらここで待っていて」

「あの、どう言うことですか?」

「今は時間が惜しいから移動しながら後で教えるよ」

 用件を伝え終えた俺は旅に必要な水や保存食を買うために市場へと足を運んだ。

 フーチュンまで馬を使ってだいたい10日なので余裕を持って二人で15日分の食料を買う。こういうとき親からもらったかばんのありがたさを痛感する。大量の食料を仕入れても全く嵩張らないし重さも感じない。

 最後に馬を一頭借りて花鏡まで戻る。もちろん、馬の餌も十分に購入している。この街まで返しに行かなくていいので行きの分だけでいい。システム的には前世のレンタカーの乗り捨てのようなものだろうか。知らんけど。

「準備はできてる?」

「はい。あの、これからどこへ行くんですか?」

「フーチュンだよ。そこでレースに出るんだ。ダービーって知ってる?」

「いいえ。聞いたことありません」

「そっか。まあ簡単に言えば若い世代で一番強い馬を決めるレースの一つ、かな」

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30歳無職の異世界TS記 茂戸藤アキ @yu-na0702

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