幕引 ――友よ!
ハリー・ハリソン
やあ! 俺だ!
誰だって? 俺だよ俺、ハリソンだ。
俺は先日、「魔女」を捕まえた。この科学の時代にそんな存在、寝ぼけてるのかと思うかもしれないが本当なんだ。
怪しげな占いだの儀式だので願いをかなえると噂でな。貴族、商人、議員にまで信奉者が広がっていたもんだから、一大スキャンダルに発展したぞ!
議員辞職や大商会の廃業まで出て、てんやわんやだ。ハッハッハ! 笑ってられないな!
まあ俺は一介の巡察隊員。偉いさんとは違って政治問題には関わらん。
ひとまず事件が落着したんで、やっと家でゆっくりできた。愛する妻ともイチャイチャできて満足だ。
そういえば、いろいろな事件の解決に協力してくれるアリーという友人が最近ようやく奥方を迎えたんだ。
それがまあ目をおおうほどの溺愛ぶり。若くてかわいい奥方だが、アリーも色男なんで似合いではある。
病気を乗り越えて結ばれた愛だ、幸せになれ! 俺は応援しているぞ!
魔女のアジトにつながる情報もアリーが探り出してくれたんだよな。
どうやってそんなことをと俺は尋ねた。怪しいことに手を染めているのなら、友人として捨て置けん。
だが奴は苦笑いした。
「いや、エルシーの病弱を治してやりたかっただけだ。普通に相談できるところを探していたら、たどり着いたのが魔女だった」
「なに!?」
「妙な薬だの祈祷だのをやるのに大金を払えと言われたよ。おかしいと思ったんだが、もしかしたらこれがハリソンの追ってる組織なのかと考えて、できるだけ近づいてみたんだ」
「アリー!!」
俺は激怒した。
「おまえって奴は……おまえって奴はッ! 俺なんかのために危ない橋を渡るんじゃない! 奥方が悲しむことになったらどうするんだ!!」
「……あ、ああ。すまん。気をつけよう」
気圧されたように目をパチクリしやがったが、本当に困ったものだ。魔女たちは真実ヤバかったんだぞ。
捜査の途中で殺されたウィンリー子爵は人身売買に関わっていたらしい。その恨みから毒を盛られたんだ。
店への呼び出しに名前を使われたのは対立する保守派の議員だが、本人にはアリバイがあるし殺人にまで及ぶ動機も見当たらない。料理人の単独犯行ということで決着した。
魔女のアジトに踏み込んだ時もひどかった。撹乱するためか、館に火を放ったんだ!
だが俺たち巡察隊はそんなものには負けない。一網打尽に組織を壊滅に追い込んだ。館にいなかった者も逃走先で確保したさ。
その一人が「カーヴェルめ!」と叫んでいたようだ。アリーのフルネームはアリステア・カーヴェル。たぶんそいつがアリーの相談にのった奴なんだろう。情報を探られたことに気づいたのはほめてやるが、逆恨みはいかんな。
そんな発言からアリーが疑われるようなことがあれば俺が一肌脱ぐつもりだったんだ。しかし「それは捜査せんでよい」と上からお達しがあった。
うんうん、よくわかってるじゃないか! アリーは俺の親友だからな!
あいつはただの投資家であり、国の行く末を憂う国士であり、ベリントンの治安維持のために俺に協力する志士なんだ。
まあ街の治安については奥方を不安にさせたくないだけだと俺はにらんでいる。愛妻家にもほどがあるな!
さて俺は、そんな事件のてん末を話したくてアリーの家を訪ねたんだ。
いつもいきなりなのは申し訳ないが、俺も巡察隊員、緊急の事案が常に俺を呼んでいる。ふと空いた時間を見つけては友情を深めているというわけだ。
「――だんな様と奥さまは、ただいまご旅行中ですが」
「なんだと!」
留守を預かるのは忠実な夫婦者だ。申し訳なさそうにされたが、俺は思い当たった。
「ううむ、ベリントンは今、陰惨な事件で揺れているからな。そんな話題から奥方を遠ざけたいんだろう、アリーの考えそうなことだ」
「はあ……」
「いいんだ、俺はまた顔を見に来よう。アリーが相思相愛の奥方を得たことが、俺は無性に嬉しい!」
カーヴェル家を辞して、俺は空を見上げた。目的は達せなかったが、とてもすがすがしい気分だ。
「フフッ――愛の前には友情など儚いものだ。だが俺は、おまえたち夫婦を応援するぞ!」
よかったな、アリー!
幸せにな、アリー!!
終
果てない旅路の死なない屍人~溺愛のだんな様はネクロマンサー 山田とり @yamadatori
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