日本の記紀神話とSFの見事なまでの融合。
天照大神が岩度に隠れて、この世界は空の色を失い、荒廃の一途をたどっていた。
村に起こった混乱の中、母から勾玉と笛を遺された主人公の少年は、荒廃した世界の地図を作るために、騾馬と共に旅をしていた。そんな中、ある村の御神木の下で舞う巫女と出会う。少女は巫と呼ばれ、村々を回って結界を修復するために旅をしていた。そんな巫の少女は、主人公と共に、他の勾玉を探すことに。
しかし途中で、土地の神に祈らずとも良いとする巫が現れる。しかし、その巫の正体は意外なものだった。そして、旅の末にたどり着いた場所は、巫の少女が主人公に見せたくない場所だった。
巫たちが契約する神々と勾玉は何のために存在するのか。
村を襲う鬼の正体とは?
子を持たないはずの巫から生まれた主人公の秘密とは?
過酷なまでの巫たちの運命と意志。
そして神々と巫たちの関係性に胸を打たれる一作。
これは、勾玉色の空を取り戻すまでの物語。
是非、御一読下さい。
この作品を一文字で述べるなら「わ」です。
和風ファンタジーの「わ」人のつながりを指す「輪」、輪廻を意味する「わ」、わだかまりの「わ」、別れの「わ」、若さの「わ」、和解の「わ」などなど
主人公やヒロインが丁々発止の活躍を行って、魔物を斃す的なファンタジックストーリーではありませんし、中で繰り広げられるエピソードも悲しいシーンもありますが、それでもその時々で生きた人たちの思いや生き様を収斂させていく様は、作者様の技量の高さを伺い知ることができます。
そして私たちが住む日本には、様々な神が存在し、神は全知全能ではなく人に信仰されてこその神であり、神が神でなくなるとはどういうことなのかを改めて感じさせるとても素敵な作品でした。
特に純文学が好きな方に読んでいただきたいなと思う物語です。