第7話 「謝んな!」

「なあ、この前あたし」

「この前……?」


 学校の休み時間、やいちゃんが「二人きりで話したいんだ」と、お願いしてきた。なので今ぼくは、やいちゃんと二人きりだ。


「えっと……あたしが菊ちゃんのこと、一生オタクでいーぜって言っちまったけどよ……」

「あ、ぼくが盗み聞きしちゃったときのことか。もしかして、思い出すと嫌な気分になっちゃうとか? ごめんね」

「あ、謝ってんじゃねーよ! っつーか、それは別に……菊ちゃん悪くなくね? 偶然、聞いちまっただけだったんだろ?」

「え? そ、そうなるのかなぁ?」

「あーあー、めんどくせっ! むしろ悪かったのは、あたしだよ! ハズくて、つい盗み聞きって決め付けた、あたしがな! 悪かったよ! だから、もう気にすんな! ごめん!」

「う、うん分かった。わざわざ謝らせちゃって、ごめんね。そんなつもり、なかったんだ……」

「おい! あたしが勝手に謝ったんだから、自分が悪いなんて思ってんじゃねーよ! もう盗み聞きとかマジで気にすんなよ!」

「うん、ありがとね」

「……あー、もう! っとに、どんだけ優しいんだよ菊ちゃんは……」


 ダンダンダン! と、やいちゃんが右足で強く地を踏んでいるのを見て「かわいい……」と思ったのと同時に「地団駄を踏む子って、リアルにいるんだなぁ」と、ぼくはオタクらしく感心してしまった。


「っつーか、本題それじゃねーよ!」

「えっ? そうだったんだ!」

「そうだけど、もう謝んな!」

「あ、ありがと」

「何だよニヤニヤしやがって……。でも、あんまりキレてっと話できねーからな。休み時間、終わっちまうよ」


 わざわざ「謝んな!」と、やいちゃんが言ってくれたことに、ついグッときてしまった。


「それで、あたしが本当に言いたかったことってのは……」

「う、うん……?」


 何だろう。ドキドキする。やいちゃんの緊張が、ぼくにも移ったみたいだ。


「……オタクだろうがっ! オタクやめようがっ! あたしが菊ちゃんを好きなのは、ぜってーずっと変わんねーから気にすんなってこと!」

「え……」


 予想外の言葉を聞かされ、ぼくはポカンとしてしまった。


「オラッ! 何ボーッとしてんだ! 早く教室、戻るぞ! 休み時間、終わるだろーが!」

「う、うん!」


 やいちゃんにグイッと手を引っ張られ、ぼくの体はズルッと動いた。そして、ぼくは彼女の背中を見て歩く。


「あの、やいちゃん……」

「あ、何だ?」

「わざわざ、ありがとう」

「ああっ? あたしは自分が言いたかったことを言っただけだよ!」

「そ、それもそうだね……」

「はい、これで終わりな! あと謝んじゃねーぞ!」


 これ以上、ぼくに何も言わせたくなかった彼女の耳は今、赤く染まっている。

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