第6話 「恥ずかしいったらありゃしねーよクソ」

「やいちゃんはさぁ、倉田くんと付き合っていて淋しいとか思うこと……ない?」

「えっ? 淋しい?」

「ほら、倉田くんって趣味に熱い人でしょ?」

「わざわざ言葉を選んでくれて、ありがと」

「いや、そんな……」

「でもさ、そこはストレートにオタクでいーよ」

「え……」

「別にオタクって悪いもんじゃねーしさ! あたしだって漫画とかアニメとかゲームとか好きだしな!」

「そ、そうだよね。やいちゃん、そんな倉田くんが好きなんだもんね!」

「……まあ、そうだけど……」

「ふふっ。それじゃ、本題に戻るね。やいちゃんは……倉田くんが好きなものに夢中になっているとき、淋しくならないの?」

「あー、そういうことか! そりゃ全然ねーっつったら嘘になるぜ!」

「やっぱり~。やいちゃん淋しくなるんだ……かわいそう……」

「おっ! 心配してくれて、ありがとな。でもよ、何だかんだで菊ちゃんのナンバーワンは絶対あたし! それは分かってんだぜ!」

「おおー!」

「……まあ頭ん中で分かってはいても、淋しくなったり妬いたりっつーのは……あるぜ?」

「だよね~……」

「けどよぉ……」

「えっ、何?」

「……あいつが何かに夢中になっているときの、あのキラキラした目が、あたしは好きなんだよなぁ~」

「……あぁ~なるほどね……」

「あの楽しそうな顔がさ、マジで超かわいいんだよ! だから、あたしは菊ちゃんにオタクをやめさせたいとか全く思わねーな! っつーか、一生オタクでいーぜ! 菊ちゃん、かわいいんだからよ!」

「そっかぁ~……」

「ん? 何だ?」

「やいちゃん、後ろ向いて!」

「えっ……うわっ!」


 彼氏なんかより、かわいい真っ赤な顔を向けてくれた彼女に「ありがとう」と、ぼくは言った。




「……あのとき……どうして、すぐに声かけなかったんだよ?」

「えっ?」


 帰り道、やいちゃんが恥ずかしそうに話を始めた。あのときとは、やいちゃんがぼくを待ってくれていた時間のこと。放課後、担任の先生に呼ばれて職員室に行ったぼくを、やいちゃんは友達と話しながら待ってくれていたのだ。

 ちなみに、やいちゃんの話し相手だった友達は、自分の彼氏と下校した。やいちゃんたち二人は、彼氏を待っている者同士、恋愛話に花を咲かせていたらしい。


「しっかり盗み聞きしやがって……」

「あっ、ごめん!」

「恥ずかしいったらありゃしねーよクソ」

「いやぁガールズトークの邪魔しちゃ悪いかなぁって思って……」

「ああっ? 言い訳しやがって、この野郎! 何が邪魔だよ! 全っ然お前なんか邪魔じゃねーよ! そういうのは、余計なお世話っつーんだろ! 大体あたしは、お前に待たされてんだから、さっさと名前呼ぶか何かしろっつーの! あたしの友達だって……みんな、お前のこと嫌いじゃねーんだしよぉ……」

「ご、ごめんね……?」

「っとに、お前は……すぐに自分が悪くもねーのに謝っちまうし……。いちいち気を遣うし……」

「やいちゃん……」

「……そういう優しいとこ、好き……」

「……そっか、ありがとう。ぼくも、やいちゃんのこと好きだよ」

「っ……!」

「やいちゃん?」

「あーっ! お前マジずるいって! そういうとこ! 毎回、絶対、適わねーっ!」

「ごめんごめん」

「だから謝んな!」

「はい、頑張ります」

「わざわざ頑張んのかよ……別に、いーけど」

「そっか。分かった」

「もうっ、勝手にしろ!」

「じゃ、お言葉に甘えて、勝手にする」

「……っとに……好き!」

「うん、ぼくも好き!」


 ぼくの彼女は本日もテレテレ。とってもかわいいです。

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