第5話 「それしか言わねーのかよ」
「今期は大豊作ですな~」
「うん、どの作品も良いよね!」
ぼくは今、友達とアニメの話をしている。からかわれることが多いぼくだけど、ぼくと仲良くしてくれる子も結構いるのだ。
「おーい、みんなで何の話をしてんだよ~」
「あ、やいちゃん」
さっきまで女子たちに呼ばれていたやいちゃんが、ぼくらの元にやって来た。
「てぇてぇ~」
「きくやい尊すぎ泣いた」
「爆発しなくて良いリア充だ」
オタクならではの冷やかしを受けた。それに対して、やいちゃんは……。
「だろー? あたしら、二次元に負けてねーからな!」
座っているぼくの頭に手を乗せ、くしゃっと撫でながら笑って言葉を返した。ぼくたち二人を見て、仲間たちは拝んだ。やいちゃんは男子を怒ることが多いが、ぼくの友達とは仲が良い。やいちゃんはオタクなぼくらをいじる方に厳しい。オタクに優しいヤンキーが現実にいるとはっ……と仲間たちは、やいちゃんに感謝している。
「それはそうと、あたしも仲間に入れてくれ! 最近のアニメの話、菊ちゃん以外ともしたかったからよー。あと漫画のことも!」
「おお! やいちゃんのオススメも、ぜひ語ってくれ!」
やいちゃんが、ぼくの友達と語り合っているのを見ると嬉しくなる。アニメとか漫画とかでも思うけど、こういうの良い。二次元でも現実でも、仲良しの輪が広がる瞬間が好きだ。
「なあ、菊ちゃん」
「何?」
「あ、あのさぁ……」
「どうしたの?」
帰り道、やいちゃんが急にモジモジし始めた。かわいいけど、一体どうしたんだろう。
「休み時間……あたし、菊ちゃんの友達と喋っていたじゃんか」
「うん、そうだね」
「菊ちゃん喋んねーで聞いてばっかだっただろ? あたしらのこと、どう思っていたんだ?」
「え? 別に嫌な思いはしていないから大丈夫だよ? 話を聞いているだけで、ぼくは楽しかったし」
「……」
「……?」
ぼくが質問に答えると、やいちゃんが顔を上げた。そして、ぼくのことをじっと見た。ぼくが嫌な思いはしていない、と知って安心したのかと思ったけれど、やいちゃんは全く違う顔をしていた。
「それしか言わねーのかよ」
ちょっと間を開けて、やいちゃんは口を尖らせながら言った。ほんのりと顔を赤く染め、やいちゃんは続ける。
「……ちょっとは妬けよな……」
「えっ」
ああ、そういうことか。
でも……。
「ごめん、ぼくは妬かないなぁ」
「はっ? 何でだよ!」
「だって……」
やいちゃんが大きな声を出しても、ぼくは自分に嘘を吐かない。やいちゃんにも嘘を吐きたくない。
「やいちゃんが、ぼくの友達と仲良くなってくれて嬉しいからだよ。それに……やいちゃんが、ぼくを好きだっていうのは、いつも伝わっているから大丈夫」
「っ!」
ぼくは、やいちゃんの手を取った。二つの手が結ばれると、やいちゃんはそれをほどこうとはしなかった。顔は赤くなっても、やいちゃんは何も言わず、ぼくの隣にいた。
かわいい。
絶対に離さないよ。
いつまでも、一緒だよ。
「うっせんだよ……まあ、嬉しいけど……」
ぼくは心の中で言ったはずの言葉を、つい外に出してしまったようだ。でも、もう言ってしまったものは仕方がない。本当のことだから否定もしない。
「……菊ちゃん……」
「何? やいちゃん」
「……好き」
「うん、ぼくも好き」
お互いの気持ちを確認すると、ぼくたちはしばらく何も言わなかった。それでも、しっかり二つの手が繋がれたまま、ぼくたちは共に帰り道を歩いていた。
やいちゃんも、ぼくも、ずっと変わらない。
ぼくたちは、これからも好きと好き。
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