第4話 「あたし女だぜ?」
「やいちゃん、あいつら呼んでるよ。あ、ごめんね倉田くん」
「いや大丈夫だよ」
二人で話していると、やいちゃんが女子たちに呼ばれた。窓際にいる男子たちが、やいちゃんに用があるらしい。
「は? 何で?」
「知らなーい。どうせしょーもないことだよ」
「分かった、ありがと。つーかよ、あいつら自分で呼べよな?」
「やいちゃん……あんな奴らより、よっぽどイケメンだよ~」
「あたし女だぜ?」
「でも、かっこいいよ~」
「アハハ、そうかぁ?」
ちなみに、やいちゃんは女子全員と仲が良い。男前ということで人気者だ。少なくとも、ぼくよりは女子にモテるだろう。
「おい。あたしに用があんなら自分で来いよ」
「き、木南さん……」
案の定、怖がる男子たち。やいちゃんの両隣にいる女子たちは「そうよそうよ!」と言っている。
「さ、さっすが木南さ~ん……じゃあ、これもやっつけてくれるかなぁ~?」
「あ?」
「これでーす」
「っ!」
そのとき、教室に「きゃあ~っ!」と悲鳴が響いた。
「気持ち悪い……やいちゃん、大丈夫?」
「ちょっと、あんたら何やってんのよ! バカ!」
怒る女子二人の間で、やいちゃんはガタガタ震えている。その様子を見て、したり顔の男子たち。
まさか……!
「頼みますよ木南さ~ん。早くやっつけてくださいよ~」
「木南さんヤンキーなんだから、こんなのも楽勝でしょ~?」
「ほらほら、お願いしますよ。オレらをボコった木南さーん?」
やっぱりそうか!
「やいちゃん待ってて!」
ぼくは片手に上履きを持って、やいちゃんの元へ走った。
「き、菊ちゃん……」
やいちゃんに湿った声で呼ばれた直後、ぼくは上履きをパァンッ! と床に叩き付けた。すると今度は、なぜか拍手が響いた。
「倉田くん、すご……!」
「ナイス! だけど……」
やいちゃんを挟む女子たちが青ざめているようだ。もう声で分かる。無理もない。
「あんたら、早くスリッパ持って来なよ!」
「この上履きを倉田くんに履かせる気なの?」
女子たちが、やいちゃんに意地悪をした男子たちを怒った。すっかり小さくなった彼らは「はいっ!」と返事をして、素早く退室した。
「やいちゃん、散々だったね」
ぼくが話しかけると、やいちゃんは泣きながら頷いてくれた。そして、
「……怖かったぁ~!」
「あっ! やいちゃんダメだよ! ぼく今、汚いから!」
ぼくは抱き付かれそうになったけれど、やいちゃんがかわいそうだから避けた。やいちゃんもハッとして(でもちょっと淋しそうに)ぼくから離れた。
「とりあえず、ぼくは上履きを」
「その必要はないわよ倉田くん! こいつらに洗わせましょ!」
ぼくが教室を出ようとしたら、さっきの男子たちがスリッパを持って入室。ぼくがスリッパを受け取って履くと、彼らは大人しく女子たちの指示に従った。
「何か悪かったね」
「いーのよ! あれ私らも大嫌いだから、退治してくれて助かった。ありがと!」
みんなは、また拍手をしてくれた。やいちゃんも少し笑っていてホッとした。教室が少し落ち着いたところで、ぼくは手を洗いに行った。
……しばらく彼らは、女子から無視されるだろうな……。
「ありがと菊ちゃん」
「いや大したことないって」
別の休み時間、やいちゃんとぼくは二人きりで話している。
「はー、やっぱ人間以外ダメだ」
やいちゃんは昔から、人間以外の生物が苦手だ。幼いころに足を噛まれて以来、犬を怖がっている。さっきのようにゴキブリを見ると怯えてしまう。その他も基本的には、独特な匂いや動きなどがキツいとのこと。
「漫画とかでさ、不良が猫とか拾って優しくする展開あるじゃん? あたし、あれマジ分かんねー」
「あっ、ベタなやつ」
「そんなわけねーだろって、いつもツッコミたくなる」
「まあ人それぞれだよね」
「だよな。あとツッコミたいのは、あたしが男前って褒められること」
「そっか。やいちゃんは女の子だからね」
「い、いやっ……それもあっけどよ……。つーか女の子って……嬉しいんだけどよ……」
かわいい。
ぼくが笑うと、やいちゃんは照れながらも続けて言った。
「だって、あたしより菊ちゃんのが男前じゃねーか」
ぼくらは、お互い真っ赤な顔になっていた。
熱い……。
翌日、あの心配は杞憂だったと判明。なぜなら、
「てめえら昨日よくもやってくれたな! 全員シバくぞオラァッ!」
「ギャーッ!」
「許してぇ~」
「ごめんなさ~いっ!」
彼らが女子に話しかけられていたからだ。ぼくは今回に関しては、やいちゃんを止めたいと全く思わなかった。
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