第8話 「嫌じゃねーけどな!」

「あ、菊ちゃん先輩チーッス」

「おっ。やあ、君たち!」


 ぼくはゴミ捨て場で、後輩の男女二人組に会った。後輩の女の子が、ぼくに手を振って挨拶してくれた。隣にいる男の子はサッと頭を下げて、女の子と共に、ぼくの元へ歩いてきた。


「先輩、ゴミ捨てっすか」

「うん」

「お疲れ様っす」

「どうも」


 掃除の終盤、ゴミ捨ては誰が行くかという話し合いが始まりそうだった。しかし揉め事を起こしたくなかったので、ぼくは「じゃあ行ってくるよ」と言って、今に至る。


「ウチらは掃除、終わったとこなんすよ」

「そっか。担当、外?」

「はい」

「お疲れ様」

「……ここでウチらをサボりだとか疑わないなんて、マジで神っすね先輩」

「えっ……」


 さっき元気に挨拶してくれた後輩の女の子が、しんみりしている。


「大丈夫? ぼく……何か嫌なこと、言った?」

「いやいや、全然っすよ。ウチらを信じてくれて、感謝しかねーっすから」

「信じるって……君たち、そんな嘘なんて言わない子たちだろう?」

「……ありがとうございます……。弥伊子さんが菊ちゃん先輩を好きな理由、マジで分かるっす」


 この二人は、やいちゃんを介して知り合い、ぼくと友達になった。良い子たちなのに、疑われやすくて損ばかり。ほとんどの先生から、よく冷たい目で見られてしまうのだ。


「もうマジで幸せになってくださいね! 応援してるっす!」

「うん、ありがとう!」


 ほら、やっぱり優しい子。やいちゃんの友達なんだから悪人なわけがな「てめえ何やっとんじゃゴルァッ!」


 ……へ?

 驚いた我々が振り向いた、その先にいたのは……。


「や、やいちゃん!」

「ひいっ! すいません弥伊子さん!」

「あたしの菊ちゃんに、手ぇ出すなっ!」

「やいちゃん、ただ喋っていただけだよ!」

「そ、そうっす! お二人の間にウチなんかが入る隙なんてないっすよ!」

「本当だな!」


 ぼくは、やいちゃんから疑われてしまった女子と共に首をブンブンと縦に振った。すると、


「……それなら、悪かったな……疑って」


 やいちゃんの表情は鬼の形相から、申し訳なさそうな顔へと変化した。


「いや全然いーっすよ、弥伊子さん。ウチが馴れ馴れしくしちゃったから悪いんす」

「おい、もう行くぞ。俺らは邪魔だろ。弥伊子さん、すいませんでした」


 ぼくらを気遣ってくれたのか後輩二人組は、その場から去った。


「菊ちゃんも、ごめん」

「あ、気にしないで。ぼくが遅かったから心配してくれたんだよね。ぼくの方こそ悪かったよ」

「いや、そんな……」

「でも、やいちゃん今回は手を出さなかったね。ホッとしたよ。良かった……あっ!」


 ここで、ぼくはハッとした。


「っ……!」

「えっーと、やいちゃん……」

「もうっ!」

「ご、ごめん!」


 ついつい、やいちゃんの頭を撫でてしまったからだ。やいちゃんは今、真っ赤な顔を下に向けている。


「お前なんか知らねーよっ!」

「ええ~、待ってよ~」


 スタスタと前へ進んでしまったプリプリやいちゃんに、ぼくはついていった。


「嫌じゃねーけどな!」

「えっ、そうだったの? 良かった~」

「良くねーよ! でも謝んじゃねーからな!」

「あ、ありがと……」

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