ネタバレ含む! 噂を聞いたあの人とこの人は……?
秋深まれば夕方のシレア城はめっきり寒くなる。城勤めの者たちは廊下を急ぎゆき、出来るだけ暖かな室内に籠るようになる季節だ。
日が落ちて燭台の火が灯される時間ともなれば、明るい昼時よりもさらに廊は人気がなくなる。
いまも回廊は静まり返っている。ただ高層階を、長衣の裾を摘んで進む人物がいた。城には珍しい高位聖職者の纏う長い衣である。裾につけられた細やかな装飾が涼しげな音を立て、ぴんとはった空気を微かに震わす。
だが、ふとその音が止まった。代わりに彼女の反対側からコツコツと規則的な足音が近づいてくる。
その靴音も、彼女の前で止まる。挨拶の言葉もなく互いに見交わすと、どちらからともなく苦笑した。
「何か聞いたという顔だな」
「そちらもね」
今日一日、城のあちこちで巷の遊びを聞かされた。はっきりとではないが、こちらの様子を窺うような素振りが居心地悪く、何度となく向けられる視線から逃げていたのも事実である。
国や信仰の柱になる自分たちの相手は誰かと興味津々なのは分からなくもないが。
「みんな好きね、あの手の話題は」
「平和な証拠だろう」
言ってみれば気楽な話。知らぬ異国の遊びに興じていられるのは、深刻な事態では無理だろう。緊張を緩ませる時間があるのはいいことだ。
「知らない文化も多いものだな」
「あら、ご興味が?」
「そう言うそちらは?」
是とも否とも言わず、しばし相手の深い眼の色を見つめる。
「まあ、その遊びはともかく」
「そうだな」
そしてまた、どちらからともなく微笑した。
「公務の後で」
重なった声に互いの瞳が和らいだのを確かめて、別れの言葉なくすれ違う。
心安らぐしばしの休息は、必要かもしれない。
活気ある夏の昼には起こり得ない、人知らぬ密やかな秋の宵のできごとであった。
🎵というのが思いついて書いてしまいました。すみません十五分ほどの即席。
ポッキーゲーム 蜜柑桜 @Mican-Sakura
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