第3話 陶器の指輪
「今日は助けてくれて、ありがとう」
少女は、照れたような顔で手を左右に振っている。
「お礼をしたいけど、何も無くてね。この玩具の指輪で良いかい」
少女は、うんうんと頷(うなず)いて、とても嬉しそうだ。
俺に、左手を差し出してきた。
どういうつもりだ。
自分の薬指を強調している。
ここに、嵌(は)めろと言うことか。
指輪を薬指に、嵌めようとしたが落ちてしまう。
それは、そうだな。
少女は、とても悲しそうな顔になって今にも泣き出しそうだ。
指輪の、タンポポなのか、ヒマワリなのか、お日様みたいな絵柄(えがら)をずっと見ている。
可哀そうだな。
命の恩人でもある。
何とかしてあげたいな。
俺は、自分の鼻と指輪を交互に指さした。
少女は、?の顔していたが、何度も繰り返したら分かったようだ。
複雑な顔をしている。
俺は、鼻からフンと息を勢い良く出した。
でも、鼻血は出ない。
それは、そうだ。
鼻血は、自由自在に出せるものじゃない。
興奮する要素がないと出せないな。
俺は、鼻と少女を交互に指差した。
少女は、目を吊(つ)り上げて怒っている。
俺は、汚れ放題の寝台に潜り込む。
今日は、すごく怠いんだ。
少女は、慌てて手を振って、「待って」の意思表示をしてきた。
少女は、真っ赤な顔になってワンピースの裾を握っている。
膝小僧まで引き上げて、俺を見てくる。
俺は、頭を左右に振るしかない。
膝小僧では、刺激が少なすぎる。
少女は、俺を責めるように見ていたが、「ふぅー」とため息をついたような感じで、目を伏せた。
少女は首まで、真っ赤になっている。
太ももの半分くらいまで、引き上げて俺を見てくる。
白くて細い太ももだ。
でも、肌は艶々(つやつや)しているし、触ったら柔らかそうだ。
俺の鼻は、少し血が出そうになってきた。
でも、もう少し刺激が欲しい。
俺は、「もっと上」と手振りで伝えた。
少女は、咎(とが)めるような目で俺を睨(にら)んできた。
全身が赤く、羞恥(しゅうち)に染まり、太ももがピンク色になっている。
少女は、ワンピースの裾を下着が見えるところまで引き上げた。
俺の方は見ないで、俯(うつむ)いている。
とても、恥ずかしいのだろう。
少女の下着は純白で、細かなレースの縁取りがある、可愛らしいものだ。
俺の鼻から、赤い血が飛んで少女の下着に付着した。
少女は直ぐに裾を離して、顔を気持ち悪そうに歪(ゆが)めている。
「変な顔をしてても、君は可愛いな」
少女は、ツンっていう感じで、顔を上にあげたまま指輪を指している。
俺は指輪の内側に、赤い血を塗った。
自分が出したものだが、ニュチャとして気持ち悪い。
少女が差し出している、左手の薬指に指輪を嵌めてあげた。
少女は、手をひらひらさせながら、うっとりと指輪を見ている。
しばらくすると、俺にお辞儀をして、すーと消えた。
身体全身が、怠くて目が覚めた。
とても、起きられそうにない。
ヤバイ感じだ。
今日は、身体を休ませよう。
そうするしかない。
夢か、意識が混濁(こんだく)しているのか、少女が寝台の横に立っている。
もう、現実の少女がいるとしか思えない。
でも、声を出す気力がもうない。
「辛いの。苦しいの」
声を出せるようになったのか、優し気な声だ。
返事をしようとしても、声が出せない。
「声が出せないの」
頷くのも辛い。
僅かに、頷くのが精一杯だ。
「あなたは、このままでは死ぬわ」
そうだろうな。
俺の夢か、意識は、ここで途切れたようだ。
次に夢か、意識が戻った時には、少女が横で添い寝をしていた。
「目が覚めたのね」
俺は、もう僅かに頷くことも出来ない。
「これが最後の機会よ。鼻血を出しなさい」
今の俺では、とても無理だ。
「しょうがないわね」
少女が、服を脱ぎだし始めた。
顔は、真っ赤に染まっている。
俺の横に、赤い顔の真っ裸の少女がいる。
手で胸と股間を、隠しているのがいじらしい。
細いけど、均整のとれた綺麗な裸だ。
「これで良いでしょう」
俺の鼻は、少しムズムズし始めた。
これほど弱っているのに、俺はなんて、エッチなんだろう。
「出そうなの」
でも、さすがに出そうにない。
こんなに、弱っているんだから当たり前だ。
「私に、こんなことをさせるなんて」
少女は、俺の鼻に触りながら、文句を呟(つぶや)いている。
文句が終わらないうちに、俺の鼻に何か冷たい物が触れた。
陶器の冷たさが、熱を持った鼻に心地良い。
少女が、俺の鼻に手を当ててくれているようだ。
邪魔にならないよう、髪の毛を手で押さえている姿が、艶(なま)めかしい。
初めは冷たかった陶器の指輪が、熱を帯(お)びたのか。
俺の鼻は、柔らかで温かいものに包まれている。
俺は、赤い鼻血を少女の手の中に放(はな)ったらしい。
いつ、どうして、放ったのかは分からない。
もう、ほとんど感覚がないんだ。
少女は、顔をしかめながら、赤い血を自分の唇に塗っている。
そして、俺の頬に両手を添えて、軽くキスをしてくれた。
「さようなら、あなた。あなたは、生きるのよ。また、きっと逢(あ)えるわ」
チンと、陶器の指輪が落ちる音を残して、少女はすーと消えていった。
俺の夢か、意識は、またここで途切れたようだ。
次の日、俺は何事もなかったように起きられた。
身体は、もう怠くない。
普通に動けるようになっている。
そして、もう少女の夢を見ることは、出来なくなった。
だけど、事故車の住居カーは、なぜか動くようになったんだ。
陶器の指輪をはめた手で、起動スイッチを押したら動いてしまった。
ただ、壊れているんだろう。
強制終了も出来ないし、他の操作も全て受け付けない。
どこまでも、どことも、分からない場所へ俺を連れて行くらしい。
だけど俺は、何も怖くもないし、少しも悲しくない。
今は、どこに着くのか、何が待っているのか。
それだけが、俺の楽しみだ。
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薄い少女は、夢=妄想なんだろう。廃棄品ギルド員は、そう思っていた。 品画十帆 @6347
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