第2話 強制指令

廃棄品ギルドに、今日の採集品を渡す。

チップが20個と、基盤が10枚に、今日は憤怒(ふんぬ)の炊飯器を討伐した。

炊き立てのご飯を噴出するから、具(ぐ)にされて、握り潰(つぶ)されるところだったよ。

モデル体型のアンドロイド嬢が、事務的な動作で、俺に2千円と5百円を渡してくれる。

「明日は〈雲の浮島〉で、呪われたパーソナルコンピュータの討伐をして下さい。溢(あふ)れ出る前に、間引く必要があります。これは廃棄品ギルドの強制指令です」


珍しく話しかけてくるな、と思ったらこんな話か。

住宅カーを買う金を優先したから、装備が心もとない。

ハッキリ言って、安物なんだ。

嫌な予感がする。

ギルドが、用意する強化塩水が頼りだ。


今日のご飯も、固いパンと肉煎餅だ。

何かの肉と固いパンを水で流し込んだら、良い夢を見よう。

今日も、何か変化があるのかな。


今日の少女は、昨日よりもっと濃くなった。

ピンク色の唇が、濡れたように瑞々しく光っている。


「キスしたい」


俺は少女の唇を、奪(うば)いにいった。

少女は、慌てたように後ろに下がった。

あれ、動いたぞ。


「キスさせてくれないの」


少女は、困ったような様子で顔を赤らめている。

どうせ、突き抜けるんだけどな。


胸を触ろうとしても、後ろに下がる。

ワンピースの裾をめくろうとしても、後ろに下がる。

潜り込んで下着を見ようとしても、後ろに下がる。

遠くへは逃げないが、後ろに下がってしまう。

これは、困ったな。


「君、何とかならないか」


少女は、しばらく考えてから、ワンピースを手で掴(つか)んで裾を少し持ち上げた。

ほんの僅(わずか)しか、上がっていない。

膝小僧(ひざこぞう)が、見えただけだ。


「下着までとは言わないが、太ももまで頼むよ」


少女は、プルプルと頭を振って顔は真っ赤だ。


「うーん、それじゃ。この寝台で一緒に寝てよ。添(そ)い寝だ」


少女は、しばらく考えてから、おずおずと寝台に横たわった。

ワンピースの裾を、慌てて直している。


俺もその横に寝転んだ。

少女は、真っ赤な顔のまま天井を見上げている。


「横を向いて、僕の顔を見てよ」


少女は、ぎこちなく横を向いて僕の顔を見た。


「君は、とっても可愛いね」


少女は、恥ずかしそうにニコッとした。


でも、このままじゃ目的が果たせない。

俺は、下着を脱いで裸になってみた。

少女は、慌てて両手で顔を覆(おお)う。

身体は、震えているような感じだ。


でも、指の隙間(すきま)から見ているのは、分かっている。

俺の裸を見て少女の喉(のど)が、ごくりと動いたのも見えた。

唾(つば)を、飲み込んだのかな。

少女は、男の裸に興味があるのだろう。

年頃だしな。

でも、少し怖いとも思っているのかな。


そんな少女に、覆いかぶさろうとしたら、鼻から血が垂(た)れて少女の胸へ落ちた。

少女は、胸を押さえながらフッと消えた。


今日も、だいたい満足だ。

でも、明日は嫌だな。



朝から、呪われたパーソナルコンピュータの討伐だ。

もうすでに、身体が怠(だる)い。

肩に何かが乗っているように重い。


廃棄品ギルド員たちが、5人ずつのパーティーを組んで、〈雲の浮島〉に渡っていく。

殿(しんがり)の天然女が持っている、強化塩水の入ったアクリルケースが命綱だ。

呪われたパーソナルコンピュータには、強化塩水を塗布(とふ)した静電気棒しか通用しない。


僕達パーティーは、最初は順調だった。

極重ノートや暴走トップを、次々に葬(ほおむ)り去(さ)っていく。

運の良いことに、銅のガチャも発見している。


しかし、間抜けなマイルドヤンキーが、強化塩水のアクリルケースをやってくれた。

静電気棒を、乱暴に差し込んで、底をぶち抜いてしまったんだ。

あれほど、力任せに差し込んだら、いけないと言われたのに。


パーティーは、恐慌(きょうこう)状態へ陥(おち)いってしまう。

我を忘れて、皆、一目散に出口を目指して駆(かけ)出した。


でも、僕は身体が怠くて殿(しんがり)になってしまった。

それでも、重い体を引きずって出口をひたすら目指す。

極重ノートは足が遅いから逃げられるけど、暴走トップは訳が分かんなくて逃げられないんだ。


暴走トップに、とうとう行く手を塞(ふさ)がれてしまった。

強化塩水が乾いた静電気棒を振り回しても、暴走トップには何の効果もない。


もうダメかと思ったが、暴走トップをビンタする白い手が見えた。

すごく華奢(きゃしゃ)な手だ。

それで、暴走トップは正常に戻り、霧散(むさん)して消えた。

その後も、白い手はビンタで暴走トップを消し続ける。

助かったんだ。


俺は、命からがら逃げ帰った。

パーティーメンバーは、俺の活躍で生き残れたと銅のガチャをくれた。

ガチャの中には、陶器(とうき)の指輪が入っている。


陶器? 

子供の玩具(おもちゃ)だな。

中身がこれだから、俺にくれたんだな。

ガチャのセロハンテープを、剥(は)がした跡があるもの。



廃棄品ギルドの受付で、強制指令の報酬を貰う。

無駄(むだ)に胸の突き出たアンドロイド嬢が、事務的な動作で、俺に500円を渡してくれる。

「〈雲の浮島〉から、直ぐに出たからこの報酬です。あるだけましです」


俺は悪くないのに、言葉が冷たいな。


身体の芯(しん)から疲れた。

何かの肉と固いパンを、今日は食べる気がしない。

もう寝て、少女に逢(あ)おう。

今日は、話したいことがある。


今日の少女は、昨日よりもっと濃くなった。

もう、見た目は普通の人間だ。

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