第5話 完成

 アメリアからメールを貰った後の翌日、エイデンはアイソンに自分のことについて調べられていることにやはりそろそろ殺そうかと感じたが、相手は大学生でありおまけに掲示板にもいなさそうなタイプの人物だ。そして、簡単に自分の家に誘うだなんてそんな簡単なことが出来ない。


 家族を殺そうかと思ったが、アメリアから聞いた話では家族はオーストラリアに住んでいるらしい。


 そんなところまで行くことなんてそう簡単ではないし、家族を置いていくなんて出来ない。


 エイデンは書類をまとめながらどうしようかと考えていると、アメリアからメールが来た。


 見てみると、アイソンと電話を交換したと言うことだった。


(何! 電話まで交換できたのか?)


 エイデンはアイメアにそのことについてメールをすると、相談などで連絡先を交換してくださいと言ったらいとも簡単に交換を承諾したのだった。


”もちろんエイデンさんについてではありません。あるのは、大学のことなどをした

らできましたので安心してください”


 アメリアの内容を見たエイデンは「さすがだ」思わず口にした。


 また一つの収穫を得られたことにエイデンはあとは色々と大学の説明をしていく中でこの質問をしてほしいととアメリアにメールで送った。もちろん変に怪しまれないようにと付け加えた。これなら大学に行くことがはぶけるなと思った。


 メールを送ると、よしっと声を出して仕事を始めた。


「それではまた何かわからないことがありましたらいつでも連絡をお待ちしています」

「はい。わかりました。教えてくださり本当にありがとうございました」

「いえいえ」


 エイデンは相談に来た相手に挨拶をしながら見送り、自分のオフィスに戻ろうとすると。


「あの、エイデンさん」


 後ろから声をかけられ、なんだろうと思い振り返るとアイソンがいた。


「おや? アイソンさん。どうしたんですか。急に」

「あぁ、あの土地関係の相談の件です。うちの友達の親がとても感謝していました。本当に何もかもスッキリと終えたのでその時の礼を」

「いいんだよそんなことは。わざわざこっちに足を運んできてくれてありがとう」

「いえ、お礼を言うだけでしたらお安い御用です」


 アイソンは前よりもはるかに明るい表情を見せた。


「何か、いいことでもありましたか?」


 エイデンは思わず聞いた。


「あぁ、実はなんですけど、特別にエイデンさんには教えちゃいますね」


 アイソンは照れくさそうに首を撫でながら話した。


「実は俺、今気になっている子がいまして、その子から連絡先交換ができて、ちょっと舞い上がっていると言いますと」


 そこまで言うと、アイソンの口角がまた上がった。


 エイデンは話の内容にやはりと思った。


(こいつ、アメリアに惚れていたんだな)


 エイデンはそのことがわかるとお腹が熱くなっていくのが感じられた。


「それは良かったですね」と、エイデンはなるべく表情に出ないように、穏やかに接した。

「えぇ。それはじゃあ俺はこれで」


 アイソンは頭を下げるとその場を去っていった。


 エイデンはその背中を見つめていると、隣から「せっ、先生」と声をかけられた。


「ん? どうした。そんなに怯えて」


 エイデンは声をかけた仲間の怯えた表情に思わず質問をした。


「いっ、いや。なんか、見たことないほど怖い顔をしていましたけど、何か変な人に嫌味を言われましたか?」


 仲間の言葉にエイデンはいけないと心の中でつぶやいた。


「あぁ、ちょっとね。怖がらせてしまってすまないね」


 エイデンは謝ると、仲間は「いえっ!」と焦らながら話した。


「誰だっていつかは怒る時だってありますよ。だから全然気にしないでください」

「ありがとう。じゃあ私は部屋に戻るね」


 エイデンは仲間にそう言うと、建物内に入って行った。


 部屋に戻ってもエイデンのイラつきは止まらない。


(なんだこのイラつき、初めてだな)


 エイデンは大きく深呼吸を二、三回繰り返してやるとなんとか胸の中にあるイラつきが止まった。


(ふぅ、これでなんとかなった。うーん、これは俺の中では一番重症だな。おかげで仲間に怖い顔を見られるとはな)


 心の中で大丈夫と呟きながら、エイデンは机に座って次の相談相手のための準備を整えるのであった。


 数時間後、相談相手との話も終え、今日の仕事を終えたことを確認すると背伸びをした。


 大きく息を吐き、荷物をまとめて部屋を出ると丁度ルカと鉢合わせをした。


「ルカさん。どうですか。最近」

「もちろん順調ですわ。けど、また寒くなったわねぇ。だけど、働きやすくなったおかげであの子も外に出ることが好きなのか外に出ることが多くなったのよねぇ」


 ルカは笑顔で言った。その時は訓練をしているとは知らずに一緒に暮らしていることを考えるとエイデンは笑いそうになった。


「へぇ、良いじゃないですか。外で気分転換だなんていいことですよ」


 エイデンはにこやかに言った。


「そうですよねぇ。まぁ、あまりお金の使い過ぎには注意してねとは言いましたけど」

「アメリアさんはそんなに無駄遣いはしないと思いますよ。私なりの考えだと」

「確かにそうですよね」


 エイデンの話にルカは納得するかのように言った。


「先生はこの後帰りですか?」

「えぇ。それじゃあ、さようなら」

「はい。お疲れ様でした」


 エイデンはルカに笑顔で挨拶をすると、車に向かった。


 車に乗り込み、掲示板で釣れた獲物が指定した場所に移動した。


 移動し、車の形などをことこまかく伝え、その相手が来るのを待った。アメリアと特訓以来で殺すのは久々だなと感じながらでいると窓が叩かれた。


 見えてみると、スマホをかざしている女が立っていた。


 すぐに扉を開けて、その女の子を出迎えた。


「やぁ、初めまして」

「初めまして、アンジュと申します」


 オドオドとしながら挨拶をしたアンジュは助手席に座った。


「エイデンだ。さぁ、早く行こうか」


 自分の名前を言うと、早々と車を走らせた。


「あの」

「店はちょっと寄れないからごめんね。あっ、ただ私の言う通りにしてくれるだけでいいから」


 エイデンはアンジュにそう言うと、車を早く走らせた。


 エイデンは一通りことを終えると、大きく息をはいた。


「久々に拷問はしたが、なんだか腕が落ちたなぁ。アンジュさんはどうだった? まだ少しだけ息があるから話しかけるけど」


 目の前で痙攣をしているアンジュにエイデンは質問をした。


 アンジュは足を切られたことに苦しんでいるのか、早く、早くと口にするだけだった。


 その行動に死にたがっていることを感じた。


「おいおい。今すぐ死んでは流石に面白みを感じられない。私もしばらくはあまり拷問はしなかったからしばらくは楽しませてくれたまえ」


 エイデンはそう言ってカナヅチと釘を持って近づいた。


 数分後、息絶えたその姿に背伸びをすると釘を一本ずつ綺麗に取り除き、食べて大丈夫な状態かを何回か確認をすると家族を呼んだ。


 家族は静かに階段を降りてくる姿を見たエイデンは「餌の時間だ」と言った。


 目の前にある遺体に飛びかかり、家族はそれをむしゃぶり食い尽くして行った。


 エイデンは少しだけ拷問の腕が落ちたなと思いながら階段を上がっていった。


 冷蔵庫を開け、冷えているワインをグラスに注いだ。


 おつまみをお皿の上に置き、テーブルの上に置くとテレビをつけた。


 ワインを飲みながらおつまみを食べ、エイデンは数日の間にアイメアがアイソンに聞いてくれた内容と自分で調べた書類を再び見返した。


(ボクシン経験ありで、優勝もか)


 エイデンは書類を見つめながらワインを飲んだ。


 調べ上げられたのは生まれた年と出身、どこに通っていたのかと経歴を調べた。なるべく人に聞くのは避ける程度にし、これぐらいならなんとか今後どうしようか考えられる。


 そして、今度何かの時に殺せるようにするために。


 エイデンは今日、アイソンがアメリアに惚れていることがわかった以上消さなければならないと思ったのだった。


 首を鳴らし、おつまみを一口食べるとワインを飲み干した。すると、エイデンは次の訓練はいつにしようかと考えていると、電話が鳴った。


 仕事のことかと思っていると、二台目のスマホから鳴っていた。そのことに確認をするとアイメアからの電話だった。


 なんだろうと思いながらエイデンは出た。


「もしもし」

「もしもし、エイデンさん。あの、アイソンのことなんですけど」


 アイソンという言葉にエイデンは眉毛をぴくりとさせた。


「なんだい。あいつが何か探っているのか?」


 エイデンはそういうと、アイメアが「そうです」と答えた。


「なんだか、エイデンさんのことについて色々と調べていて、私思わず聞いちゃったんです。なんでそこまでエイデンさんのことを調べているんですかって。そしたら、アメリアさん。あの人に何かされましたかって質問されてしまって」

「なんだと。他に何か言われたのか」


 何かされていると勘づいているのかとエイデンは思いながらその他に何か質問されたのかを聞いた。


「別に何もされていないって私答えたんですけど、本当にって疑っていて、やっぱり私普通にできなかったのでしょうか。エイデンさんみたいに演じられていませんでしたか」


 アメリアは悲しそうな声を出して言った。


 エイデンは早めに対処するべきだったかと後悔をした。ここまで後悔したのは人生で初めてだ。


「いや、アメリアは私が言った通りにしたまでだ。ここまで大事になるとは思いもしなかったが、今度の特訓の時ちょっとだけ話し合おう」

「特訓の時ですか?」

「あぁ、私は来週の日曜日がお休みだ。アメリア、どうだ」


 エイデンはそういうと、アメリアは「大丈夫です」と言った。


「それならよかった。じゃあ、いつものようにあの場所で」

「はい」


 そういうと、電話を切った。


 エイデンは電話を切ると、思わず目の前にある机を投げた。ガシャンと音が家の中で響き、机の上に置いていたグラスとガラスが割れた。


(まさか、ここまでとはな)


 エイデンはすぐでにもアイソンを殺したかったが、変に動けば証拠が残ってしまう。


 イラつくのが沸々と湧き上がってくる。ここまでイラついたのは初めてだ。あの男にはそれなりの制裁をしなければなれないなと思いながら割ってしまったガラスとグラスの破片を拾った。





 数日後、日曜日になったおかげであのイラつきが少しだけなくなり、エイデンはウキウキしながらいつもの場所まで車を走らせた。


 廃墟に着き、アメリアが来るまで時間を潰していた。


 数時間後、窓が叩かれる音が聞こえ、見るとアイメアが立っていた。


「さぁ、入りたまえ」


 エイデンはすぐに車のドアを開けるとアメリアを入れた。


「それじゃあ、早めにいこうか」


 エイデンはそう言うと、車を走らせた。


「……あれから何か探られなかったかい?」

「いえ、特に何も言わなかったんですけど、ちょくちょく休み時間の間に調べてはいました」

「そうか」


 エイデンは首を鳴らすと、目の前の信号が青になり、車を走らせた。


 目的地に着き、車から降りるとそそくさと早々と家の中に入って行った。


 家の中に入ると家族はアメリアに頭を擦り付けた。


「おぉ、すごく懐いているな」

「そうですね」


 エイデンはその光景を見ながらも、自分の寝室に向かわせた。今日のための特訓の衣装は初め手の時みたいにフリーシャツを着せた。


 いつものように地下室に行き、前日に捕らえた人を檻から出した。


「それじゃあ早速、こいつらをー、ナイフで殺してくれ」


 エイデンはナイフをアメリアに渡した。


 アメリアはナイフを持つと静かに近づいていき、暴れ回る人をナイフで首元を切った。


 その光景にエイデンはにこやかに微笑みながら見ていると、何か歩く音が上から聞こえてきた。


「ん?」

「今の音って」


 アメリアも聞いていたのかエイデンに言った。


 エイデンは家族をそばにある檻の中に入れ、アメリアに見張るように言うと静かに上に上がっていった。


 リビングに行くと、誰もいない。


(気のせいだったか?)


 エイデンはそう思いながら振り返ると、そこには包丁を持ったアイソンがいた。


「彼女はどこだ?」


 アイソンはすごく険しい目でエイデンを見つめながら言った。


「……どうやってここを」

「アメリアさんが少しだけ怪しそうだったから、彼女が電話を話していることを聞いたんだ。その後に車でここまできたんだ。おまけに、お前の車のボンネットの中から血まみれの包丁が見てここに入ったんだ。さぁ、早くアメリアさんをどこにやった!」


 アイソンは包丁をエイデンに向けながら言った。


「さぁな。でも、今ここで決まったことは、君を今すぐにでも消えてもらうことだ」


 エイデンはそう言うと隠し持っていたナイフで切ろうとしたが、アイソンはそれをすぐに避け、腕を掴もうとしたがそれを阻止するかのように逆に掴んで押し倒そうとした。


 だが、もう片方の手でエイデンの顔を殴りつけた。倒れた瞬間、アイソンは馬乗りになってエイデンの上でを動かないように固定した。


「アッ、アイソンさん?」


 声がした方を見ると、血まみれのシャツだけの姿になっているアメリアが目の前の光景に唖然としていた。


 アイソンはアメリアの姿に目をカッとさせた。


「あんた! アメリアさんに何をしたんだ!」


 アイソンはエイデンに向かって叫んだが、エイデンはニヤリと微笑んで特訓をさせただけだと言った。


「アメリアさん!」


 アイソンはポケットからスマホを取り出し、投げてアメリアに渡した。


「警察に電話して! それから俺の服! 上だけ着てから外に出てくれ! 俺がこいつを押さえておくから!」


 アイソンはそう言うと、さらに強くエイデンを強く押し付けた。


 エイデンは強く押さえつけられながらもこれまでかと心の中で思っていると後ろからゴッという音と同時に「うっ!」とアイソンの唸る声が聞こえた。


 なんだと思っていると、アイソンの押さえつける力が弱くなりそのまま頭を押さえつけながら倒れた。


(何が起こってる)


 エイデンはそう思いながら振り返ると、そこには血まみれの灰皿を持ったアメリアが立っていた。


 アイソンは頭を押さえながらアメリアを見ると、「どうして」と口にしたが、アメリアはそんな言葉を無視して再び灰皿を振り下ろした。


 殴られながらもアイソンはやめてと懇願をしようとしても、アメリアは何回も何回も灰皿を振り下ろし続けた。おかげで徐々に手は真っ赤に染まっている。おまけに着ている服までだった。


 その光景に、エイデンは言葉に表せられないほどの喜びが広がった。


 今、私の目の前で何も命令なしで人を殺しているアメリアがいる。そのことを知ると、心の底から笑いが込み上げてきた。


「くっ、クッククク」


 エイデンは笑いながら立ち上がり、満面の笑みのままアメリアに駆け寄っていくと強く抱きしめた。


「素晴らしいよ! アメリア! 君は、私の命令なしに人を殺すとは! あぁ、最高だよ。最高だ!」


 笑いながら抱きしめていうと、アメリアは静かに微笑んだ。


「ありがとうございます。エイデンさん」


 アメリアはお礼を言い、エイデンが抱きしめている腕にそっと触れた。


 エイデンはアイソンを見た。すでに何回も灰皿で叩かれているせいか頭は凹んでいる。


 けれど、そんなことはどうでもいい。ただ今目の前で起こっていることは、アメリアがついにエイデンと同じ殺人鬼となった。


 自分の助けに来てくれたはずの人を平然と殺した。それだけで心の奥が満たされた。


 そこでエイデンはあることを言った。最初から殺人鬼となったアメリアにやらせるつもりだったことだ。


「アメリア」

「はい」

「アメリア、母親を殺すことはできるか?」


 エイデンはアメリアにそう言った。ここでうんとは言わなかったらただ捕まりたくはなかったためにアイソンを殺したことだろうと思いながらでいると、首を縦に振った。


(ついに私は、私はアメリアを自分と同じ殺人鬼と化したんだ!)


 エイデンは目の前の輝きが失わないように再び強く抱きしめた。



 殺す計画は今日の夜と考え、アメリアを一旦家に返し、アイソンを家族に食わせるために細かく分担をしてから袋に入れていつものように冷蔵庫の中に入れた。


 ポケットの中に入っていた車の鍵を持ち、一度ボタンを押してみると近くから音がした。


 外に出てみると、横に見知らぬ車が一台あった。


「ここにおいてあったのか。気づかなかったな。俺も歳だな」


 ため息を漏らすと、自分の二台目のスマホを取り出し、アメリアにメールを送った。


 “私が母親を呼び出す。母親が外に出たらすぐに自分も外に出なさい。なるべく変に怪しまれないようにしながら裏から家を出て、母親の後を置い、私が話している時にナイフで母親の首を掻っ切りなさい。手袋をするのを忘れずに。わかったね”


 エイデンはメールを送ると、アメリアから「わかりました」とメールが返された。


 エイデンは母親は殺さないことを考えているように見せていたが、生きていたら生きていたで色々と邪魔なことをされるに決まっていると思った。だから、完全に堕ちたアメリアにエイデンと同じように自分を産んでくれた母親を殺すように考えていた。



 エイデンは万が一のためにスマホをポケットの中に入れた。


 首を鳴らすと、動きやすい服に着替え、アイソンの車に乗り込むとアメリアの家の

近くに向かった。


 車を防犯カメラがある駐車場に起き、顔が見えないようにしながら駆け足で人気がない路地裏に行くと電話を掛けた。


「もしもし?」


 すぐにルカの声を聞いたエイデンは慌てたように演技をした。


「あぁ、ルカさんすいません。ゴホッ、すいません。こんな夜遅くに」

「いえ、それはいいんですけどエイデンさんこと大丈夫ですか? 風邪ですか?」

「はい、ちょっと風邪気味で声が変なんですけど、実はちょっと事務所で大変なことが起きてしまって、今私、近くにいるんですけど来られますか?」

「えっ! 大丈夫ですけど、今向かっていますか?」

「今向かっています。準備ができたらメールしてください。そしたら迎えにいきます」

「ありがとうございます。でも、風邪は」

「こんなのは大丈夫です。それよりも、準備ができたら電話をください」


 エイデンはそう言うと、電話を切った。事前にアメリアに頼んでおいたGPSを確認した。


 マンションから微かに動くと同時に家を出たことが送られた。エイデンは待ち合わせ場所を出来るだけ人気が目立ちにくいところにすると、


 近づくにつれ、エイデンは物陰からルカを探すと駆け足で来ているルカを見つけた。


「ルカさん!」

「あっ。エイ」

「挨拶はあとです! それじゃあ急ぎましょう。車は少し遠いところに置きましたから急ぎましょう」


 エイデンは仮病を演じながらそう言ってルカの手を掴み、人気のない場所に早々と入って行ったのだった。


 どんどん暗いところに進んでいくごとにルカは「あの」と不安そうな声を出した。


「大丈夫ですか? ここ」

「あぁ、大丈夫だ。近道だからね」


 エイデンはにこやかに言いながら人気がある場所から離れて行った。


 生きながらエイデンはスマホを取り出してアメリアのGPSを見た。すぐ後ろまでいることがわかる。エイデンはそこで足を止めた。


「ん? エイデンさんどうしましたか」


 ルカは立ち止まったエイデンに疑問を感じていると、エイデンは静かに振り返った。


 後ろにはアメリアが静かに待っていた。


「さようならだ。ルカさん。今までお疲れ様」

「えっ?」


 突然の発言にルカは戸惑っていると、アメリアはルカの肩を叩いた。


 ルカはなんだろうと振り返ると同時にアメリアは持っていたナイフで首元を深く切った。


 ルカは流れる血に首元を抑えながらその場に倒れた。


「うっ、うぅ。な、ん、で」


 ルカは自分自身を切った相手とそれを平然に眺めているエイデンを見た。


「すまないね。君がいるとアメリアと一緒にいられないからさ」


 エイデンは見下ろして言うと、ルカは驚きの表情を見せると自分の首を切った人物を見た。


「ま、さ、か、あな」


 ルカはそばにいる人物に何か言おうとしたが、力が尽きたのか静かに目を閉じた。


 エイデンは死んだことを確認すると、強盗に見せかけるため、カバンを取ると中身を周りにばら撒けさせてからスマホを真っ二つに折り、財布をポケットの中に入れた。


「すばらしかったよアメリア。まさかここまで成長をしたとは。それじゃあ早く帰りなさい。できるだけ走ってね。それと、ナイフはこちらに」


 エイデンはアメリアからナイフを受け取った。


「電話は一日待ってくれ。そして、夜になっても帰ってこなかったらすぐに電話をするように演技をしてね。いいね」


 エイデンの言葉にアメリアははいと返事をすると、駆け足でその場を去ったのだった。


 周りに人がいないことを確認すると、さっきとは違う道から駐車場に向かって行った。


 車に乗り、アイソンが住んでいるマンションに向かった。履歴書に書かれていた番号を確認し、彼のポケットの中に入っていた鍵で部屋を開けると内側から鍵を掛けた。部屋の中は思ったよりも少しだけ広め。目の前に窓があったためすぐにカーテンで閉めた。


 そして部屋を探しまくり、パスポートと鍵、そして何着かの服を持ってきたカバンの中に押し込んで車に乗った。


 ルカの家の近くの店に置いた。


(これでなんとかなるだろう)


 エイデンは財布からお金を抜き取り、血まみれのナイフを見えやすく後ろの席に置くとそそくさと外に出た。


 なるべく人に合わないようにしながら駆け足で公衆トイレに入り、扉をしっかり閉めると早々と服を脱いだ。そして、カバンの中に入れている服に着がえ、ウィッグとリアルマスクを被り、手持ちの鏡で変にブレていないかを確認をするとトイレから出た。


 イヤホンで音楽を聴いている男性を演じながらエイデンは街並みを歩き、電車に乗り、自分の自宅に戻った。




 エイデンは家に戻ると、マスクを剥ぎ取り、カバンをソファの上に置いた。


「……ククククッ」


 お腹が沸繰り返そうなほどの笑いが込み上げた瞬間、家中からエイデンの高笑いが響き渡った。その場にいた家族は思わず顔を上げた。


 エイデンはこれまでも自分が高笑いをしたことは初めてだった。今まで殺人でこんな高笑いをしたのは生まれて初めてだった。


(これで、これであとは自分が引き取れば、俺の物だ)


 エイデンはその日を深く楽しみにしていた。




 2年後、秋が近づいていき、街の方ではハロウィンの準備が始まっていった。


 エイデンはいつものように相談者から相談を受けたり、犯罪者の弁護をする仕事を日常のようにこなしていった。


 一通りの仕事を終えると、エイデンは自分の部屋で背伸びをした。


 扉が叩かれる音が聞こえ、入る許可を与えると女性秘書が紅茶を持ってきてくれた。


「今日もお疲れ様でした!」

「あぁ、いつもありがとう」

「いえ、あっ。そういえばエイデンさん」


 女性秘書は紅茶をデスクの上に置きながらエイデンに質問をした。


「あれから2年経ちますけど、アメリアさん大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。いつものように大学に通っているし、元気にしているよ」


 エイデンの言葉に女性秘書が安堵の顔を見せた。


「それなら良かったぁ。何せ、ルカさんが2年前に通り魔に殺されてしまったものですから、あれ以来大丈夫かなと思ってましたから」


 女性秘書は心配そうにしながら言った。


「あぁ、あれは本当に残念だが、何よりもまだ犯人が捕まっていないのが心のこりだな」

「えぇ。確か、その犯人が同じくカフェで働いていた人なんですよね。ひどいですねよね。娘のために働いているルカさんを殺すなんて」


 女性秘書は思い出したのか辛そうな表情を見せた。


 殺した日の翌日、朝の九時頃にちょうどあの裏道を通ったホームレスがルカの死体を発見したのだった。


 その前にルカが珍しく遅刻をしていることに事務所で働いている人たちはどうしたのだろうと話している間に見つかったのだった。


 エイデンももちろんその時は事務所にいたため、その惨状を聞いた時は心の中で見つかるのが少し早いなと感じたが、すぐに死体確認のために警察署に向かい、ルカの死に顔を見て悲しむ演技をした。もちろんアメリアにも行く途中にそうしろと言ったため、母親の姿を見たアメリアは白身の演技で母親に抱きしめた。


 そして、アイソンが犯人だと思われた理由は、店に停まっていた不審な車を見つけ、中身を見てみるとルカの血がついたナイフと盗まれた財布が入っていたのを証拠に警察はアイソンを捜査したがそんなことは無駄だとエイデンは思っていた。


(あいつは今頃、半分海で半分はもぉ原型を留めていないんなんだよなぁ)


 その後、独り身になったアメリアの他に親戚はいないため、エイデンが自分から引き取るようにいうと変に疑われないまま色々な手続きを済ませ、エイデンの養子として向かい入れた。


 エイデンの計画は終え、これからは時々自分と同じく殺しを行うことを想像すると興奮が止まらないでいた。


「でも、どうして夜遅く外に出たんでしょうね」

「確かにそうだね。なんか会社に忘れ物でもしたんじゃないのかな? ルカさんはとても心配性の人だからきっとね」


 エイデンは演技をしながら紅茶を受け取った。女性秘書は失礼しましたと一言言って部屋を出た。


 エイデンはカップを持ち、窓に近づいて街を見下ろした。


 動いている車、工事をしている所、営業で歩き回っている人物が見えていた。エイデンはその光景を黙って見つめながら紅茶を一口の飲んだ。


 全ての仕事を終えたエイデンは荷物をまとめ、仲間に挨拶を交わしながら駐車場に向かった。


 車に乗ると、アメリアにそろそろ帰ることをメールで伝えてから走らせた。


 家に着き、車に鍵を掛けてドアを数回叩いた。


 中から歩く音が聞こえると扉が開かれた。


「エイデンさんお帰りなさい!」


 アメリアが笑顔で帰ってきたエイデンに抱きついた。


「あぁ、ただいま」


 エイデンも優しく抱きしめ返した。


 家の中に入り、アメリアは荷物を部屋に置こうとするとエイデンは腰を掴んで自分に寄せ、髪を触った。


「アメリア、半分染めた髪の色が落ちてきているねぇ」

「日にちが経てばそうなりますよ」


 アメリアはにこやかに言った。


 近くの大学に進学すると同時に、アメリアは髪を半分青に染めたのだった。なぜそのようにするか聞いてもいると。


「過去の自分とは変えたいから」ということだった。


 エイデンはその行動に人を殺して生きていくことを覚悟した上なんだろうなと考えた。


「大学は楽しいか」

「はい、とても楽しいですよ!」


 アメリアはエイデンの質問に再び笑顔で答えた。


 エイデンと一緒に住んでからアメリアはとても変わった。殺しの時は笑顔で殺すようになった。


 そして、あることも変わった。


「それからエイデンさん」

「ん? なんだ」


 エイデンはコートをハンガーに掛けると、後ろからアメリアが抱きしめた。


「今日、相談してきた人って女の人?」

「あぁ、よくわかったね。香水の匂いがついているのか? あまり近づかないようにしたのだが」

「うん」


 アメリアはそういうと、エイデンを強く抱きしめた。


 そう、変わったのは性格だ。変に捻くれたのではなく、ただ独占欲が少しずつ強くなって言ったのだった。前は暴れ回る女が自分の腕を引っ掻いた時にすぐさま側にあったナイフで腕を刺した。


 行動と独占欲にエイデンはますます興奮が高まった。おかげで仕事は順調、もし嫌なことがあった時などはその時の光景を思い返していった。


「何か心配なのか?」

「いや、特には」


 アメリアは抱きしめる力を強めながらも、エイデンは向きを変え、面と向き合うような形にし、優しく頬に触れた。


「私は決して君を捨てたりしない。だから安心してくれ」


 優しくエイデンはアメリアの見つめて言った。


「じゃあ、死ぬ時も」

「あぁ、もちろんだ」


 エイデンはにこやかにいうと、再び強く抱きしめた。


 抱きしめながら心の中で呟いた。


(一生、私のものだ。死んでも)


 そう思いながら、少し強めに抱きしめた。



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