第3話 初めての殺し
「それじゃあアメリア。行ってくるわね」
「うん! 行ってらっしゃい」
イヤホンから聞こえるルカとアメリアの声にエイデンはそろそろだなと思いながら
3階建てのマンションを見上げていた。家は事務所の方にあるルカの履歴書から住所を割り出し、二台目の車で外で待機をしていた。
マンションを見つめていると、ルカがオシャレな格好をして出てきた。
通り過ぎると、すぐに車から降り、反対の入り口からルカの部屋に向かった。番号を確認をすると、静かに呼び鈴を鳴らした。ドアからはーいとアメリアの声が聞こえた。
扉が開けられると、アメリアはエイデンの姿を見て驚愕をした。
「えっ! エイデンさん! なんでうちの家を?」
「あぁ、驚かせてしまってすまないね。実はルカさん事務所に忘れ物をしていたらし
いから届けるために履歴書を見てしまったんだ。ごめんね」
エイデンはできる限り警戒はさせないように丁寧に説明をした。
「いえ、むしろ届けてくださりありがとうございます。後で母親に言っておきます」
「あぁ、じゃあ、あれ?」
エイデンの様子にアメリアは「どうしましたか」と声をかける。
「いや、うわぁ。最悪だ。せっかく君の母親の忘れ物を届けるために来たので、忘れてしまった」
「あらあら。エイデンさんおちょこちょいですね」
「ははは、すまないね。いやぁ、歳を取ったら忘れ物ひどくなったな」
エイデンは演技をしつつ、自分の家に招き入れる作戦を練った。
「この後、予定はあるかい?」
「いえ、母親が確か夜あたりに帰ってくるんで、あっ。なら私自身とりに行きましょうか。後で、母親に連絡を」
「あぁ、連絡は大丈夫だ。あの人が、俺に迷惑をかけたと思って、会社で変に謝ってしまうからね。だから、これは俺とミアさんだけの秘密ってことでいいかな」
エイデンの説明にミアは同感をした。
「確かにそうですね。わかりました。あっ、それじゃあ支度をしてきますね。一度家に上がってください」
アメリアはエイデンを一度家に上がらせると、駆け足で家の奥に入って行った。中は思ったよりも少し広く、あるのは机とテレビとキッチン。そして、ミアが昔描いたと思われる絵が飾られていた。
周りを見渡していると、ミアが私服姿と小さめの鞄を背負ってきた。
「すいません。お待たせしました」
「いえいえ。それじゃあ、早くいこうか」
エイデンの言葉と同時に、外に出た。アメリアは持っている合鍵で鍵をかけるのを確認すると、一緒に車に向かった。
「入って」
「はい!」
アメリアは助手席に座ると、エイデンもすぐに運転席に座り、お互いにシートベルトをしたことを確認すると車を走らせた。
「なぁ、アメリアさん」
「はい。なんでしょうか?」
「君は何か、他に趣味があるかい?」
「趣味ですか?」
エイデンの質問にアメリアは考えた。
「本を読むことと、デザート作りですかね」
「へぇ、いい趣味だね。とても女子力が高いよ」
エイデンはにこやかに言った。その言葉にアメリアは頬を赤らめさせた。
「いやぁ、エイデンさんに褒められるほどではないですよ」
アメリアはまんざらでもないほどの笑みを見せながら言った。
2人で楽しく話しているうちに、エイデンの家に近づいた。
アメリアは海の光景を見て、歓喜の声を上げた。
「うわぁ。エイデンさん、海が見える場所に住んでいるなんて素敵ですね!」
「海が好きだからね」
本当は残りの死体とか捨てるのに便利だからと、エイデンは心の中で言った。
エイデンはアメリアを家の中に招き入れると、鍵を掛けた。
「あっ。大丈夫ですよ。鍵は。どうせ荷物だけ受け取って帰るだけですから」
「あぁ、そうだね。でも、一様防犯のためさ。さっ、家に上がってくれたまえ。休憩した方がいいだろうから」
「えっ。でも、エイデンさんもお休みですし、長いは」
「大丈夫だよ。持ってくるから部屋に上がってくれたまえ」
エイデンはアメリアを家に招き入れるとすぐに鍵を掛けた。
「ソファにでも座ってて。私は部屋に行って、忘れ物を取りに行ってくるから」
エイデンはミアにそういうと、自分の部屋の奥に入っていくそぶりを見せ、陰でじっと様子をみた。
アメリアはソワソワしながらもゆっくりとソファに腰掛けた。
エイデンはそれを見つめながらも、そろそろだなと思い、アナコンダのシャラにアメリアの足元に行かせるようにした。
シャラは命令通りにしながら音を立てさせないように近づき、足元に行った。アメリアは足元の感覚を感じたのか、下を見て小さく叫び声を上げた。
「きゃ!」
アメリアは腰が抜けると、這いつくばっても蛇から逃れようとしていたところにエイデンは近寄った。
「あっ、えっ、エイデンさん!」
アメリアはなんとか立ち上がると、エイデンに駆け寄った。
「なっ、なんでこの家に蛇がいるんですか?」
「あぁ、あの子は私の家族だ。名前はシャラだ。びっくりさせてすまないね。それから、嘘をついてしまったことも」
「えっ? 嘘? どうゆうことですか?」
アメリアは訳がわからない表情を見せた。怯え切っている顔に、エイデンは興奮をした。
「母親の忘れ物だよ。あれは嘘。全て、君をここに連れて行くための計画さ」
エイデンの話にアメリアは怯え切った表情をのまま一歩ずつ後ろに下がっていった。
「あぁ、そんなに怯えないでくれ。後ろの家族がもし間違って殺してしまったら大変だ」
にこやかに後ろを指さしていうと、アメリアは後ろにいるライオンとハイエナ三匹を目にして恐怖に引き攣った顔になりながら逆にエイデンの方に近寄った。
その瞬間にエイデンはアメリアの腰を掴み、自分のそばに引き寄せると首元に持っているナイフを首に当てた。
「そこにいるライオンはライ。ハイエナの三匹は右からソウ、ユージ、キルだ。あっ、暴れないでくれよ。私のいう通りにすれば殺さないからさ。もちろん今私のそばにいる家族だって同じさ」
エイデンは優しく抱きしめていると、そばにいたシャラがアメリアの体に巻きついてきた。
「俺のいうこと、聞いてくれるかい?」
アメリアは必死にエイデンの話に首を縦に降った。その行動に笑みを浮かばせると、いつもの地下室へと案内をした。
もちろんそばには家族も一緒に地下室へと向かった。
地下室に行くと、昨日捕らえておいた男性がエイデンの姿を見ると暴れまわった。
「な、なんですか。この人は」
「あぁ、これ。今から君にしてもらうことの材料だよ」
「ざい、りょう? なんですか。してもらうことって」
アメリアは怯えた声で話すと、エイデンはそばにあった銃を見せた。
「これで目の前の男を殺しなさい」
エイデンの言葉に、ミアは目を見開いた。
「こ、ろす? 何を言っているんですか? なんで、私」
「君が好きだからだ」
エイデンはアメリアの手を優しく握ると、愛の告白をした。
「初めて見た時からずっとね。純粋な瞳と優しさと親思い。その形に惚れたんだ。だから、一緒になるなら俺と同じ人物になるしかないなと思ったんだ」
エイデンの言葉に、アメリアは身震いをした。
「エイデンさん。まさか母親を雇ったのって、私をこんなことするために」
「あぁ、そうだよ。普通なら俺はそんなことはあまりしないさ」
エイデンの放った言葉にアメリアは絶望の顔を見せた。
「そんな、ひどい、エイデンさん、あなた、そんなことのために」
「そんな言葉はもぉいい。さぁ、目の前の男を殺しなさい」
エイデンは銃を渡したが、アメリアは首を横に振った。
「無理です、そんなこと、そんなこと私は」
「君の母親がどうなってもいいのか?」
冷たい言葉で言うと、アメリアは涙目でエイデンをみた。
「大事な母親が何かされたら困るだろ。なら、早く殺しなさい」
エイデンは男の頭を掴み、目の前に放り出した。男はずっと暴れ回って助けを求めているようにしていた。
アメリアは銃を持ちながらずっと震えていた。
エイデンはあぁ、そういえばと言いながらアメリアの後ろに周り、優しく手を握りながらエミリアの指をトリガーの方に入れた。
「銃を撃つことは初めてだったことをすっかり忘れていたよ。初めは私と一緒に殺そう。それならいけるね」
エイデンは明るい声で言ったが、アメリアはガタガタと体を震わせていた。
「じゃあ、いちにのさんって。行くか。いいね」
エイデンはエミリアにそう言うと、息を整え、数を数えた。
「1、2の、3!」
エイデンが3を言うのと同時に地下室から銃の音が響き渡った。目の前にいた男の動きが止まり、胸から血が流れ出てきた。
打った事と同時にアメリアは息を荒くすると、手を押さえたがその場で嘔吐をし、泣きじゃくり始めた。
エイデンはその場から匂う火煙の匂いが感じられると、目の前にいる人物が死んだということとアメリアが殺したことを実感して胸が高まる。
「あぁ、いい匂いだ」
エイデンはそう言うと、その場で泣きじゃくりながら息を荒くしているアメリアに近づき、膝まついて顔を上げさせた。涙と涎でぐちゃぐちゃになった表情に、深い笑みが出た。
「これで、一緒だね」
エイデンは笑みを浮かべたまま言った。アメリアは目の前にいる恩人だった人物の裏の顔の姿に、ただ息を荒くしながら気を失った。
すぐに肩を掴み、吐瀉物で汚させないように近づかないように後ろに下がった。
「お前ら。まだ食べてはいけないからね。弾丸を取らなければいけないから」
エイデンはアメリアをそっと床に寝かせせ、男を檻の中に入れると、アメリアを抱えて地下室を出た。
ソファに寝かせ、口周りをペーパータオルで優しく拭いた。拭きながらも、エイデンは心の中にある興奮が止まらないでいた。何せ先ほど、一緒に男性を殺したからだ。
だが、一人を殺したぐらいで一瞬にして一緒になるはずがないと思いながらも、これから何回でも人を殺させてあげようと思った。
何人か犠牲になる人が毎日出てしまったら警察も動くはずだ。だから月に二回まで殺す訓練をさせようと感じた。
すると、ハイエナがミアに近づいたが、すぐにエイデンは阻止した。
「こら。この子は殺してはいけないよ。私たちの家族になる人物だ」
ハイエナの一匹がもちろんだよと、エイデンの頬を舐めた。
「よしよし。わかってくれたならいい」
エイデンは優しく撫でると、後処理を行うために再び地下室に行った。
後処理を全て終え、一息を付くとエイデンはアメリアをマンションに送り返そうと思いながらリビングに行った。
ソファを見ると、寝息を立てながら眠っているアメリアがいた。それを見るたびに先ほどの光景がフラッシュバックをして蘇った。手紙を書き、殺した相手の血をべっとりと付けた。
優しく頭を撫で、何も汚れていないことを確認すると抱えて車に乗せ、マンションに向かった。抱えたままマンションの入り口に入るとさすがに怪しまれる可能性が高いため、裏から入り、部屋まで付くと合鍵で開け、部屋の中に入って、アメリアをベットの上にそっと寝かせた。
「また、今度ね」
エイデンは優しく頬にキスをすると、外に出て鍵を掛け、ポストから合鍵を入れてその場を去った。帰りに高級なワインとつまむものを買い、家に戻ると家族が出迎えてくれた。
「ただいまみんな。今日は、少しお祝いをしよう。今日はとても、いい気分だ」
エイデンは高級肉を見せながら言った。
数時間後、アメリアはゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が目に入った。起き上がり、周りを見渡した。そこは自分の部屋だと言うことにあれは夢だったのかと思ったが、横にはお出かけ用のバックが横に置いてあった。
「まさか」
アメリアはすぐに立ち上がり、アメリアはカバンの中を見ると透明な袋に入れた何かが入っていた。見てみると、それはすぐに血がついたカードだと言うことがわかって悲鳴を上げて、床に落とした。
(あれは……夢じゃ、なかった)
アメリアはすぐに男を殺した光景が浮かび、震えながら自分の手を見た。あの銃の感触が再び蘇ったことを感じ取れると、その場に崩れ落ちた。
すぐに側にあるカードを見てみると、何か書かれているのが見えた。
見てみると、”まだ終わらない。また今度うちに来る日は私が決めてから君のカフェに行く。もし無理だったらすぐに他の日にする。それとこれは私たちだけの秘密だ。言っとくが、母親に何か言ったら本当に何かするからね”と書かれていた。
その文章に心臓がうるさくなり続けている。
(喋ったら、お母さんを、あの人は)
恩人がまさかあんなサイコだと思わなかった。あの時、母親を雇ったのは家庭の事情を知って雇ったのではなく、自分目当てだなんて思いもしなかった。
ここに証拠が残っていても、あの人の頭脳だったら警察が来る前にこっちに来て殺して証拠を消すはず。
アメリアはこのことを母親にも警察にも言えない感じがした。
すると。
「ただいまー」
母親の声を聞いたミアはすぐにカバンの中にカードを入れると、作り笑顔で部屋から出た。
「お帰りなさい! どうだった」
「とっても楽しかったわ。いやぁ、これもエイデンさんのおかげね」
ルカは笑顔で言っていたが、アメリアにとっては今はエイデンは恩人とは言えなくなってしまった。
「そうだね」
アメリアはできる限りバレないようにしながら笑顔で言った。
あの日から数日後、エイデンはあの日のことを思い出しながら上機嫌のまま事務所に向かった。いつも通り受付の人と挨拶を交わし、部屋に行くと書類を取り出した。
扉から数回叩かれる音が聞こえ、女性秘書が紅茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
エイデンはお礼を言うと、女性秘書は「いえいえ」といつもとは違う笑顔で言ってきた。
「どうした? そんなにニコニコな顔をして」
エイデンは思わず質問をすると、女性秘書は笑いすぎていたのか頬を触りながら話した。
「いや、先生なんだかここんところ上機嫌だなーと思って。だから、なんだか嬉しいことでもあったのかなぁと思ったら笑うのが止まらなくて」
女性秘書は自分のことのように嬉しがっていた。
「そんなに嬉しがることか? それに、私は前まで結構暗い顔をしていたか?」
「あっ。いえ、そうではないんですよ。ただ、前までの普通の明るさからもっと明るくなったといえばいいですかね? それぐらいです」
女性秘書は変なことを言ってしまったかと思い、すぐに訂正をした。
「そうか。変に聞いてしまってすまないね。実はこの前、結構いいことがあったから上機嫌なんだ。だから、どこでも忙しくしてもそれを思い出していると機嫌が上がるんだ」
「へぇ。ちなみに何があったんですか?」
女性秘書の質問に、エイデンは紅茶を手に取り、深い笑みを浮かべながら言った。
「秘密だ」
そう言うと、紅茶を一口飲んだ。
横にあるカレンダーを見た。再び日曜日は特に何も予定は一向に入ってはいない。それならば、この日にまた訓練をさせるかと思いながら今日は丁度木曜日なため、あの猫カフェに行くかと考えながら再び書類に目を通した。
数時間後、今日の相談や弁護の仕事を終えるとすぐさま帰りの支度をし、挨拶を交わしながら事務所を去って行った。
車であの猫カフェまで行き、駐車場に止めるとすぐさま駆け足で店に向かった。
中に入ると、ミアが笑顔でいらっしゃいませと顔を上げたが、エイデンの姿をみるとすぐさま顔色が変わった。
エイデンは「やぁ、アメリアさん」と笑顔で手を振りながら近づいた。
アメリアはエイデンの姿に恐怖の顔を見せた。
近づくと耳元で
「普通の顔をしなければバレるよ」
と呟くと、少しだけ穏やかな表情を見せた。
「……ご注文は」
「あぁ、カフェオレを一つ」
エイデンはそう言うと、アメリアはそそくさと厨房の方に戻った。
席に座ると、数匹の猫がエイデンの周りに集まった。エイデンはそのうち一匹を優しく撫でた。撫でていると
横からアメリアがカフェオレが入った飲み物を渡した。
「お待たせしました」
「あぁ。ありがとう。ところで、アメリアさん」
エイデンは声をかけると、アメリアは肩をびくつかせた。
「なん、ですか」
「再来週の日曜日、何か予定はあるかね?」
「特にありませんが」
「じゃあ、その日にまた訓練をしよう」
エイデンの訓練という言葉に、何をするか察してしまったアメリアは目を見開いた。
「えっ」
「その日にまた、人を調達するんだが。大丈夫かな?」
エイデンはカフェオレを飲みながら質問をした。
「……嫌です」
「ん?」
「だって、あんなこと本当は」
「一緒になるための少しぐらいの儀式だと思ってくれればいいさ。何せ一瞬で終わるんだぞ」
「そうゆうことじゃあなくて!」
アメリアは思わず少し叫んでしまったが、すぐに厨房の方にいた店長が「どうしたの?」と声をかけてきた。
「あっ。いえ、大丈夫です。すいません」
アメリアはすぐに謝り、店長が厨房の方に行くとエイデンに近づいて話し続けた。
「あんな恐ろしいことをやるなんて、私は耐えられません!」
ミアは小さい声で悲痛の言葉を言ったが、エイデンはすぐに「母親」と口にした。
「えっ?」
「母親に何かされては困るんだろ」
エイデンは少しだけ厳しい視線を送って言った。
アメリアはその視線に唇を噛み締め、渋々「わかりました」と言った。
「その日は特に何もありません。何時ぐらいにしますか?」
「できる限り、早めで行ったほうがいいから、11時とかどうかな?」
「わかりました。何らかと理由をつけて、家を出ていきます」
「あぁ、楽しみにしているよ。仕事に戻って大丈夫だよ」
エイデンはそう言うと、アメリアは駆け足でその場から去った。
その後ろ姿を笑みを浮かべながら眺めると、エイデンはカフェを飲み干して早々と会計をすませてその場を去った。
夜の道を運転しながらあれが明日届く頃だろうと考え、思わず笑みが出た。こんなに笑みを浮かべさせたのは久々なのかもしれない。いや、あるいは両親を殺した時以来だなと考えた。
家に着き、部屋を開けると家族が駆け寄ってきた。
エイデンはその子達を優しく撫で回す。
「やぁ。お前たち。ただいま」
エイデンはそう言いながら部屋に上がり、カバンをソファに置き、ネクタイを緩めながら座った。
「あぁ、そうだ。実は再来週、またあの子が来るぞ。楽しみだなぁ」
エイデンは笑顔で言いながら、目の前の家族を撫でた。
ついに再来週の日曜日当日、エイデンは気分を舞い上がりながら待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所はあまり人気がない廃墟の近くだった。理由を聞くと、そこだと自分の家に近く、走ればすぐに着くと言うことだった。
エイデンは腕時計を見ていると、窓が叩かれる音が聞こえた。
みると、そこには息を呑んだかのような表情を見せているミアの姿だった。
エイデンはドアを開けると、アメリアは早々と車の中に入って行った。
「やぁアメリアさん。母親には何とか誤魔化せたかな?」
「はい。なんとか、夕方の5時までには帰ると言っているのでその前までには家に、帰らせてください」
「あぁ。もちろんだ。さぁ、行こうか」
エイデンはそう言うと、車を走らせた。
アメリアは助手席に座りながらも体を震わせていた。エイデンは運転をしながらも、周りのことを気にしながら家に向かった。
家に着き、一緒に降りて家の中に入った。入るといつもの通り家族が出迎えたが、アメリアは家族に少しだけ怯えていたがエイデンはすぐに大丈夫だと言いながら腰に手を置いた。
「殺す前に着替えて欲しいのがある。私の部屋にあるからそれを着なさい」
「はい、えっと」
「あぁ。部屋に案内するからおいで」
エイデンはアメリアに自分の部屋を案内をした。扉を開けると、一つの箱がベットの上に置いてあった。
「これ、ですか?」
「その中に入っているのは上だけだ。だが、結構大きめだと思うからスカートは脱いでね。着替え終わったら扉を数回叩いてくれ。外で待っている」
エイデンはそう言うと、ミアを部屋に入れて外で待っていた。
数分後、扉が叩かれる音が聞こえた。エイデンは部屋に入ると、そこには真っ白なティシャツを着ているミアの姿だった。
「おぉ。結構似合っているよアメリアさん。なかなかいいサイズだ」
エイデンはそう言いながらアメリアの肩にそっと触れた。
その表示にアメリアは肩をびくつかせた。エイデンはそれに気にせず、そのまま右にある全身が映る鏡の前に立たせ、アメリアの顔を鏡を見るように向かせた。
「こんな服着るの初めてでしょ。アメリアさん。とても綺麗だ。まさに、君の心そのものだ」
エイデンは恍惚とした表情で、悔しがっているアメリアの表情を見た。
「いいねぇ。これがこの後、血で汚れると言うことを考えるとゾクゾクするよ。あぁ、このゾクゾク、両親を殺した以来だな」
エイデンはそう呟くとアメリアは「えっ」と驚きの表情を見せた。
「殺したって、両親も」
「あぁ、あれは単にウザかった? というべきかな。毎回毎回怒鳴る人でね、本当にうるさかったんだ。その時に初めて殺したのはそこら辺にいた野良猫なんだ。野良猫を殺した時に本当に心がスカッとしたんだ。けどさ、それだと物足りなくなってね、偽造をして殺した。いや、でもあの頃は私は小学生だったから、見逃されたのかな? 結構いい運だろ。私は」
エイデンは鏡に映るアメリアを見つめながら言った。
アメリアはエイデンの話を聞きながら震えるだけだった。
「それからその服なんだが」
エイデンはそう言うと、アメリアの後ろに立って一番上のボタンを外し始めた。
「えっ。ちょっ」
「大丈夫だ。半分だけだ」
エイデンは三つだけボタンを外すと、服を肩まで下ろした。
「こんな感じの服なんだ。オフ何とかだったけな。中々セクシーっぽくて可愛いだろ」
エイデンは鏡を見つめながら言った。
「それじゃあ、行こうか」
エイデンはそう言うと、アメリアを連れてまたあの地下室に向かった。
地下室に行くと、昨日捕まえた女性がエイデンの姿を見て「ひっ」と声を出した。今日はガムテープで口を付さず、ただ体をガムテープで芝地つけるだけだった。
「今日は女性なんだ。交互にやって行ったほうが殺しやすいだろ。今日はね、ショットガンでやってみるのはどうかなっと思って用意したんだ。何せ一番、血が飛びやすいしさ。その服が真っ赤に染まる瞬間が見れる。あっ、耳がキーンってなるのが嫌だろうからこれ」
エイデンはそう言いながらアメリアの耳にヘッドフォンをさせた。
「今日は援助はしない。だが、使い方は簡単だ。ただ引き金を引くだけさ。あの時の銃みたいにね」
エイデンはアメリアにショットガンを持たせると、自分もヘッドフォンを耳につけた。
アメリアは体を震わせながらも、やらなければいけないと感じたのか銃口を女性に向けた。
「いやっ! やめて! お願いだから殺さないで!」
女性はアメリアに向かって泣き叫んだ。
アメリアは体を震わせながらトリガーの方にゆっくり指を置いた。
エイデンはアメリアを思わず見た。目を見開きさせながら体を震わせている。その姿にひどく興奮を覚えた。全身が燃え上がるように暑くなる。
「ごめん……なさい」
アメリアはそう呟くと、引き金を引いた。
周りに銃声の音が響き渡り、たくさんの血が飛び散った。そして、アメリアの白い服にはその女性の血が沢山ついた。
(柄のようで美しい)
エイデンは血を浴びながら目の前の光景に震えているアメリアの姿を笑みを浮かべさせながら抱きついた。
「いやぁ。素晴らしいよアメリアさん! 私の援助なしに殺すなんて。一歩だけだけど、少し進んだね」
エイデンは褒めたが、アメリアはそんなことよりも目の前の光景をただ見つめているだけだった。
「そんなに怯えなくて大丈夫だよ。これは後で私が処理するし、おまけにバレやしないさ。だから呼吸を整えて落ち着いて」
エイデンはそう言いながら優しく抱きしめた。アメリアの浴びた血が自分の服にもついたがそんなことはどうでもいい。ただこの子が成長する瞬間が見れられてとても歓喜をしている。
エイデンは自分の袖に着いた血を眺め、あることを思い出し、ニヤリと微笑んで女の血を指ですくってアメリアに話しかけた。
「アメリア」
「はっ、はい」
そう返事をした瞬間、エイデンはアメリアの口に相手の血が着いた指を入れた。
「んっ!」
「しっかりと味わいなさい。これが、君の殺した人の血だっていることを」
エイデンは暴れるアメリアを片手で抱きしめるかのように抑えながら、指を懸命に動かして味合わせた。
そろそろいいだろうとエイデンは指を口から離すと、アメリアはその場で嗚咽をした。
「ごほっ。おえっ」
「すまない。無理やりにしてしまったようだね。あっ、上に行ってその血をシャワーで落とさないとだね」
エイデンはミアを支えながら、地下室を出た。
アメリアをシャワー室に連れ、洗面台の近くに着ていたものを置くと地下室に再び行き、遺体を一度檻の中に入れた。
家族はまだ食べないのかと、聞いてくるかのように足に頭を擦り付けた。
「あぁ。これはまだだよ。私が綺麗にしてあげるからさ」
エイデンは笑顔で言うと、一緒に階段を上がった。
上がったのと同時にミアもお風呂から出てきた。
「あぁ。アメリアさん。どうだったかな」
「……大丈夫です」
「そうか。ならいいだろう。じゃあそこのソファに座ってくれたまえ。今、飲み物とケーキを用意しよう。ミアさんはチーズケーキ好きかい?」
「はい」
「そうか。ならよかった」
エイデンはアメリアにソファに座るように言い、キッチンの方に行き、冷蔵庫からミルクティーと二人分のチーズケーキを出し、お皿に乗せた。お盆にそれぞれ乗せて、それを持ってリビングの方に向かった。
「お待たせ。さぁ、食べたま、おや?」
エイデンはアメリアを見ると、アメリアの周りに家族がいた。シャラはアメリアの足に巻き付いている。
「お前たちがこんなに人に懐くとは珍しいな。シャラ、巻きつくのはいいがあまり強くはするなよな。おかげでアメリアさんが震えているじゃないか」
エイデンの言葉に、シャラは巻きつくのを緩めた。
「さぁ、食べなさい。先ほどで疲れただろう」
エイデンはミルクティーとケーキを目の前に出して言った。
「あの、エイデンさん」
「ん? なんだい」
アメリアの質問にエイデンは言うと、ミアは飲み物を一口飲んで言った。
「これは、いつまで、いつまで続くんですか?」
「あぁ、うーん。君は堕ちるまでかな。あっ、別に言ってもいいけどさ、君の母親にまで変な目を向けられるのは嫌だろう」
エイデンは深い笑みを出しながらアメリアに言った。
その言葉にアメリアは唾をゴクリと飲んだ。
「ここのチーズケーキはなかなかの絶賛でね。私は時々これを食べているんだ」
「そう……なんですね」
「あぁ。というか、全然食べてはいないではないか。もしかして、変なのが入っていると思っているのかな」
「っ! ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい。食べますから、食べますから殺さないでください!」
アメリアは謝りながら自分の身を守るかのように体を縮こませた。
「大丈夫だ。誰だって何かが入っているか危険を感じてしまう。私が食べさせてあげよう。先ほど、血を無理やり舐めさせてしまったから」
笑顔で言うと、アメリアの隣に座り、チーズケーキをフォークで半分にして刺し、向けた。
アメリアは目の前のチーズケーキに怯えながらも、一口食べた。
「どうだい。美味しいだろ」
「はい」
アメリアはモゴモゴしながら返事をした。エイデンは飲み込むのを確認すると次々と口の中に入れていった。
おかげですぐにお皿は空っぽになった。
「飲み物もぜひ飲んでくれたまえ。私はお皿を片付ける。それと、その子達を優しく撫でてくれ。どうやらよっぽど君のことが気に入っているぽいからさ」
エイデンはお皿を片しながらアメリアにいった。
エイデンはお皿を片付け、自分用の飲み物をコップに注ぎ、またリビングの方に向かった。
椅子に座ると、アメリアは優しくシャラ、ハイエナの一匹を優しく撫でていた。怯えてはいたが優しく撫で続けていた。
その他の子も早く撫でて欲しいのかミアの足元にいた。
「よほど気に入っているぽいね」
「そう……ですね」
アメリアは怯えながらエイデンに言った。
エイデンはその姿にとても可愛らしく思えてしまった。
「どうだね。二度目の殺しは」
エイデンは飲み物を一口飲んで言うと、ミアは撫でている手を止めた。
「……わかりません」
「えっ? わからない?」
「はい、もぉ、変な感情が混ざっていて、何が何だかわからなくて」
アメリアは震えながらもエイデンに話をした。
「ほぉ。どんな感情が混ざっているんだい。悲しい? それとも苦しい? それとも楽しい?」
「ッ!」
アメリアはそれ以上何も言えなくなってしまったのかそのまま黙り込んでしまった。
「なるほど。わかった。それで十分だ。今は、君が殺した時の心情を聞けて満足だ」
「えっ。私、何も」
「いいや。今の態度でわかったんだ。だから大丈夫だ。ちなみに私なんだが、初めて両親を殺したとき、とてもスカッとしたんだ。心の中に詰まり込んでいた何かを吐き出す感じでね。おかげで、今の人生を送れている」
「……後悔は、しなかったんですか?」
アメリアは横にいるライオンを撫でながら言った。
「後悔か……私がそんなふうになっていると思っているかな?」
エイデンは満面な笑みを見せながら言うと、アメリアに近づき、優しく頬を触った。
「私は後悔ということを一切していない。もちろん、君にしていることだって同じさ。だから何も、後悔などはしていない」
エイデンの声にアメリアは再び震え始めた。
「それよりも、おかわりはどうかな?」
「いり、ません」
「そうかい。なかなか美味しいのに」
エイデンは悲しそうにしながらミルクティーを飲み干した。
「それにしても、最近は天気がいいな。アメリアもそう思わないかい?」
エイデンは晴々している天気を眺めながら言った。
「そう……ですね」
アメリアはずっと家族を撫でて言った。エイデンはなぜだか胸がちくりとする感覚に襲われた。
「おい。皆、どいてくれるか」
エイデンの言葉に家族はアメリアの元から離れた。
なんだろうとアメリアが思う瞬間、エイデンはアメリアの隣に座り、顔をマジマジと見た。
「うん。素晴らしい顔だ。前よりも清々しくなっているように見えるねぇ」
「……何を言ってるんですか」
「あぁ。簡単に言えば、君が私と同じ」
「違う!」
アメリアはエイデンが最後に言う言葉を察したのか耳を塞いだ。
「私は、私は絶対に」
アメリアは自分が殺人鬼ではないと否定をした。エイデンはそんな姿も美しいと感じた。
「ふふ、いいねぇ。その考え。あっ、そうだこれ」
エイデンは自分のポケットの中に入れていた封筒をアメリアに渡した。
「なんですか。これ」
「お金だよ。少しだけだけどさ。帰りの際にそこらへんでぶらぶらすればいいじゃないか」
エイデンはアメリアにお金を渡した。
アメリアは渋々その袋をカバンの中に仕舞い込んだ。
「さぁてと。家の近くまで送ってあげよう」
エイデンは背伸びをしながら言うと、アメリアは「はい」と小さく返事をして立ち上がった。
支度をし、先ほど乗った車に乗り、エイデンはアメリアを家の近くまで送った。
「それじゃあアメリア。また今度な」
エイデンはそう言うと、車を走らせて家に向かった。
上機嫌の中で目の前の信号機が赤信号になったのを見て運転を止めると、ドアの間に入れていたタバコを取り出し、一本を口に加えて火を付けると少しだけ吸った。
口から煙を吐き出すと、血まみれの姿で震えている姿が脳裏に浮かんだ。何か思い
出して起きたい時は、お気に入りのタバコを吸い込むだけで浮かぶため、エイデンは時々仕事のことなどで吸っていたが、仕事以外でも吸う日が来るなんて思いもしなかった。
「はぁ、今日のタバコは一段と美味いな」
エイデンはそう呟くと、タバコを吸いながら運転をし、家に向かった。
家に着くと、タバコの灰を持って中に入り、家族にただいまと言いながら洗い場にタバコを水につけた。
これで火事にならないことを確認すると、エイデンは風呂場に向かった。
洗濯機の上にはアメリアが着ていた血まみれの服があった。
エイデンはそれを掴み、思いっきり息を吸い込んだ。
血の匂いとアメリアの匂いが感じられて殺人とは違う興奮を感じられた。
(あぁ、早く、早く俺と一緒になってくれ)
エイデンは心の中でそう呟きながら血まみれの服を抱きしめた。
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