ネオ・テクシー

そうざ

Neo Texi

 午後10時、俺は国道沿いで陽気に手を振った。前方に『空車』の表示が灯っていたからだ。この辺りで〔ネオテク〕が客待ちをしている事は、以前から目にして知っていた。

 俺の眼前にやって来たのは、年の頃は五十歳前後、小柄な小太りの男だった。寒空の下、ずっと巡回していたと見え、汗だくの身体に白ブリーフ一丁、白いウエストポーチに白い手袋、白い地下足袋、そして素肌に『880』と記されたIDゼッケンを着けている。

 直ぐに880ハヤオという渾名が思い付いた。

 こんな奴が〔ネオテク〕をやっているとは呆れる。人力運送事業が〔ネオ・テクシー〕として完全自由化された当初は、筋骨隆々のモデル並みの人材が白い歯を輝かせてアピールしていたものだったが、不景気の影響なのか今や人材不足は必至らしい。

「どちらまで参りましょう」

 ハヤオは息を弾ませながらも、にこやかな声で言った。やっと客に出会えて嬉しいのだろう。

「ツー・シーズン・タウンへ」

「畏まりました……お客様は尊属そんぞくの方ですか?」

「そうだよ」

「尊属の方が〔ネオテク〕をご利用になるとは……」

「別に構わんだろ、違法じゃあるまいし」

 ハヤオは恐縮しながら頭頂部の『空車』を『満車』に変えて俺の前にひざまづいた。

 冷えた汗と加齢臭との入り混じった熱気が鼻を突く。肩に掴まると、上気した湿気が指に伝わった。別の〔ネオテク〕に代えようかと思ったが、ハヤオは俺を背負うや否や走り出してしまった。

「しっかり掴まって下さいねぇ、この先はずっと上り坂です」

 年末の車道は混んでいるが、道路交通法上、軽車両にも含まれない〔ネオテク〕は歩道の通行が可能だから、所要時間を読み易い。

「お客様はよく〔ネオテク〕をご利用になるんですか?」

「そっ、そうでもっ、ななぁいっ」

 ハヤオは愛想を良くしようと懸命に話し掛けて来るが、走る振動で舌を噛みそうになる。〔ネオテク〕は談笑には向かないだろうと想像していたが、その通りだった。

「不景気っ、ですからっ、ねっ。今や〔ネオテク〕業界もっ、厳しいですっ」

「あぁ、そっ」

「私はっ、子供の頃から運動がっ、大の苦手でしてっ。でもっ、〔ネオテク〕は一獲千金のっ、チャンスだと思いましてねっ」

「俺もっ、似たようなっ、もんだっ」

 一分もしない内にスピードが落ち始めた。余計なお喋りをするからだ。ハヤオの喉からひゅーひゅーと苦し気な呼吸音が聞こえ始めた所で上り坂が急になり、すっかり無口になってしまった。

「大丈夫なの?」

「だ、い……はぁ、じょぶ……はぁはぁ、ですぅ」

「一旦、降りようか?」

「いえいえ、ご心配なく……はぁはぁ」

 ハヤオは再びよろよろと動き出したが、ほとんど歩いているのと変わらない速度だった。ツー・シーズン・タウンの自邸まではまだ4キロ程ある。渋滞を避けたかったのに思いの外、時間が掛かるかも知れない。

「そこを左折ね」

「あぁ……はいっ」

 その時、視界が引っ繰り返った。気付いたら俺は冷たい路上に転げ落ちていた。幸い怪我はないようで、おもむろに身を起こした。

 傍らで渋滞を起こす車列の横に、二つの影があった。一つはハヤオ、そしてもう一つは仁王立ちをしている。

 大柄な女だった。インナーマッスルまで充実しているだろう浅黒い身体に朱いビキニとIDゼッケン、同色のウエストポーチに手袋、地下足袋、そして頭頂部に灯るのは『空車』の表示だった。

 どうやら曲がり角で正面衝突したらしいが、女の方は転倒すらしなかったようだ。

 ハヤオが起き上がった矢先に女が詰め寄った。

「何処を見て走ってんだぁっ!」

 まあまあと割って入ろうとしたが、女の二の句の方が早かった。

「臭いっ! あんた、飲酒就労じゃないかっ!」

 ハヤオが慌てて言い返す。

「違う、違いますっ」

 女はウエストポーチから携帯端末を取り出し、黙って操作を始めた。警団隊に通報するつもりだ。

「ちょちょちょっと待って下さいっ」

 そう言いながらハヤオは俺の方に視線を寄越した。酒の臭いは俺が発しているのだ。女にその事を説明して欲しいのだろう。

 俺は内ポケットから財布を出し、女の前に歩み出た。

「これなら半年分くらいの稼ぎと同額だろう?」

 車列が俺達の直ぐ隣をゆっくり流れて行く。

 女は無言で俺の金を受け取ると、携帯端末と一緒にウエストポーチに仕舞った。そして、何事もなかったかのように走って行った。

「大丈夫?」

「はい、まぁ……」

 ハヤオは訝し気な顔を崩さない。

「実は女房から酒を止められててね。警団隊に状況説明をする事になると、ばれちゃうからさ」

「あぁそぅそうでしたか……でも、女に渡した金額は後日お返ししますので」

「構わんよ。それより先を急ぎたいんだ」

「あぁはい、畏まりましたっ」


              ◇


 やがて山頂に広がるツー・シーズン・タウンの灯りが見え始めた。尊属の、尊属に依る、尊属の為のこの街は、5メートル程の高い防壁でぐるりと囲まれており、卑属ひぞくの立ち入りは原則的に禁止されている。

 正面ゲート前に到着したのは、漸くハヤオの体臭に鼻が麻痺し始めた頃だった。谷底の遠い眼下には卑属のスラムが存在するが、夜間は一面が真っ暗で見苦しさが消えている。

 腕時計を確認すると午前0時前だった。防犯上、午前0時を過ぎると尊属であっても防壁内なかに入れなくなってしまう。

「どう? 防壁内に入ってみたくないか?」

「滅相もない」

尊属おれと一緒なら問題ないよ」

「ですが、畏れ多いので」

「寒い中、頑張ってくれたお礼さ。俺を背負ったまま家の前まで行ってくれ」

 俺の命令口調にハヤオはやっと従った。

 正面ゲート脇に設置された管理スキャナーに瞳を翳すと、小さな潜り門が音もなく開いた。眼前に広がった街並みの整然さに、ハヤオが感嘆の息を吐いている。

「お宅は何方どちらですか?」

「何せ広いからね、道々指示をするよ」

 正面ゲートから自邸までは徒歩で30分程度だが、妻が起きている時刻に帰り着かないよう、なるべくゆっくり遠回りをしたかった。

「今夜は本当にありがとうございました」

「んぅ?」

「実は私、一度〔ネオテク〕を廃業してまして」

「何でまた?」

「実はそのぅ……酒が入った状態で就労を」

「そりゃまずいな」

「今日は一滴も飲んでませんが、さっきは昔の失敗しくじりが蘇って気絶しそうでした、ははは……」

「だけど、何だってまたそんな違反を?」

「寒空に巡回ながすのは冷えますし……ってのは言い訳で、単なる現実逃避です」

 外灯が作るのは鬱蒼とした街路樹と俺達の影だけだった。この時間に出歩く住民は居ない。目撃される心配はない。これも計算済みだった。

「疲れただろう、もうこの辺で降ろしてくれて良いよ」

「いえいえ、お宅の前まで……」

「降ろしたまえ」

 ハヤオは素直に腰を落とした。漸く体臭から解放され、俺は深く息をいた。通常料金に幾らか上乗せすると、ハヤオはすんなりそれを受け取った。何度も恐縮するのは逆に失礼と思ったのかも知れない。

「潜り門だけどね、防壁内からだったら誰でもフリーパスで出られるから」

「はい」

「そうだ、折角だからゆっくり街並みを見学して帰ると良い。こんなチャンスは滅多にないんだから」

「そうですね、そうします」

 ハヤオは深く頭を垂れると、何度も振り返りながら去って行った。

 時刻を見ると、門を潜ってから1時間近くが経とうとしていた。

 ハヤオは1時間もツー・シーズン・タウンに居た事になる。1時間もあれば色んな行為が可能になる。

 計画は順調だ。


              ◇


≪尊属の町で殺人か≫

 本日未明、尊属専用防壁居住区ツー・シーズン・タウンの住民から、妻がぐったりして動かない、との通報があった。

 同区内常駐の救急隊が駆け付けた時には既に妻は死亡しており、続いて急行した警団隊に拠れば、暴行を受けた形跡や、遺体頸部に紐で絞められた形跡が見受けられる事から、本事案を不審死から強盗殺人へと切り替えたと言う。


≪ツー・シーズン・タウン殺人に〔ネオ・テクシー〕が関与か≫

 今回の事件で妻を亡くした住民は、事件当夜〔ネオ・テクシー〕(以下〔ネオテク〕)を利用して帰宅したが、その際〔ネオテク〕が防壁内に立ち入っていた事実が警団隊関係者への取材で明らかになった。警団隊はこの〔ネオテク〕が事件に大きく関与していると見て行方を追っている。

 尚、事件当夜、住民は強かに酔った状態で、帰宅後は直ちに自室で就寝してしまった為、その後に別室で起きた妻の異変には全く気付かなかったと警団隊への状況説明の折りに答えている。


              ◇


「もう充分に説明しましたけどね」

「もう少しだけご協力をお願いします」

 俺は部屋に通されるや否や、巡査部長との間に見えない火花が散ったように感じた。事件直後に状況を説明した時とは違い、今回は警団隊署へ呼び出された。部下らしき人間が同席しているのも気になる。

「貴方はあの夜、午前1時過ぎに帰宅されたんでしたね。間違いありませんか?」

「酒を飲んで帰ると妻にどやされますから、もう寝た頃かなと腕時計を確認しました」

「正面ゲートの管理スキャナーには、貴方が前日の午後11時52分に網膜認証をした事が記録されています」

「……何を仰りたいのですか?」

「正面ゲートからお宅までは、徒歩で30分くらいですよね。なのに貴方は1時間近くも掛かった事になります」

うるさい妻が寝るまで時間を潰そうと、遠回りをしました」

「その事を証明する第三者は――」

「それは〔ネオテク〕に訊いてくれと、前回も言った筈です。IDゼッケン880の男ですよ」

 こんな陰気な場所からは一刻も早く離れたいが、焦りは禁物だ。俺は苛立つ自分を客観的に見ようと努めた。

「全ての〔ネオテク〕業者に確認を取りましたよ。が、現在880を使用している登録契約者は居ませんでした」

「じゃあ、あいつは……適当なゼッケンを付けた非認可営業白テクだったとか?」

「さぁ、それは何とも言えませんが……〔ネオテク〕業界には妙な噂があるそうです」

 巡査部長は眼鏡を掛け、資料に目を落としながら続ける。

「貴方の証言に拠ると、ゼッケン880の特徴は白手袋と、白足袋と、それから――」

「小柄で小太りでした」

「その特徴に合致する目撃情報は何件もあります」

「でしょう? 俺は嘘なんか吐いてませんよ」

「しかし……実在は確認出来ません」

「何故ですか?」

「怪談の類ですから」

 不意にえた臭いが鼻先を掠めた気がした。まだ二日酔いが続いているのだろうか。酔いがぶり返すなんて事もあるのだろうか。

「気味が悪いという事で、業界では880を永久欠番にしたそうです」

 部下が机にモバイルモニターを置くと、巡査部長は頭の整理が追い付かない俺に構わず会話を進めた。

「貴方はゼッケン880に背負われて防壁内を遠回りされたと?」

「そうですっ、防犯カメラに映ってるでしょ? 俺とハヤオの姿がっ」

 巡査部長は部下と顔を見合わせ、モバイルモニターを俺に向けた。そこには、画質の粗い俺が千鳥足で潜り門を通過する光景が映し出されていた。ハヤオの姿は影も形もない。

「これをどう説明されますか?」

 あの夜の色んな場面が目紛めまぐるしく点滅し、俺に鳥肌を立たせた。俺は〔ネオテク〕の幽霊に背負われていたとでも言うのか。

「……そうだっ!」

「んん?」

「女の〔ネオテク〕に話を聴きましたかっ? 彼女なら第三者視点で証言が出来るっ」

 まだ続ける気かという態度をあからさまにしながら、巡査部長はその身を軽く反らした。

「彼女は、と、貴方から口止め料を受け取った事は認めました」

「俺と衝突っ? ぶつかったのはハヤオです、俺は乗客に過ぎない!」

「往生際の悪い人だなぁ!」

 巡査部長は俺の語気を上回る怒声で応えたが、直ぐに失笑してしまった。部下も釣られて破顔した。

「事件当夜、防犯カメラに映っていたのはあんただけなの。他の住民が屋外に出ていない事も裏が取れてる。これが何を意味するのか、私に最後まで言わせる気かぁ?!」

 耳を塞がれたような感覚が俺を襲う。人懐こさと他人行儀とが同居するハヤオの面貌が、夜陰のフラッシュライトに一瞬浮かんで消えた。


              ◇


≪供述調書:甲≫(抜粋)

 俺が妻を殺害した事に間違いありません。

 事件当夜の午前1時過ぎに帰宅し、以前は夫婦の寝室にしていた部屋で寝ていた妻の首を電気コードで絞めました。

 妻の死を確認した後、妻に対して性行為に及びました。死姦という事になりますが、俺にそういった性的志向はありません。飽くまでも、何者かが押し入り、妻を強姦した状況を偽装する為に行ったまでです。精液から身元が判明する事くらいの知識はあったにも拘わらず、あの時は何故か考慮しませんでした。

 救急隊への通報は、明け方近くまで待ちました。泥酔で帰宅し、そのまま数時間は眠りけていたていにし、その間に犯人が一連の所業に及び、正面ゲートから防壁外へと逃げた事にしたかったからです。

 犯行の数週間前、〔ネオテク〕を犯人に仕立てる考えが浮かびました。卑属への差別感情は否定しません。〔ネオテク〕と言えば卑属の職業という価値観が世の中に浸透していますから、それを利用しました。被害者が尊属で、加害者が卑属となれば、俺は尊属社会の同情を買い易いですし、警団隊も、卑属ならばやり兼ねない、と納得し易いと思いました。

 

 実は3年前の一時期、俺は〔ネオテク〕をやっていました。尊属ともあろう者が、それも無許可の白テクで小遣い稼ぎをしていました。妻から再三に亘って飲酒を禁止され、すっかり財布の紐を握られてしまい、酒代を捻出する為に止むを得ず始めた次第です。日銭を稼げるのが最大の魅力でした。

 しかし、子供時分から体型に恵まれず、現在も体力にはまるで自信がありません。思ったようには稼げませんでした。皮肉な事に、酒の為に始めた仕事に自尊心を傷付けられ、更に酒への依存度が高まりました。

 酔いどれの〔ネオテク〕に客が付く筈がありません。自己嫌悪と自暴自棄とにむしばまれた俺は、3年前の或る夜も泥酔で街を徘徊していました。そして事故に遭い、生死の境を彷徨さまよいました。

 それでも、俺は〔ネオテク〕に未練があります。信じて貰えないと思いますが、包み隠さぬ本心です。出来る事ならば一人前の〔ネオテク〕として大成したかったと、今でも思っているのです。

 もし事件当夜に〔ネオテク〕を拾えなかったら、俺は殺人を断念したかも知れません。何故、ハヤオと出会ってしまったのか――。


              ◇


≪供述調書:乙≫(抜粋)

 私が女を殺害した事に相違ございません。

 午前1時過ぎに住居へ侵入し、部屋で寝ていた女の首をその場にあった電気コードで絞めました。

 女の死を確認した後、性行為に及びました。死姦という事になりますが、私にそんな性的志向はありません。女が騒いだので偶さか順序が逆になったに過ぎません。精液から身元が割れるなんて事までは考えが及びませんでした。

 救急隊への通報は、明け方が近付いた頃にしました。当初は女を犯したら直ぐに逃げようと思っていましたが、何故か暫くその場に留まり、挙げ句に良心の呵責でも感じたのか、通報をしてから逃げた次第です。

 尊属の女を犯したいと思い立ったのは、ほんの数週間前でした。尊属への嫉妬感情は否定しません。〔ネオテク〕は卑属の職業というイメージが世の中に浸透している事が我慢ならず、逆恨みをしたのです。被害者が尊属で、加害者が卑属となれば、卑属社会はさぞかし、ざまあ見ろと盛り上がるだろうと思いましたし、密かに私を英雄視してくれるのではないかと考えました。

 

 私は3年前から〔ネオテク〕をやっています。より稼ぎが大きい無許可の白テクです。酒代を捻出する為に止むを得ず始めた次第です。日銭を稼げるのが最大の魅力でした。

 しかし、子供の頃からひ弱で、今だってスタミナが持たなくて思うように働けません。皮肉な話、酒の為に始めたのに自信を失うばかりで、更に酒を求めるようになりました。

 酔っ払いの〔ネオテク〕に客が付く訳がありません。何が何だか分からなくなった私は、或る夜、ぐでんぐでんで街を彷徨うろついていました。そして事故に遭いました。もしかしたら、私はあの時に死んでいたのかも知れません。

 あんな目に遭っても、私は〔ネオテク〕に未練があります。信じて貰えないかも知れませんが、本当に本当です。出来る事ならば一人前の〔ネオテク〕として大成したかったと、今でも思っているのです。

 もし事件当夜にフォー・シーズン・タウンへ帰る尊属と出会わなかったら、実行には至らなかったと思います。


              ◇


≪精神鑑定書≫(抜粋)

 本被告は離人症、解離性健忘、或いは解離性人格障害の症例に合致する言動が多々見受けられる。結論から言えば、尊属としての人格と、卑属としての人格とが同居している可能性が極めて高い。

 本件には不可解な事柄が数多く見られるが、最も特徴的且つ本質的であるのは、事件当夜に於いて二つの人格が同時に出現、或いは目紛しく交代していたと解釈せざるを得ない点である。この事が、二つの供述調書に矛盾や相補的部分が存在する理由だと思われる。

 どちらの人格とも、過去に〔ネオ・テクシー〕に従事していた時期があると主張するが、何方の場合も非認可営業の所謂いわゆる白テクであったとするならば、第三者に依る客観的証拠を示し得ないのは当然で、従って同主張は本被告の虚偽乃至妄想と断定して差し支えないと考える。

 但し、留意すべきは、〔ネオ・テクシー〕業界内でまことしやかに囁かれているIDゼッケン880の風聞が本被告の主張を証明する材料として不充分な事は言をたないものの、本被告が自ら880ハヤオと名付けた未確認人物と自身とを同一視した事が、同主張の源泉となった可能性が高い点である。

 また、どちらの人格も酒類への執着、並びに所属階級への懐疑や違和感を有し、それが妻、引いては女性一般への憎悪として結実し、今般の犯行の引き金になったとする解釈が現実的に最も理解し易い。

 尚、人別戸籍帳簿に当たったところ、本被告は元々卑属階級に生を受け、名誉枠の貰い子として尊属階級へ転生していた事実が明らかになった。この稀な出自が精神疾患及び犯行の遠因になったであろう事は想像に難くないと附しておく。

 この鑑定結果は減刑の要件となり得ると解するが、今日までの判例に未だ統一基準が示されていない事実を鑑みれば、本件の取り扱いには慎重を期する必要があると言わざるを得ない。以上。

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