第4話 伏魔殿②
四畳半程度の広さしかなく、窓が一つの部屋に張華は通された。窓には格子がはめられ、出入り口は外側から鍵が掛かる。
そこに強面の衛兵と二人きり。
張華は窓側の座布団に座らせられ、衛兵は扉の前に胡座をかいていた。恰幅が良く、口の周りの髭や色黒の肌がどこか強そうで、威圧感がある。扉の幅と同じくらい横にでかい。
知らず知らずのうちに正座をしていた張華が緊張で肩をいからせながら、衛兵に恐る恐る尋ねた。
「あの……」
「なんだ?」
衛兵が顔色一つ変えずに、低い声で返す。張華は岩と話しているかの様な感触を覚え、より夢心地に思った。
「えっとー…。私、なんでここにいるんですか?」
岩の様な門番、
「お前さんよ…。あんなことしておいて、何故わざわざそんな事聞くんだ?」
「えっ?なんかしました、私」
張華が何のことか分からずに頬をかいた。岩男が眉間に皺を寄せた。
「おいおい、詠星第一執政官殿を殴っていたろう?何を言っているんだ、お前さんは。寝ぼけているのか?」
「あー、それは事故みたいなもんです。気にしないでください」
「事故?気にしない?いやいや、そんなサラッと流せる話でもないだろう。お前さんは自分のした事の重さを分かっているのか?」
「いや、ほんと事故みたいなもんなので。事故というか、むしろこちらが貰い事故というか…」
さした問題でもないという風な張華を、岩男が慌てて否定した。
「いやいや、待て待て!そうじゃないだろ。どんな破天荒な野郎でも、人を殴るのが普通な訳なかろうよ。しかも、相手は第一執政官殿だぞ?そもそも、殴るはおろか、お前のような小娘が話せる相手でもないのだ。にも関わらず、お前は何度も何度も笑顔で殴っていたのだぞ?」
「いやいや、偉そうにしてますけど、アイツただの引きこもりですから。大体、拉麺ばっか食ってる拉麺マンですよ」
「なっ、アイツ?!ら、ラーメンマン?!お前さん、正気か!?」
岩男が思わず顔をぶるっと振って、信じられない顔で張華に尋ねた。張華もその圧に推されて思わず少し身体を引いた。
「いいか。今一度深呼吸でもして、落ち着いて考えてみろ」
「すー…はー…」
「よし。では、お前さんよ。今何を言っているか分かっているのか?あの方は第一執政官殿だぞ?分かるか?」
「えぇ、まぁ、役職までは知りませんでしたけど、なんか凄い占い師なんでしょ。それだけは知ってますよ。それ以外は興味ないし、知りません。あーでも、まぁ、クソ野郎ですよね。それも知ってます」
「ゴホン…まぁ、それは言うな。しかし、とにかくお前の様な小娘が関われる人ではない」
「そんな事ないと思うけどなあ」
「こほん。更に言うと、友達みたいにスキンシップで殴れるような人ではないのだ。お前さんのような庶民的な顔をした小娘が、そんなお偉い方を殴って良いわけがない。しかし、実際に殴っている奴がいた。しかも、笑顔で。オレたちから見たら、危険人物以外の何者でもなかろう。だから、お前さんは捕えられているのだ。お前さんは非常にまずい状況なんだぞ?それが分かっているのか?」
「ふふっ。そうやって言われると、なんか私凄いやばい奴みたいですね。あはは、ウケる」
「いや、ウケるな」
笑う張華に、岩男は慌てながらすぐに突っ込んだ。
「お前、今までの事を良く考えてみろ。いいか、オレの目から見たら相当なやばい奴だぞ?笑いながら偉い人を殴り、殴るのを不可抗力と言い張り、更に凶悪犯と言われて笑っているのだ。やばくないか?」
「えへへ。そんなことないですって。もう、岩さんも随分と盛り上手ですね。まるで、講談師。よっ、岩男!」
「岩男……?誰だ。いや、まぁ、それは置いておこう。しかし、よくこの状況で笑っていられるな。お前さん、相当メンタル強いぞ。大抵の奴は縮こまって上手く話せんのだ」
「てへへ。それほどでも」
「ほめとらん」
「あっ、いや、私だってそうでしたよ!最初はね。ただ、岩さんが面白い事言うから、つい興が乗っちゃって。あははは」
「お前さん、本当にすごい奴だな…。一体何者なんだ……」
呆れる岩男を前に、張華は自分の状況を見誤ったまま大笑いしていた。
そこにノックの音がして、衛兵と共に眼鏡に栗毛の気の弱そうな少年がやって来た。
「ふーっ、やっと見つけました。貴方が張華さんですね?詠星第一執政官より案内する様に言われていました、私
中路は苦笑いで頬を掻いて張華に尋ねた。
「何でこんなところにいるんです?」
「えへっ」
張華はとぼけて誤魔化した。
【打切】高飛車占星術師と私の異世界事件簿 チン・コロッテ@短編で練習中 @chinkoro
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