刻を超えた桜の天使、香りとともに舞い降りる

 主人公の風向織斗と、少女・佐倉優季奈との偶然の出会い。すべてはそこから始まります。幾多の困難を乗り越えようとする織斗。それを支える仲間の絆。彼の心の成長が、刻を超えた神秘の巡り合わせが、織り成される重層的で繊細な筆致として彼の人生に浸透し、幽玄の境地へと導く流れは、さながら夢心地のようです。
 心理・情景描写が比類なき臨場感に棲む美しさで紡がれ、ミステリー要素として張られた応力の異なる伏線も、丁寧に手繰り寄せるように回収される展開が素晴らしく、物語の進行に伴い、非常に高い完成度を感じます。これ程までに随所でみられる作者様の本作へ賭ける愛と情熱。まるで大きな包容力で包み込まれていくようです。
 本当にこの物語を選んで読んでいてよかった、間違いなかったと心から思える、純真で心温まる涙色の傑作です。

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