主人公・綾香のアカウントがある日突然乗っ取られ、『クラスの女王』こと城崎から合成ポルノのいじめと冤罪の被害に遭ってしまう衝撃的な展開。
取り巻きの生徒は誰も助けてはくれない。
羞恥……悲嘆……憤怒……
教室内に広がる息苦しいディストピアが全面的に展開され、陰惨なシーンが強烈に脳裏に焼き付くことでしょう。
しかし、救いの手を差し伸べるユートピアは存在しました。
彼女を匿い助けた神木先輩。彼らは隠れた部室で自らの創作活動をAIに頼らず自身の手で成し遂げようとしていたのです。
生成AIに頼る手早な感情と欲望。
かたや人の手が施す丹精を込める理性と情熱。
この対比が筆舌に尽くし難い妙味を醸し出し、物語をより深化させている点でとても印象的です。
AIをはじめとするSFがもたらす功罪を、学園という閉鎖的な世界で上手くまとめられています。
スケール感をあえて抑えたのか、その分与えるインパクトは相反して膨れ上がるかのよう。
生成AIによる功罪が問われる昨今。
その一端を再認識できる価値ある一作です。
願わくば、すべてを機械のせいにしたくはない。
機械を操るのもまた、分別の先にある人間の心なのだから。
ディストピア。社会が歪んだ価値観に支配され、人間が人間らしく生きられず、鬱屈とした状態を享受せねばならない社会。
この作品で描かれるのは、生成AIによってもたらされる息苦しさです。
創作活動は全てがAIに持って行かれ、小説などを書いている人間は気持ち悪いと揶揄されるまでになっている。
主人公の綾香はしょっちゅう電子機器を壊してしまう体質の持ち主で、そうしたものからは自然と距離を置くような状態になっています。その上でこっそりと小説をノートに書きしたためる生活を送っていた。
しかし、そんな彼女の身にある日事件が起こり……
ディストピア作品というと、基本的に社会全体を描くようなものが多いのが特徴です。
その一方で本作は『学校』という範囲にのみ焦点を絞り、そこで生きている大多数の『歪み』を描きつつ、主人公の少女が抱える息苦しさ、そんな中で見つけられる『居場所』による救いが描かれて行きます。
日常スケールでディストピア作品が描かれるということは切り口として新しく、新鮮な気持ちまで最後まで一気に読めました。
ラストのオチの付け方も、一種のシニカルさと共に、「人間にとっての幸せとは何か」というのがテーマとして掲げられるようで、とても完成度の高い作品となっていました。
これから本当に到来する可能性のある未来を描いているものでもあり、多くの人にオススメしたい一作です。
――美しくも切ない世界観が好きな貴方へ。
皆様、グリザイユ画法をご存知ですか?
絵を描く際、最初に白黒で陰影をつけてから、色をつけてゆく手法です。
この物語はグリザイユ画法で描かれる世界に近いと、私は感じました。
初め灰色の世界しか存在しなかった主人公の世界に、色が一つ一つ落ちて彩られていきます。
AIに創作活動を奪われた世界で生きる主人公。それでもなお創作活動を続ける彼女には居場所がありませんでした。
しかし、ひょんな出来事から、彼女は創作活動が自由にできる理想郷を手にします。
さて、物語の最後にはら彩られた世界に真っ黒なインクが落とされてしまいます。
それはなにか?
読んでからのお楽しみです。